番外編:花見は恋色桜花
今日から数日間、Infinite Abilities Onlineにも春が訪れる。
花見イベント。
木々が何故か全てピンク色に染まり、地面は花びらでピンク色に埋め尽くされる。
食材と飲物が半額や二割引きなどのセールによって安くなる。理由は花見で宴会するから、ということだ。
桜模様の浴衣が販売されたり、イベント限定のアイテムが販売される。
何より、花見イベント最終日、全街で祭りが行われる。……この日だけに日本三大名所と呼ばれる三ヶ所を模した街が出現するという豪華さだ。
これを期に、別の春が訪れる人も少なくはないだろう。
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「おぉ。見ろよアルティ。景色が花ばっかりだぞ」
「キュウッ!」
アルティは嬉しそうな声を上げる。
「花見、か。……昼間っから酒飲んでるヤツがいるんだよな」
俺は今宿を出たんだが、今日から花見イベントが開催される。
……花見っつったら、昼間っから酒飲んでる暇人がいる。
「……って、エアリアかよ!?」
宿の前にある木の下で酒飲んでるヤツ、いつもの忍者服ではないが、ジンベエをだらしなく着崩したエアリアがいた。
「……よお、リューヤ」
もう酔ってるし。顔が赤いし、何より酒臭い。
「……昼間っから酒飲んでんじゃねえよ。アリアもいねえし、フラれたか?」
失業したやけ酒みたいだぞ。
「あ? ……アリア、あのアマ、『もういいです。エアリア様は振り向いてくれませんので、他の人とお付き合いします』、とか言いやがって」
けっ、と不機嫌な顔で吐き捨てるように言う。
……フラれてんじゃん。
「苦手だから迷惑だったんじゃねえのかよ?」
「……正直、内心喜びに咽び泣いてた」
……超意外だ!
「じゃあ、素直に付き合おうって言えば良かったんじゃねえか?」
素直になれなくて失恋した友達がいたからな。
「……誰だかわかんねえんだよ」
?
「現実で会ったことあるって、あのエアリア様ですよねって、俺は全く覚えてねえんだよ!」
……それは向こうに悪いよな。
「様付けされることに心当たりは?」
「……昔、自衛隊にいた時は様付けだったな」
自衛隊にいたのかよ! ……傷が本物の可能性は高いぞ。
「……その時、同期のヤツにエアリアって呼ばれてたから、そん時だとは思うんだが」
「その時に女性は何人いた?」
「二人だ。……どっちだったか」
頭を抱えて悩み出してしまった。
「……いっそのこと、コクれ」
「……ダメだ。俺はその時、一人に片想いしていたからな。軽々しくコクれねえ」
……めんどくせぇ。
「……じゃあ本人に聞けばいいんじゃねえ?」
もうやけになった。
「……それをしろと?」
……エアリアが本気で睨んでくる。超怖いんだよ。
「じゃあそこで酒飲みながら思い出してろ」
「……見捨てんのか? 今まで世話になった戦友を見捨てんのか!?」
エアリアが俺の袖を掴んで引き止める。
「……いや、お前が思い出さない限り無理だし」
俺はエアリアの手を払って離れる。
「薄情者!」
「……お前だけには言われたくねえ」
俺はそう言ってエアリアの下を離れる。
「リューヤ! この恨み、はらさでおくべきか!」
「自業自得だろうに」
「桜の木の下で呪われるがいい!」
「お前がはらすんじゃねえのかよ!?」
思わずツッコんだ。
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「あっ。リューヤさん、こんにちは」
「ん?」
いきなりかなりの浴衣美人に挨拶された。
「……えーっと?」
誰だ?
ピンク色の長髪をポニーテールにしていて、桜模様の浴衣を着ている。……俺の知り合いにいたっけな?
「ああ、リューヤさんは素顔を見てないんでしたね。私、アリアですよ?」
ほら、と自分の頭上を指差して言う。
……。
…………。
「はあ!?」
アリア? 確かに声は似てると言えば似てるが、何より明るさが違う。
「……アリアって、エアリアに様付けたり冷静そうな声で忍者の、あのアリア!?」
「……私に対するリューヤさんの印象はわかりましたが、そのアリアです」
……マジか。
「……エアリアとケンカしたんだって?」
「……いえ。ケンカじゃありません。作戦です」
作戦?
「あれか? 他のヤツと付き合ってるフリをしてエアリアの気を引こうって作戦か?」
「な、何でわかったんですか……?」
「勘だ。それで、一人なのはどうしてだよ?」
相手ぐらいちょっと声をかければいくらでもいると思うんだが。
「……基本人見知りなんです。リューヤさんはちょっと吹っ切れてますけど。それに、男の人は苦手で……。あっ、リューヤさんは例外ですよ?」
アリアの中で俺の位置はどうなってるんだ。
「それで相手がいないのか。よかったら俺が協力してやろうか?」
「えっ? でもいいんですか? 私と付き合ってるって勘違いされますよ?」
「エアリアを罠にかけるのは面白そうだからな」
俺は、ニヤッと笑って言った。
花見の時期が終わらない内に番外編を完結させたいと思います




