番外編:チョコは甘く苦い恋の味
バレンタインの番外編、今日中に更新出来ました。
「エ、エアリア?」
そこにいたのは、何やらダメージを受けている様子の傷あり忍者、エアリアだった。
「リューヤ、助けてくれ……」
「どうした?」
バレンタインデーに不吉な。
「女性プレイヤーから本命チョコを貰ってしまった!」
「……」
どこが問題で、どこに助けが必要なんだ?
「ガフッ!」
エアリアが吐血した。
「おいおい、大丈夫か?」
「……大丈夫だ。本命チョコを貰うなど、身体が拒絶反応をするだけだ」
全然大丈夫じゃねえ!
「まあ、とりあえず、その娘にコクられたんだから、ちゃんと返事しろよ? あと、ついでに女苦手なのも治しとけ」
エアリア、暗そうに見えるだけで、顔的にも、モテる気はしてたんだが。的中だな。
「だから、助けてくれ、と」
自分で何とかするべきだと思うんだが。
「エアリア様」
ザッ。
女の忍者、つまりはくの一が参上した。エアリアがビクッと反応するのを見る限り、この人がエアリアにコクった人だろう。
「お返事を」
背の高い、忍装束を着た、スタイルも結構いい姉ちゃんだった。ほとんど顔が隠れているが、結構な美人だろう。
「……おい。この人のどこに不満があるんだよ」
俺はエアリアに耳打ちする。エアリアを様付けしてるし、忍者としてというか、エアリアを慕ってるんだろうしな。
「……数日前から俺に弟子入りしたいと言ってきたプレイヤーなんだが、素顔は見せないが、かなりの美人で、最近色々と世話を焼いてくれている」
美人で色々出来るって、完璧っぽいじゃん。
「……だから、それのどこに不満があるんだよ」
「……そんな完璧な美人が、暗く地味な俺に好意を持つハズがない! 何か企んでいるに決まっている」
お前は女性不信病か、こら。
「……とりあえず、俺はアーメリア王国に逃げる。適当に誤魔化してくれ」
ドロン。
言うが早いが、エアリアはドロンした。
「逃げやがって」
俺に丸投げして逃げるとは、いい度胸だ。
「くの一さん、エアリアならアーメリア王国に逃げたぜ。エアリアは女苦手だけど、まあよろしく」
俺が言うことじゃないかもしれないが。
「ありがとうございます。エアリア様が女性が苦手なのは存じていますので」
ドロン。
言って、くの一さんもドロンした。……知ってるんだ? まあ、余計なお世話だったか。
「お兄ちゃん、食べたら感想聞かせてね」
『戦乙女』のメンバーは、忙しいのか、もう去っていった。
▼△▼△▼△
「ふぅ……」
俺は一息つく。
「やっぱ、一息つくにはここだよな、アリシャ」
「……私の店を何だと思ってるの?」
ややムスッとしたようないつも通りのアリシャがいた。
「……せっかく来てくれたから」
ん?
「……チョコ。いつも世話になってるお礼」
おぉ、アリシャまで。
「サンキュ」
何か、一息つくつもりが、結局チョコ貰った。
「……リューヤ、今から噴水に行ってきて」
噴水? 広場にある、か?
「……」
珍しく、アリシャがさっさと行け、みたいな目で見てくる。
「……まあ、とりあえず行くか」
俺は、アリシャに圧されて、噴水に向かった。
▼△▼△▼△
「アルティ?」
何故か、アルティがちょこんと座っていた。
「キュウ……」
アルティはちっちゃい手で何かの箱を持っている。
「?」
何でアルティがこんなところに?
「キュ……」
とてとてと後ろ足で器用に立ちながら歩いてくる。
「キュッ!」
俺の傍まで来て、アルティが箱を突き出す。
「……くれるのか?」
俺はしゃがんでアルティに聞く。
「キュウ……」
「……アルティ」
アルティが頷くので、箱を受け取る。
でも、何で? 今日こういうモノを貰うのは、バレンタインだからだろ?
「……バレンタインは女が男にチョコを渡す日だよ」
物陰から女将さんが出てきた。
「つまり――」
まさか、アルティが女の子だったり――?
「もう気付いてるだろうけど、アルティは女の子だよ。リューヤにチョコを渡したいって言われてね」
なるほど。だからか。――って、何で女将さんもアルティの言葉がわかるんだ?
「ありがとうな」
アルティの頭を撫でてやる。アルティが女の子だったのは驚きだが、一生懸命作ってくれたんだろうしな。
「食べてやりな。アルティだって頑張ったんだよ」
だよな。
俺はアルティから渡された箱を開ける。中には、ちっちゃく丸いチョコが入っていた。
「よく出来たな」
一個しか入ってなかったが、それを口に入れる。
「っ!」
これは――。
不味い。酸味と苦味と塩味が混ざり合って、かなり不味い。
「っと」
それでも何とか飲み込み、アルティを撫でる。
「……美味かったぞ。よく出来たな」
笑って、褒めてあげた。……カッコつけると、アルティが一生懸命作ってくれたチョコが、不味いわけない。
「キュウッ!」
アルティは嬉しそうに言って、俺に抱きついてきた。
「ありがとな」
抱えて、撫でてあげる。
「じゃ、始めるわよ」
いつの間にか、姉ちゃんや他の皆がいた。
「さあ、バレンタインパーティーよ!」
姉ちゃんが言った途端、噴水がチョコに変わる。
「ははっ。イベントか」
皆、チョコの噴水でチョコフォンデュをするらしい。
「リューヤ!」
姉ちゃんに呼ばれた。
「これ、私からリューヤへのチョコレート」
姉ちゃんはハート形の箱をくれる。
「ああ、ありがと、姉ちゃん」
笑って受け取る。
「お兄ちゃん! お姉ちゃん!」
リィナが駆け足で寄ってきた。
「二人もそこで立ってないで楽しも!」
俺と姉ちゃんはリィナに手を引かれる。
「ああ!」
屋台や何かも出て、完全に祭気分だった。
チョコの噴水に仲間を落としてふざけ合ったり、屋台でパフェを食べたり。
カップルが仲むつまじくイチャイチャしていたり。
エアリアがくの一さんにチョコフォンデュをあ~んされていて困っていたり。
たった一日、デスゲームから離れて、バカみたいにはしゃいだ、楽しい出来事。
2月14日、バレンタインのことである――。
色々なことに突っ込まれて情けない限りです。
まあ、応援してくれてる方も多いので頑張りますよ。




