表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Infinite Abilities Online   作者: 星長晶人
第一グランドクエスト編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/165

決着と女王

「……」


 煙幕が晴れると、バハムートは沈黙していた。


 それもそうだ。


 頭、両翼、両腕、右足、尾、腹部。それらが爆発によって消し飛ばされていた。


 俺が斬り飛ばすのと違って、溶かしてくっつけるようなことは出来ない。完璧に消し飛ばされている。


「……やった、かな?」


 ジュンヤは指揮を取った責任者として、不安そうに言う。


「……いや、まだだな」


 俺はそう言った。確かにバハムートは満身創痍。虫の息もいいとこだが、HPは残っている。


 レッドゾーン、それも、ギリギリ残ってた程度だが。


「っ!」


 俺はバハムートにとどめを刺すべく、駆けていく。


「【天空双破斬】!」


 ジャンプして、両手の剣を振り下ろす。それと同時に俺も下降していき、バハムートを切り裂いた。


「……」


 バハムート、もう影も形も残っていないそれは、光の粒子になって天に昇っていく。


 ――――グランドクエストの討伐対象、バハムートの討伐を確認しました。グランドクエスト『バハムートの襲来』クリアです。


 アナウンスが響いた。


「「「わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」


 全プレイヤーから歓声が上がる。


「ん?」


 そんな中、俺は空から何かが降ってくるのに気付いた。


「卵、か?」


 見ると、他少数のプレイヤーにも降ってきていた。ゆっくりと近付いてきて、それが卵であることがわかった。


「……クエスト報酬、テイマーとサモナーへのバハムートの追加」


 アリシャが説明するように言う。


 『召喚魔法』はともかく、『テイム』は売っていない。テイマーはエフィのように初めに選ぶか、俺のようにイベントクエストで追加させるか、しかない。


 俺の腕に二個の卵がおさまる。


「……俺は二体、か」


 『召喚魔法』も『テイム』も持ってるからな。


 ピキキッ。ピキッ。


 アルティの時と同じように、殻にひびが入っていき、


「「ッ!」」


 元気よく、二体のちっちゃいバハムートが顔を出した。


『……』


「おい! あれ……!」


 誰かが、バハムートがいたところを指差す。


「……バハムート?」


 半透明、透けているバハムートがそこにはいた。地に足が着いていない。浮いているようだった。


『……ああ、人間達よ。産卵の時期で気が立っていたとはいえ、多くを死なせてしまいました。申し訳ありません』


 バハムートは、穏やかな雰囲気で言った。


『私は荒れている幻想世界から、産卵を安全に行えるよう、この人間世界来ました。しかし、安全な場所などありませんでした。どこへ行っても人間ばかり。気が立っていた私は住み処を片っ端から当たり、産卵場所にしようとしました。結果、拠点としていたこの場所で討たれてしまったわけですが』


 バハムートの声は澄んだ女性の声だ。


『今の私は一時的に現世に留まった霊に過ぎません。あなた方に我が子託します。どうか、大切に育ててやってください。どうか、死なせないで』


 そう言うと、バハムートの霊は消えていく。


「……悪かったな、討伐しちまって」


 俺は誰にも聞こえない声で呟く。


『ふふっ。私を気遣う心があるのなら、代わりにその子達を大切にしてください』


「っ!」


 バハムートは俺を見て言った。


『では、さようなら』


 バハムートはそう言って完全に消えた。


「……」


 勝利の雰囲気は消えていた。


 ――――グランドクエストクリア報酬を配布します。ダメージランキングは後程掲示板にて発表されます。


 またアナウンスが響いた。


 しかし、そのすぐ後に『danger』と表示されたウインドウが出てきた。


「っ!」


 俺の目の前が真っ暗になる。そして、この感覚は見に覚えがある。


 強制転移だ。


 ▼△▼△▼△▼△


『ヤッホー! 初めまして!』


 目が覚めた時、最初と同じように始まりの街の大広場だ。


 中央の噴水、その上空に巨大だが幼い少女がいること以外は最初と同じ状況だ。


『Infinite Abilities Online』のプレイヤー諸君! 私こそがこのゲームをデスゲームにした張本人、“乗っ取り女王(ハッキング・クイーン)”だよ! よろしくね!』


 やけに高いテンションで幼女――“乗っ取り女王(ハッキング・クイーン)”は言った。


「てめえか! 俺らをこんなところに閉じ込めやがって! 出せよ!」


 遠く離れた場所なのに何故かはっきり聞こえる声が怒鳴った。


「そうだそうだ!」


「ここから出してよ!」


 小さな声、大きな声、子供がすすり泣く声さえ、全ての声が聞こえる。どうやら、拡声器のように声が大きくされて、全て聞こえるようにされているらしい。


「……今更お前が出てきて、何の用だ?」


 俺は極めて冷静に言う。


『いい質問だね! 私が来たのは――ここから限定一名、先に出してあげようと思ってね』


「っ!」


 それを聞いて辺りが静かになる。


『それは私が決めるけど、まあリューヤだよ』


「「「っ!?」」」


 俺の名は知られているし、有名だ。だから視線が俺に集中する。


「……な、何で俺なんだ?」


 掠れた声でそれだけを言った。


『だって、厄介だもん。最初の転移の時、今もそうだけど、全プレイヤーの声がちゃんと聞こえるようにしたんだよ。恐怖の相乗効果ってね。でも、リューヤくんが怒鳴ったせいで全部パアだよ。それに、デスゲームに真っ先に立ち向かったのは彼だよ? デスゲームで人が恐怖して動けなくなるのを楽しみにしてたんだよ? まあ、どう乗り越えるのかも見たかったけど。しかも、どんどん影響を与えて、どんどん新しいプレイヤーが増えてくんだよ? 厄介極まりないよね?』


「……」


 確かに。仕掛けた方からすれば堪ったもんじゃない。


『でも本当の理由は――』


 “乗っ取り女王(ハッキング・クイーン)”は俺に目を向ける。


『好みドストライクだからだよ!』


「「「……は?」」」


 それを聞いた全員が呆然としていた。


『リューヤくんの顔も性格も好みドストライクなんだよ!』


「「「……」」」


 俺は周囲のプレイヤーに憐れみの視線を向けられていた。


『ねね! ここから出してあげるから付き合おっ! 結婚しよっ!』


「だが断る」


 俺は即答した。


『っ……!』


 “乗っ取り女王(ハッキング・クイーン)”は意外と本気でショックを受けたようだった。


『……失恋しちゃったよ。もういいよ、サービスでリューヤくんに脱出させる一人を決めさせてあげるよ』


 かなり落ち込んだ様子でいじけてしまった。


 ……当たり前だ。何でこんなヤツと結婚しなきゃいけないんだ。死んでも嫌だ。ってか、俺だけ逃げるのは嫌だし。第一、年齢詐称ロリババアと結婚するわけないだろ。


「……そりゃありがと。じゃあ、まだ1レベで、この中で最も年齢が低いプレイヤーを解放してくれ」


『……いいの? リューヤくん自身が解放されなくて?』


「お前はわかっちゃいないな。俺は臆病者だし、正直言って怖いぜ。だが、他のヤツらを置いて出たいと思うか?」


『……リューヤくんはそんなことしないなぁ。じゃあ、私は失恋祝いに新しいゲームをハッキングするから!』


「……止めなさい」


『……う。じゃあ、失恋祝いは他のにするよ! いいもん! 私の手下が失恋の仇は取ってくれるんだもん!』


「……」


 手下だと?


『じゃあ、リューヤくんの条件にあった子を解放! じゃあね! もう来ないと思うけど! あと――リューヤくん以外の人間は面白いヤツ以外死ねばいいのに』


 “乗っ取り女王(ハッキング・クイーン)”は今までにこやかだった表情を冷めた、ゴミを見るような目で俺以外を見る。


「「「っ!?」」」


 それを受けなかった俺でも、寒気がした。


 そんな俺達を放って、“乗っ取り女王(ハッキング・クイーン)”は姿を消した。


「「「……」」」


「俺、あいつの求婚断って正解だったな」


 しー……んとした雰囲気の中、俺は心底そう思った。


「「「それはわかる」」」


 うんうん、と頷いて大半のプレイヤーが同意してくれた。


 結局、誰も俺が名も知らない子供を解放したことを怒らなかった。

第一グランドクエスト編はこれで終わりになります。


 次回からは番外編集というか、本編ですが、本編ではない。そんな章になるハズです。


 デスゲーム攻略過程などを所々書いていき、攻略最終まで突っ走ります。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ