番外編:嫉妬の花が咲き誇る
「……あの、リューヤさん?」
「……」
人気のない裏路地。そこでリューヤはアリアに迫っていた。その距離、息も重なる距離か。
「……あの?」
アリアは戸惑ったように言う。そう、これは二人で決めた作戦にはない行動だった。
「……アリア」
リューヤの顔がアリアに近付いていく。
その時。
「死ねええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
雰囲気をぶち壊して、黒い影がリューヤを蹴っ飛ばした。
▼△▼△▼△▼△
「がはっ!」
俺はいきなりの衝撃に対処出来ず、壁まで吹っ飛んだ。
「……ててて」
かなり痛い。……どうせ犯人はエアリアだろうが。
「――このクソ野郎が! 俺のアリアに何しようとしてやがる!」
……完全にキレた様子のエアリアさん。……いや、お前のでもないけどな? まだ。
「……え、エアリア様?」
アリアが呆然としていた。……まあ無理もない。あの寡黙で冷静そうなエアリアが見るからにキレているからな。
「……邪魔すんなよ、エアリア」
「ああん? 邪魔はどっちだバカ野郎! 俺はお前がアリアと仲を取り持ってくれそうだから相談したのによ! アリアに手を出してんじゃねえかよ! 殺すぞ!」
……超怖い。誰か助けて欲しいくらいだ。
「元はと言えば、エアリア。お前がアリアに素っ気ない態度取ってるからだろうが。自業自得だ」
「はっ! じゃあこう言えばいいってのかよ!? 俺はアリアのことが好きだ! 現実でも仮想でもな!」
「っ!」
「……」
アリアは赤面し、俺は内心呆れた。
あれだけうだうだ言ってたヤツがキレてコクったんだぜ? ……まあ、思い出して良かったな。
「……ああそうかよ。だが、エアリアは女が苦手だろ? アリアのことは俺に任せてコスプレ忍者軍団作ってろよ」
安い挑発。キレて我を失ったヤツには、適当に煽るように挑発すればいい。
「そんなの関係あるかよ! 俺がアリアを好き、それだけで十分だ!」
エアリアは俺に殴りかかってくる。
「……それで正解だろ」
俺は二人に聞こえないように小さく笑って呟いて、エアリアに殴り飛ばされた。
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「いや~。俺って演技下手くそだよな~」
俺がエアリアに殴られた後、アリアがビンタして事情を説明し、今に至る。
今は三人で花見をしながら夜飯を食ってるところだ。
「……名演技だ。キレていたとはいえ、俺はリューヤの口車に乗せられていたわけだからな」
アリアに説教されてしゅん、と小さくなったエアリアが言う。
「……私も、最後は騙されました。エアリアが殴る時に笑っていたので、演技だと気づけましたが」
あれから、アリアはエアリアに様付けをしなくなった。アリアは口喧嘩で済ませるようだったので、相当お冠だ。
「まあ、俺はこれで去るとするかな。邪魔者は早々に立ち去っとかないと」
俺は立ち上がって言う。
「……エアリアは確かに私に告白しましたが、何故でしょう。好感度が下がったかもしれません」
「……すまん」
……エアリア、尻に敷かれるタイプだな。奥さんに頭が上がらないようになるな。
「んじゃ、ちゃんと仲直りしろよ。……今度は悪い知らせじゃなくて、いい知らせを待ってるぜ」
そう言って俺は背を向ける。
「リューヤ、助かった」
「ありがとうございました、リューヤさん」
「はいはい」
礼を言ってくる二人に、肩越しに手を振った。
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「……ふぅ」
今日はもう疲れた。……アルティは途中でお昼寝タイムに入ったので女将さんに預けた。
「おかえり、リューヤ」
「キュウッ!」
女将さんとアルティが迎えてくれた。
「今日は疲れた。俺は風呂入って寝るぞ」
「どうぞ。お疲れ様でした」
女将さんに言われて、ゆっくり目に部屋に向かった。




