番外編:桜の木の下で無礼講
遅れました。
ついに花見イベントは最終日。
一部のギルドが協力してIAO桜三大名所を探索中だ。夜には見つけ、一般のプレイヤーが入れるように、鍵を手に入れなければならない。
夕方には三ヶ所全てを見つけ、花見祭りを開催することが、今ギルドに求められている。
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「キュキュッ!」
アルティが俺の肩で嬉しそうに声を上げる。
「……おっ? 綺麗なとこだな」
俺はアルティの視線の先にある、桜の木々を見上げる。
「行ったこともあるし、テレビで見たこともあるよな」
長野県の高遠城址公園に似てる。……家族で行ったなぁ。確か、俺が高一の時に見たな。
「……キュウ」
アルティが真剣な声を出す所にはモンスターが闊歩してるからな。アルティもそれを感じ取ったんだろう。
「……まあ数は少ない。というか、無制限に発生するわけじゃないんだよな。制限アリの、確か三、四十体だって言ってたな」
アリシャが。
「……アルティ、下見がてらに戦闘準備だ」
「キュウッ!」
「『ウエポンチェンジ』」
俺はアヴァロンソードとブレード・オブ・ロッドを両手に呼び出す。……そういえば、何で俺は普段徒手空拳なんだろうか。
……なんとなくか。
「……う~ん。真剣にやるのはいいんだが」
雑魚モンの三十や四十はいつも狩ってるしな。そこまで時間がかかるわけでもない。
「アルティ、今日は一人で戦ってみるか?」
「キュ、キュ~!」
アルティは慌てたようにぺちぺちと俺の頬を叩く。
「嫌なのか?」
アルティなら一人でも三十体や四十体はいけると思うんだが。
「……キュウ」
可愛らしく縮こまって頷く。
「じゃあ、俺も一緒に戦ってやるから、なるべく一人でやってごらん?」
アルティを肩から地面に下ろして言う。
「キュ~」
アルティは俺のズボンの裾をギュッと掴む。……可愛い。
「……ったく。しょうがないな。ちゃんと一緒に戦おうな」
「キュウッ!」
嬉しそうに鳴いた。
「よしっ。さっさと狩って特等席で花見しような!」
「キュウッ!」
俺とアルティはノリノリで高遠城址公園を探索し始めた。
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「くっ!」
俺は呻きながら敵の攻撃を避ける。
「キュキュッ!」
アルティがててて、と俺の元に走ってくる。
「……俺は大丈夫だ。ちゃんと目の前の敵に集中しろ」
「キュ、キュ~」
アルティは心配そうに俺を見上げてくる。
「大丈夫だから、な? 全然HPも減ってないだろ?」
今現在、進行形でボス戦真っ最中だ。四十体のモンスターを倒した後、ど真ん中にボスが出現する仕組みになってるらしい。
敵モンスターの名前はチェリンゴ。チェリーなんだかリンゴなんだかはっきりしない名前だ。姿はフルーツ玄武みたいだ。リンゴを背負った亀にチェリーが連なった蛇が巻き付いている。
……良く燃えそうかも。
「ま、ここじゃ火気厳禁だけどな」
だって花見の場だぜ?
「アルティ、速攻で決めるぞ」
「キュウッ!」
アルティの速さがあれば俺も攻撃しやすいし、敵も翻弄出来る。
「【クロス・クロス】」
両手を交差するように振り下ろす。そこからさらに両手を広げるように振り抜いた。
「アルティ!」
若干のタイムラグがあり、振り抜いた姿勢で固まる。
そこでアルティに追撃をしてもらう。
「キュウッ!」
「チェッリンゴ!」
アルティが自分の影から漆黒の刃をいくつも出してチェリンゴに伸ばす。
チェリンゴが奇妙で低い声を出しながら、蛇の方のいくつかの実が飛んでいく。
互いがぶつかり合い、爆発した。
「っ!」
それなりの規模の爆発で、しかも数があって、俺は爆風で吹っ飛んだ。
「……厄介な敵だな」
蛇の体全部が爆弾だとすると、かなり迂闊には攻撃出来ない。
……何とかあっちで爆発させられればいいんだが。
「チェアァ!」
……蛇が単体で突っ込んできた。
「って、ヤバい!?」
俺は向かってきた蛇を紙一重でかわす。
「キュウ!」
危ない! 的な意味だな。
俺はアルティの声に反応して、蛇が飛んでいった後ろを向く。
「っ!?」
蛇が眼前に迫っていた。
「――あっ」
蛇が俺に当たり、先頭が爆発を起こす。さらに連鎖していき、俺の体は焼けるような痛みが走った。……実際に焼けてるんだが。
「……」
「キュウッ!」
アルティが近くまで最速で寄ってくる。
「……アルティ、【グロウアップ】」
「キュウッ!」
「敵は取れよ」
俺はギリギリレッドゾーンで残ったHPを見ながら、アルティの戦いっぷりを見ていた。
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「ふーっ。よく頑張ったな、アルティ。いい子だ」
あの後、アルティはチェリンゴを瞬殺し、後から来た『戦乙女』に回復してもらった。
アルティの頭を撫でてやる。
「キュ~」
アルティは気持ち良さそうに目を細める。
「お兄ちゃん、こっちこっち!」
やけにテンションの高いリィナの声が聞こえた。
「ん?」
俺がそっちを見ると、俺の知り合いが集まって宴会というか、花見をしていた。
……何故すでに飲んでいる?
皆の周りには、倒れた酒瓶や樽があった。……樽って。
「お兄ちゃん、早く~」
リィナに呼ばれて皆の方に歩く。
「……未成年が酒飲むなよ」
俺は第一声はそれにした。
「え~? お酒なんて飲んでないよ~?」
顔が赤く、目がとろんとしたリィナが言う。
「いいでしょ、仮想世界なんだし」
姉ちゃんは顔が赤く、据えた眼で言った。
「ぷはぁ! やっぱワインは樽飲みよね!」
……樽を両手に抱えた女性。名前はアリーン。
って、女将さんかよ。
「……アリア」
「……エアリア様」
完全に酔っ払って酒臭いエアリアとアリアが熱く見つめあっていた。
「おらぁ! もっと酒持ってこいや!」
「酒のおかわり!」
『狂戦騎士団』と『暗黒魔術師団』が各リーダーを筆頭に、競い合いながら飲んでいた。
「……お前ら」
俺は頭が痛くなってきた気がして、額を押さえる。
「……飲む?」
酔っ払ったらしいアリシャがアルティに酒を勧めていた。
「キュウッ!」
アルティは嬉しそうにそれを受け取ろうとするが。
「お酒は二十歳から。アルティはまだ子供なんだから、飲んじゃダメです」
俺がそれを奪い取った。
「キュウッ!」
素早い動きでアルティは俺の手から酒瓶を奪うと、一気に飲み干してしまった。
「キュウ~」
心なしか顔を赤くし、ぽわぽわとした雰囲気を醸し出していた。……大丈夫か?
「キュ~」
アルティは俺の胸元にくっついて、頬擦りをした。……甘えん坊になった?
「……アリシャ、何すんだよ」
アルティに酒を勧めるなんて。大体、お前も未成年だろ。
「……リューヤ」
アリシャは俺に、頼りない足取りで向かってくる。
「アリシャ?」
「……リューヤ~」
……アリシャが甘えたような声を出した。
「は?」
俺は酔ったアリシャにくっつかれて、固まった。
「ん~」
アリシャはアルティと同じように頬擦りをした。……酔うとこうなるんすか?
「……アリシャ。いいから離れようか」
「や。このままいる~」
アリシャは変わりない。……まあ、普段とは大違いだが。
「あ~! アリシャちゃんだけズルい! 私も~!」
リィナがぱたぱたと俺の元に走ってきて、左腕に抱きついてきた。
「っ!? おい」
俺は二の腕に当たる柔らかな感触に戸惑いつつも、リィナを振り払おうとする。……アリシャとアルティがいて無理か。
「リィナ。リューヤは私のよ?」
姉ちゃんが逆の腕に抱きついてきた。
「ちょっと待てよ!?」
が、ガシッと後ろから抱きつかれた。
「おわっ?」
俺はすぐ横に出てきた女将さんの顔を見て逃げようとするが、逃げ場がない。
――とか思ってる内に、皆が周りに集まってきた。
「はい、写真撮りますよ~」
NPCに頼んだのか、若い女性がカメラを構えていた。
「集合写真かよ」
俺は苦笑して、記念写真に写った。
これにてこの番外編は完結です。
次話は本編に戻ります。
順番の関係で割り込みで投稿しますのでご了承下さい。




