バハムートの襲来③:『狂戦騎士団』
「キュ……」
昨日疲れたせいか、アルティがうとうとしていた。
「眠いなら留守番してるか?」
まだ寝惚けてるし。
「キュウ……」
首を左右に振って俺の服を掴む。
「……目覚めないと、負けちゃうぞ」
「キュウ」
ちょっとはやる気で目が覚めたようだ。
「じゃ、行くか」
アルティを抱えて、次の決戦場所である、カーシャ村へと向かった。
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「おっ? 人がいるな」
珍しい。しかも、俺の見たことない連中だ。
「おーい、お前ら、グランドクエストに参加するのか?」
とりあえず、話しかけてみる。
「ああ?」
ギロッ。話しかけるなり、俺にガン飛ばしてきた。
「そう睨むなよ。一緒に戦うんだからさ」
怖いし。
「あん? 一緒にだ? なめてんじゃねえよ、兄ちゃん」
……何だこいつら。目付き悪いし口も悪い。さらにはガラも悪いな。
「おい! 雑魚にかまってねえで待機してろ!」
ビクッ。俺に絡んできたヤツが萎縮した。
「……雑魚呼ばわりされたくはないが、お前がこいつらのリーダーか」
「……ああ、俺は『狂戦騎士団』のリーダー、ベルセルクってんだ。凶騎士やってんだよ。んで、てめえは誰だ?」
……こいつがレア武器持ちの一人、『狂戦騎士団』のリーダーか。
短髪に狂喜に満ちた眼。格好こそボロボロだが、腰に差してある短刀はレア武器らしい。
「俺はリューヤ。あんたの言う通り、雑魚いソロプレイヤーだ」
「ハッ! 嘘つき野郎が。リューヤっていやぁ、IAO最強のプレイヤーじゃねえかよ。……見たところ剣士みてえだし、ちょっと殺し合わねえか?」
……戦闘狂か。見た目通りというか、何というか。
「遠慮する。俺じゃ、あんたに勝てそうもないんでな」
「ハッ! 何の冗談だ、そりゃ? 強いヤツと戦ってこその俺だ。てめえとはぜってぇ殺し合わねえとな」
ベルセルクは口端を吊り上げて、笑う。
「……そこまで言うならいいが、グランドクエストをクリアしたら、決闘で勝負だ」
「……チッ! 殺し合わねえんだったら面白くねえ! ……が、てめえと殺るんだったら面白そうだ。いいぜ、その条件を呑んでやる」
……ふぅ、よかった。
ズズゥ……ン。
「来たな」
バハムートがカーシャ村に降り立った。
「野郎共! 戦闘だ! 死ぬ気で殺しに行け!」
「「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
戦闘狂の集まりだが、統率はとれてるんだな。
「……回復いなさそうだな」
死亡率高いんじゃないのか?
「回復なんざ必要ねえ! 殺される前に殺す。それが俺達、『狂戦騎士団』のモットーだ!」
ベルセルクがニヤリと笑う。
「……それが出来れば苦労しないっての」
俺は呟きながらツインフレア・オブ・チェンジエッジを構える。
「まあ、俺も回復タイプじゃないんで」
攻撃の方が性に合ってる。
「話がわかるじゃねえかよ。まあ、撤退させりゃいいだけだがな」
そういや、こいつらも一応βテスターだったな。
「場数だけなら、俺より上ってか」
「ああ。言っとくが、邪悪竜ん時はサボってたが、今はてめえごとき、抜いたって確信があるぜ?」
「……まあ、剣一筋だろうからな」
プレイヤーキルの方が経験値は入るらしいし。
「てめえみたいな剣も魔法も使う、半端なヤツが嫌いなんだ。……まあ、強さだけは認めてやるがな」
……俺も嫌われたもんだな。
「はっきり言って、俺はあんたらに負けると思うぜ?」
「あん?」
「残念ながら、俺は死にたくないからな」
「ハッ! とんだ甘ちゃんだな! 俺らは戦って死ぬ。それも、とびっきり強いヤツとな!」
……死ぬのも、暗いのも嫌いだ。カッコつけはするが、怖いしな。
「……お前の言う通りだな」
少し自嘲気味に笑って言う。
「……ハッ! てめえみたいな腰抜けと殺り合ったところで面白くもねえよ」
失望したような視線を向けて、ベルセルクもバトルに参加し始める。
「……」
……ふぅ。戦闘狂に、色々考えさせられるとは、情けない。
「俺も、頑張んないとなぁ」
気分を戻すために、少し軽く言う。
「……さて」
俺も参加するか。
「おい! 甘ちゃん! 死ぬ覚悟は出来たのか?」
バハムートの近くまで駆けると、ベルセルクが声をかけてきた。
「いや」
「あん? じゃあ、何でこっち来たんだよ。臆病者は、部屋の片隅で震えてりゃいいだろ」
確かに、ベルセルクの言う通りだ。
「ああ。臆病者の俺には、それがお似合いだろうけどな。守りたいヤツらがいるんだよ。――そいつらのために、俺は戦う」
「……ハッ! 調子乗ってんじゃねえ! ……だが、てめえと殺し合う程度には見直したぜ」
「……うわっ。それなら帰った方が良かったな」
「あん?」
こえーよ、睨むなって。
「――俺は甘いから、一緒に戦ってるヤツ全員生きていて欲しい。もちろん、お前もだぜ、ベルセルク」
俺はニヤッと笑って、ベルセルクの横に並ぶ。
「いい度胸だ! てめえを俺の殺したいリストに載せてやるぜ、リューヤ!」
「……それは遠慮したいな」
「あん? ノリ悪いヤツだな」
いや、誰もそんなことは望んでねえし。
「まあいい。目の前のこいつ殺したら、次はリューヤだぜ?」
「わかってる。その代わり、今は協力……共闘してこいつを倒すぞ」
「当たりめえだ!」
こうして、俺は戦闘狂のベルセルクとフレンドになった。『狂戦騎士団』のメンバーは何人か死に、その度に一丸となってバハムートに立ち向かっていった。
性格はあれだが、根はいいヤツかもしれない。




