街案内
まだバトルしません。
軽い設定だけなので、流し読みしても問題ないと思います。
戦闘がいつになるか、ちょっとわからないですが、しばしの辛抱を。
「お兄ちゃん!」「リューヤ!」
「ん?」
広場を出た後、リィナと姉ちゃんに呼び止められた。
「お兄ちゃん、本当にソロでやるの?」
「リューヤ……」
二人は俺を心配してくれている。
「ああ。俺は、早くここから出たい。ゲームなら楽しみたいが、もう一つの現実世界みたいになったらゲームじゃないしな」
姉ちゃんとリィナを無事に元の世界に返したい。
「でも……」
「二人にお願いがあるんだが」
不安そうなリィナを遮って言う。
「何?」
「今日はもう宿とってのんびりしようかと思うんだが、いい宿ってないか?」
「うん、それくらいならいいよ」
「しょうがないわね」
二人は苦笑しつつも、宿に案内してくれた。
▼△▼△▼△
「宿、三人分お願いします」
姉ちゃんが宿の受け付けに言う。
「三人? 姉ちゃん達も泊まるのか?」
他にいないが。
「今日くらい、いいでしょ?」
リィナが上目遣いで言う。
「……あ、ああ」
ふむ。将来リィナの旦那さんは幸せだろうな。我が妹ながら。
「リューヤ、宿とってどうするのよ?」
「ん? どうするって、泊まるんだが?」
「……そういうことじゃなくて」
違ったか。
「ああ、この世界で暮らすんだったら、とりあえず寝る場所がないといけないからな」
早めに宿とっとかないと。
「そういうことね。よく冷静に考えられるわね」
納得して、半ば呆れたように言う姉ちゃん。
「まあ、どこか楽観的なんだろうな」
俺は自嘲気味に笑って言う。
「今日は、フィールドに出るの?」
「……いや。今日は宿でのんびりするつもりだったんだが?」
少し不安そうなリィナに言う。
「えっ? そうなの? てっきり、今日からやり始めるのかと思ってた」
リィナが意外、という風に言う。……いや、俺だって死に急ぎたくはないしな。
「ま、姉ちゃん達もいることだし、街ん中でも案内してもらおっかな」
結局のところ、暇だしな。
「いいよ、お兄ちゃん」
「任せて」
姉ちゃんとリィナは快く引き受けてくれた。
「ここが、NPCの道具屋よ。薬師、調薬師とか、そういう職業の人の方がいいのが作れるけど、今はこっちしかないわ」
ふむふむ。重要な場所だな。
「ここがNPCの鍛冶屋だよ。武器の強化とか生産をしてくれるけど、プレイヤーの方がいいのが作れるから、あんまりオススメしないかな」
ふむ。やっぱ生産職はプレイヤーが一番か。
「ここが武器屋ね。NPCが一定のゲーム進行度に合わせて武器が追加されていくわ。プレイヤーの鍛冶職の方が安く、いいモノが作れるけど、最初だからちょっと見た方がいいわね」
姉ちゃんはそう言って武器屋に入っていく。俺は少し慌てて姉ちゃんの後に続く。
カランカラン。
店の中に入り、周りを見渡す。少ないが、プレイヤーも数人来ていて、武器を見ている。
「お兄ちゃんの武器は?」
「えっと、片手剣と杖、だな」
リィナに聞かれて答える。
「まあ、魔法戦士としてはいい武器だね。お兄ちゃんのレベルだとキツいけど」
……リィナはやや怒っているようだ。言葉に棘がある。
「ワンドとかもあったんだが、良かったのか?」
「うん。ワンドより杖の方がINTが高くなるの。だから、正解かな」
それは良かった。低かったらどうしようかと。
「所持金っていくら?」
今度は姉ちゃんだ。
「所持金? 皆一緒じゃないのか?」
普通は一緒だろうに。
「違うよ。ステータスと一緒で、金運が必要なの」
へぇ。……じゃあ、俺の所持金はっと。
「……30G」
少なっ! 何が買えるんだよ。
「……うん。武器は諦めよっか」
リィナが宣言する。まあ、30Gで何かが買えるとは思ってないけどな。その辺の武器は何百単位だし。
「そうなると、防具も無理ね。防具屋は場所確認だけにしましょうか」
姉ちゃんまで……。そんなにひどい金額なのか?
「なあ。俺の所持金ってそんなに低いのか?」
防具屋に向かう途中、二人に聞いてみた。
「「低い」」
声を揃えて言った。
「平均が1000ぐらい、最高が3000って言ったらその低さが分かるかしら?」
……俺の所持金の百倍かよ、最高は。
「βテスターは2000って決まってるからいいけど、30はちょっと……」
心優しいリィナが目を逸らしただと? まあ、100単位でもなくて、10単位だしな、当たり前か。
「ステータス運が良くて、金運が悪かったってことか」
ついてるんだかついてないんだかよくわかんねえな。
「うん。じゃ、次行こっか」
金はモンスター狩りで稼がないとな。
「ここが防具屋だよ。システムは武器屋と同じで、進行度に合わせて追加されてくけど、今のお兄ちゃんじゃ買えないから寄らなくていいね」
おおう? リィナが辛辣になったぞ? そんなに怒らせたか?
「ここがギルド案内所よ。中には入らないけど、今あるギルドとそのメンバー、平均レベルとかがわかるのよ。今は、『戦乙女』、『ナイツ・オブ・マジック』、『軍』、『一夫多妻』、『狂戦騎士団』、『暗黒魔術師団』ぐらいだと思うわ。つまり、βテスト時のギルドってことね。『戦乙女』は同年代の女子限定のギルドだし、『ナイツ・オブ・マジック』も魔法と剣を両立するのを目標とした善人が選抜されるし、『一夫多妻』は男一人女数人で、条件はその男を好きなことだから、ほとんどの人がその他のギルドに入ってるわね」
色んなギルドがあるんだな。まあ、俺はソロでやってくつもりだが。
「暗くなってきたし、宿に帰ろっか、お兄ちゃん」
「ああ」
リィナの提案に乗って、宿に帰ることにした。