鎌鼬のカイ
時間が飛びます。
「……ふあぁ」
俺は大きく欠伸をする。
今日は前々から話し合っていた、エアリアとのクエストの日だ。
エフィとナーシャの方は新メンバーの指導で遅れていて、結局、二ヶ月経った今でも実行出来てない。
エアリアとは一ヶ月前に誘われて、受けた。
「さて、いくか」
俺はゆっくり起き上がって、宿屋の部屋を出た。
▼△▼△▼△▼△
「よっ」
待ち合わせ場所に立っているエアリアに声をかける。
「ああ、リューヤ」
今回のクエスト『疾風の鎌鼬』は疾風の草原というフィールドにいる。内容は、鎌鼬を倒すか説得すること。エアリアは俺でいうアルティのような相棒が欲しいらしい。
エアリアの速度についてこられる、『テイム』をゲット出来るクエストがこれだった。
「行こうぜ」
「ああ」
俺とエアリアは疾風の草原に向かう。
▼△▼△▼△
「この辺か?」
木が少ない。サバンナの草原に近いだろうか? 前に来た時はアルティがはしゃいでた。草原の覇者だからな。
「そのハズだが」
「あんちゃんら、何しに来とんねん」
「「っ!」」
近くの木から声が聞こえた。
「そない警戒しなさんな。俺は誇り高き妖怪、鎌鼬や。俺を退治しに来よったんか?」
「いや。説得しに来た。鎌鼬、俺の所に来ないか?」
エアリアは木の上にいる緑毛のイタチのようなヤツに答える。大きさはアルティより大きい程度だ。
「ふーん? あんさん、職業は何や?」
「忍者だ。今は暗殺忍者だがな」
「おぉ! 俺の故郷、大和の職業やないかい! 道理で俺んとこ来よったわけか!」
鎌鼬は笑って喜ぶ。……こっちじゃ日本は大和なんだな。
「ああ。俺の動きについてこれるヤツが欲しくてな。鎌鼬、お前なら出来ると思ったんだ」
「当たり前や! 俺が人間に遅れを取るわけないやろ! ……まあ、口だけ達者なヤツもおるもんやしな。実力見たる。俺に一撃でも当てたらええで」
……まさかの、モンスターがルールを決めた。俺、必要ねえじゃん。
「二人がかりでもええ! 俺に一撃当ててみぃ!」
シャッ、と鎌鼬が高速移動を始める。
「むっ。俺でも目で追える程度か」
「……速いな。ほとんど見えねえ」
霞んで、大体の位置がわかる程度だ。
「だが、問題ない」
シャッ、とエアリアが本気で鎌鼬を追う。
「……モンスターと同等ってどうよ?」
獣か、あんたは。
エアリアと鎌鼬はほぼ互角のスピードで、鬼ごっこをしていた。
「ええな! あんさん最高やで!」
鎌鼬の嬉しそうな声が聞こえる。
「【三本クナイ】!」
高速移動の中、エアリアが鎌鼬に向かってクナイを放つ。
「ちぃっ!」
キキィンという金属音と共に、クナイが弾かれた。
「「……」」
両者は一時止まる。
エアリアは両手に手裏剣とクナイをいくつか持っている。
鎌鼬は両手が鎌になっていた。
「あんさんええなぁ。名前を聞こうやないか」
「エアリアだ。お前は?」
「鎌鼬のカイや。よろしゅうな」
自己紹介はともかく、二人共息が乱れていない。スタミナが半端じゃなかった。
「まあ、あんさんええけど、世の中にはもうちょい上がいるんやで。俺にはよ一撃入れて、一緒に戦おうや」
「そのつもりだ」
エアリアは両手の手裏剣とクナイを一斉に投げる。
「【カマイタチ】!」
鎌鼬は両手の鎌を振り回して風の刃を放ち、手裏剣とクナイを弾く。
「甘いな」
投擲を牽制に、エアリアは鎌鼬の背後に回っていた。
「やるやないか! だが、俺には風の壁があるんや!」
鎌鼬の周りを風が渦巻いてエアリアの攻撃を阻むーーことはなかった。
「なっ!?」
エアリアの持つ風切りの小刀。アリシャ曰く、風なら切り裂ける。
「俺の勝ちだな」
エアリアは鎌鼬の頬に浅い切り傷を付けた。
「何や、そないな傷でええんか?」
「ああ。これからは相棒になる相手だからな」
「おもろいな! 改めてよろしゅうな、エアリア」
「ああ。こちらこそよろしくな、カイ」
こうして無事、鎌鼬のカイはエアリアのテイムモンスターとなった。
▼△▼△▼△▼△
「エアリア。あんさん、こないな美人の女がおったんか」
「美人だなんて、ありがとうございます」
アリアはカイに褒められて照れていた。
「ええ女やんけ。俺も故郷にいた頃はモテモテやったんや。もし俺の女がおったら、アリアはんにテイムしてもらうわ」
「……マスターとテイムモンスターでイチャイチャする気か」
俺は三人の様子を眺めて、聞こえないように呟いた。
「ダブルデートですね」
「まあ、そうだな」
「白い兄ちゃんの言う通りなったらええなぁ」
……忍者は聴覚がいいようだった。
「ところでエアリアとアリアはんはどこまでいったんや? Cか? Dか? Aはさすがにないやろ」
ん? ABCってあれか? カップルがどれだけ進んでるか、みたいなヤツか?
「……むぅ」
「……えーっと」
二人は返答に困っているらしかった。まあ、おいそれと人に言えることじゃないもんな。
「手、手を繋ぐぐらいは……」
「「はあ!?」」
俺とカイがすっとんきょうな声を上げる。
「そない奥手でどうすんねん! 小学生かあんさんら!」
「Aがキスだろ!? それ以下って何だよ! 小学生か!」
最後のツッコミが同じだったのは、仕方がない。
「……そう言われても、な」
「エアリア様が奥手なだけですが」
「「……ああ、そういうこと」」
アリアの一言で何故か納得する俺とカイだった。




