IAO内での再会
「リィナ?」
「あっ、お姉ちゃん」
リィナ達四人とのフレンド登録が終わった後、姉ちゃんが合流した。
姉ちゃんも顔は変えずにいて、ダークエルフらしく、髪の色も瞳も真っ黒だった。
「リューヤ? ああ、そういうことね」
姉ちゃんは俺がこの名前にした訳が分かったようだ。
「姉ちゃんは、フィオナ? ああ、そういうことか」
少し悩んでから、やっと思い至った。
「それで、リューヤは何の職業を選んだの? まあ、見れば分かるけど、魔法戦士よね?」
姉ちゃんが苦笑して言う。
「ああ。何か悪いのか?」
何で苦笑してるのかが分からない。
「悪いって訳じゃないけど、魔法職よりも魔法の熟練度が上がらなくて、戦士職よりも剣術の熟練度が上がらないのよ」
デメリットが意外と大きいな。
「うん。難しい職業ってことだね」
なるほどな。それは育てがいのある職業だ。
「最初は私とかリィナに手伝ってもらえばレベル上げにはいいけど、完全な初期職とは違って片方を極めてからもう片方もって出来ないのよ」
「何でだ?」
別にいいと思うが。
「魔法戦士は両方を持つ職業だから、片方だけ使っててもレベル上げが難しいのよ」
なるほど。ジョブレベルが効率的に上がってかないと。
「分かった。両方を満遍なく使おう」
そうすればいいんだな。
「……まあ、頑張って」
諦めたように言う姉ちゃん。見捨てるのか? 弟を。
「う、うん。頑張ってね、お兄ちゃん」
姉ちゃんだけじゃなくリィナまでもが俺を見捨てるのか。
「お姉ちゃんのギルドは『ナイツ・オブ・マジック』っていう、前衛と後衛を一人一人が両立出来るように鍛えるギルドなの。攻略とかに積極的で、ギルメンは限られた人しかなれないんだって。私みたいに魔法の一点特化はダメだし」
まあ、両立を目指すギルドもあるだろうな、サポートにもまわれるし前衛で戦える。
「んじゃ、ちょい腕試しにフィールド行くか?」
早くこのゲームに慣れたいしな。
「ちょっと待って、お兄ちゃん」
張り切る俺にリィナが待ったをかけた。
「お兄ちゃんのスキルを見せなさい」
何故に命令形?
「お兄ちゃんがちゃんと私達のアドバイスを聞いてたか検査します」
検査されんのかよ。
「聞いてたし、ちゃんと入れたっての」
半ば呆れてステータスウインドウを開く。ステータスウインドウを開くには、軽く左手を振るだけでいい。
「『片手剣術』、『黒魔法』、『索敵』かぁ。お兄ちゃん、アドバイスで入れたのって『索敵』だけでしょ」
3つに選ぶんだから仕方がない。
「ちゃんと入れただろ? 攻撃もあるし」
「……サポートは?」
「サポート? 『索敵』があるじゃん」
何言ってんだ?
「そうじゃなくて! 戦闘中のサポート!」
リィナが珍しく怒って怒鳴ってきた。
「ステータス補正とか?」
「回復とか攻撃力アップの補助魔法とか!」
むぅ。すっかり忘れてたな。
「悪い。すっかり忘れてた」
笑って言う。
「お兄ちゃん?」
リィナがどす黒いオーラを出して薄く笑う。
「り、リィナ?」
ヤバい。あれはリィナがめっちゃ怒ってる証拠だ。
「忘れてたって言った?」
「……すみません」
ヤバいって、リィナ。リィナがこんなに怒ってるの初めて見たっぽい『戦乙女』の娘達、軽く引いてるよ?
「じゃあ、お兄ちゃん。モンスター狩ろっか」
「えっ?」
何で?
「……街の外じゃないとプレイヤーキル出来ないからよ」
姉ちゃんがボソッと囁いてくれた。……おいおい。家の妹はそんなこと考えてたのか? 恐ろしい。
「……はい」
一回死ぬのか。まあ、魔法だから一瞬だろ。リィナは強いっぽいし。
「……いいの? 死ぬと少ないお金が減る上に、魔法だから少し残って寒さに凍えることになるわよ」
姉ちゃんはさらに囁く。
「何でリィナの方が強いのにHPが残るんだよ?」
俺は姉ちゃんに囁き声で聞く。
「何でって……。気付いてないみたいだから言うけど、リューヤ、ヒューマンでも当たりの方よ」
「当たり?」
姉ちゃんが何で呆れて言うのかは知らないが、聞き返す。
「そ。ヒューマンが特徴がなくて使いやすいってのは言ったわね?」
「ああ」
姉ちゃんが皆にも聞こえるように言ったので元の声音に戻す。
「ヒューマンは平均して同じになるように設定されてるんだけど、その設定値が低い場合が多いのよ。例えば、8とか」
低っ。
「低いな。俺は12だってのに」
平均がな。
「それよ」
「ん?」
「普通、低いか、他の種族なら得意不得意があるのに、飛び抜けてるとは言えないけど、合計ならトップよ」
「マジ? ……それとリィナの魔法に耐えられるのとどう関係があるんだ?」
また声を潜めて言う。
「……いくら装備に差があっても、レベルは一緒なんだから差はないのよ」
なるほど。レベルはβテストから持ち込めないって言ってたしな。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんと二人っきりの世界だね?」
「……」
……妹が怖いんですが。
「んじゃ、とりあえず狩りに行くか」
リィナの気が済めばいいし。
「じゃあ、――」
リィナが怖い笑顔で何かを、多分狩りに行こっか、とでも言おうとしたんだろうが、聞こえなかった。
――――サーバーシステムに異常発生。強制転送します。
頭にそんな声が聞こえ、目の前が真っ暗になった。




