蛇の狡猾なる罠
「あら。ナーガじゃない。人間なんか連れてどうしたの?」
「わかっていると思いますが?」
「……確かに。いい感じ」
奥にいたのは二人の女性。
長い金髪に黄色い瞳をした美女。下半身は蛇だが。頭に金の王冠のようなものを被っている。
長い黒髪で右目を隠している。左目は紅い。下半身は蛇だが、八本あり、背中から七つの蛇が生えていた。
「バジリスクとヤマタノオロチか」
道中ナーガに聞いた通りだな。
「……バジリスク」
「わかってるわよ。先に攻めやすい方から攻めるのが常識よね」
バジリスクの風貌が変化する。
上半身が完全に大蛇のそれとなり、頭に王冠のようなトサカがある。
「まずいです! バジリスクの石化が来ます!」
「どうしたらいいんだ!?」
「私が何とかします! 動かないでください!」
ナーガはそう言うと、後ろから俺に抱き着いてきた。
「ナーガ!?」
背中に伝わる柔らかな感触を頭から追い出しながら、ナーガの行動に驚く。
「動かないでください。私達のような上位の蛇は全状態異常に耐性があるんです。邪眼を防ぐには私がリューヤさんに巻き付いてリューヤさんに届かないようにするしか……」
「……わかった。ありがとう」
礼を言って、大人しくナーガに巻き付かれる。
「……」
ナーガの下半身の蛇の部分で足から頭まで全身が包まれる。
「ふふっ。【石化の邪眼】!」
バジリスクがそれを発動させたようだ。俺は隙間なく巻き付かれてるので、光も見えない。
「……そうやってするってわかってた」
それしか方法がないんだから、読まれるのは仕方がない。
「今よ、ナーガ!」
「えっ……?」
バジリスクが呼んだ名前は、俺を守ってくれてるハズのナーガだった。
「っ!?」
途端、首筋に鋭い痛みが走った。
「……ふふっ。言われなくても」
首に息が吹きかかる。
「くっ! ナーガ……!」
距離感からして、ナーガに咬み付かれている。
「うっ!」
咬みついたその牙から、俺の中に何かが流れ込んでくる。
「……ふぅ」
ナーガは牙を抜いて、一息つく。
「ナーガ、何で……」
首元まで巻き付かれて動けない状態で、ナーガを振り向く。
「凄いですね。即効性の麻痺毒なんですが。リューヤさんは思った通り、かなりのレベルなんですね。毒の侵攻はレベルにも依存するんですよ」
モンスターがレベルを気にするなんて、聞いたことないぞ!? ……この罠といい、狡猾でずる賢い策略といい、何だ? 普通のモンスターとは明らかに違う。
「私達三人は白蛇様に知恵を貰ったのよ。人族と契約することで蛇神になれるって。そしたら、あの忌々しい女にも復讐出来るって」
白蛇様? 忌々しい女?
怒りのこもった表情で言うバジリスク。
「ふふっ。白蛇様は私達蛇の頂点に立つ存在です。親を殺された私達の復讐に手を貸していただき、親を亡くして嘆いていた私達に救いの手を差し伸べてくださったんです。……親を殺したのはーーメドゥーサ」
ナーガが囁くように説明する。
「……じゃあ、何で、こんなことを……?」
段々と舌が回らなくなってきた。
「……強い人を誘き出すため。このクエストを受けて死んだ人が多ければ、嫌でも強い人が来る」
っ!
「その、ために、人を、殺してた、のか……!」
「違いますよ。リューヤさんは何ともなかったみたいですが、私に巻き付かれて生きていた人がいなかっただけです。隙間をなくすためには強く巻き付かないといけませんから。それに耐えうるだけの力がなかったんですよ」
「……悪気が、あって、殺したわけ、じゃないのか……?」
「ええ。……まあ、生け簀かないヤツだったら、ちょっと強く締め付けるようにはしてるけど」
……殺してるんじゃないか。
「……うっ、あっ」
口が回らない。俺の頭上にある名前の横に、雷のようなアイコンがあった。
ーー麻痺だ。
「やっと効きましたか。では、大人しくしててくださいね」
全身が痺れて言うことを聞かない。
「っ!」
ナーガがまた俺の首筋に咬み付き、おそらく何かを注入した。
もう、段々と感覚がなくなってきている。
「安心してください。私達はリューヤさんを殺す気はありません。今睡眠毒を入れました。……ゆっくり眠ってくださいね」
ナーガが牙を抜いて囁く。
「……」
急に瞼が重くなって、頭がボーッとしてくる。
最後に見たのは、麻痺アイコンの横に増えたZが三つ連なっているアイコンーー睡眠の状態異常だった。
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「……ん?」
俺は目を覚ます。
だが、まだ頭にモヤがかかっているようで、身体も痺れている。
「ん?」
ここはどこだ?
見慣れない場所だった。床に魔方陣が描かれていて、壁や床、天井はピンク。俺はでかいベットの上にいる。
「リューヤさん、目が覚めましたか?」
ナーガが左から俺の顔を覗いてくる。……どこにいたんだ?
「リューヤ、いい身体してるわね」
バジリスクが右から微笑みながら言う。……だから、どこにいたんだ?
「……リューヤ」
ヤマタノオロチが俺の下腹部の辺りに座りながら言う。
「だから、どこにいたんだ?」
思わず、声に出してツッコんだ。
「……蛇は隠れるのも得意。私達がいるのに気付かなかったのはリューヤが麻痺してるせい。リューヤがバジリスクの方を向いても気付かなかったのはいなかったから。バジリスクはベットの下に隠れてた」
なるほど。
「って、何で三人共全裸なんだよ!?」
しかも、下半身まで人だし。
「……興奮する?」
ヤマタノオロチが俺の腹を指でなぞる。思わずゾクッとなったが、
「俺も全裸!?」
もっと重要なことに気付いた。
「ふふっ。リューヤさん。契約とはその……人と躰を交えることなんです」
「なっ!?」
マジか!?
「だからおじさんとか、論外でしょ?」
まあ、確かに。
バジリスクの言葉に納得する。
「って、納得するか!」
思わずノリツッコミになってしまった。
「……大丈夫。優しくするから」
「何でそんなに乗り気なんだよ!?」
ヤマタノオロチが微かに微笑んで言う。
「リューヤさん。年頃の女の子は性に興味津々ですよ?」
全員が全員そうだということはないだろ。
「さあ選んで。麻痺毒で身体を動かせなくしてから一方的にされるか、リューヤがノリノリで三人相手にするか」
「……中止ってのは?」
「ないわよ」
取りつく島もなかった。
「……リューヤの躰は正直」
ヤマタノオロチが自分の後ろを見て言う。
「っ~~~!」
思春期の男子ならそうなる。三人の美少女が全裸で迫ってくるとか、理性吹っ飛ぶだろ。
「どうします?」
「……はぁ。わかったよ。麻痺毒はいらない」
「じゃあ景気よく、リューヤが三人の女の子を侍らせてる感じで……」
バジリスクが一番乗り気だった。
この日、俺は脱童貞をしたのだが、まさか仮想世界でするとは思わなかった。……それもモンスター相手に。
さらにいきなり4Pという難易度。しかも、バジリスクが色々詳しくて様々なプレイをしてしまった。
何故かエロいことになってしまいました。
この作品ではそういうことをしない予定だったのに、何故でしょう?
今後はないと思いますが。
蛇の話はあと二、三話続く予定です。




