アルティのいる生活
「そろそろ飯だな」
「キュウッ」
夜飯は宿屋の食堂で食べることにした。
「女将さん、定食セット二つ」
「キュウッ!」
アルティも定食が食べたいらしい。
「その子も食べるのかい?」
「キュウッ!」
食べたいようだ。
「アルティは子供だからいっぱい食べないとな」
アルティを机の上に下ろして言う。
「そうだね。じゃあ、定食セット二つね」
女将さんはそう言って厨房に入っていった。
▼△▼△
「はい、お待ち」
定食セット二つが運ばれてきた。
「いただきます」
「キュキュッ」
アルティは器用に両前足を合わせた。俺のマネをしたようだ。
「よく出来ました」
頭を撫でてやる。
「キュ~……」
気持ち良さそうにするアルティ。頭を撫でられると弱いらしい。
「んじゃ、食うか」
和食定食だった。とりあえず味噌汁から。
「ん、美味い」
評判+女将さんの料理スキルだろうな。普通に料亭として出せばいいのに。
「キュ~」
アルティが飯を見て唸っていた。
「どうした?」
「キュウ~」
ふむ。アルティは箸が使えないからな。食べ方に困ってるのか。
「キュウ……」
何故かアルティは俺の方を見て目を輝かせている。
「……食べさせて欲しいんじゃないのかい?」
女将さんが見かねたように言う。
おおっ、なるほど。まだ生まれたばっかだしな。甘えるのも仕方ないか。
「しょうがないな。こっちおいで」
「キュウッ」
ピョン、と飛んで、俺の腕に着地する。
「よいしょ。んじゃ、どれがいい?」
アルティを片腕で抱えて言う。
「キュウッ!」
ビシッ。アルティはしっかりと焼き魚を手で指した。
「まあ、アルティも肉食だしな」
魚か肉が食べたいだろう。
「はいよ」
焼き魚を一口サイズに分けて、アルティの口に持っていく。
「キャ~ウッ」
パクッ。小さい口を開けて食べる。まだ牙が少なくて可愛い。
「キュ~!」
両前足で顔を挟んでもじもじする。……まあ、人間っぽいな、アルティ。何でもじもじするかはさておき。
アルティは普通の飯でも食えるらしいので、成長値はなくてもこれからは一緒に飯食おうかな、とか思った。
――次の日。
「アリシャいるかー?」
俺はアリシャの鍛冶屋に来た。
「……いる」
まあ、そりゃそうだ。アリシャは滅多に外に出ないからな。
「アリシャって包丁とかまな板も造れるんだな」
女将さんから聞いた。
「うん」
「一つ、造って欲しい武器があるんだが」
「……いいけど、何で調理器具の話したの?」
「まあ、アリシャに造って欲しいのは武器っぽくないからな」
戦えなさそうだし。
「何?」
「竿だ」
「竿? 槍系の物干し竿のこと?」
武器なのか、物干し竿は。
「いや。俺が言ってるのは釣竿だ」
「釣竿?」
「そう。ちょっと釣り師を極めようかと」
「……初期職極めすぎ」
いいだろ、そんくらい。
「で、造れるのか?」
「造れるは造れる。けど、武器としては弱い」
「別にいいぞ。俺が戦う訳じゃないし」
「? まあ、頼まれたら造る」
怪訝そうな顔をしてたが、引き受けてくれた。
俺はアリシャに木の釣竿を造って貰い、グラインド港の海岸へと向かった。
▼△▼△▼△
「出てこい!」
リヴァア、クリスタ、フレイを呼び出す。
「今日はのんびり釣りするから、その辺のモンスターを狩ってていいぞ。あと、アルティの援護も頼む」
「キュウ?」
アルティは小首を傾げていた。
「アルティも戦ってみろ。アルティなら倒せるから」
「キュウッ!」
頭を撫でてやるとアルティはやる気満々で三体の方に向かっていった。
んじゃ、俺はのんびり釣りをしますか。
俺は新しく、『釣り』、『ライド』、『調理』、『釣竿武術』の四スキルを極めることにした。釣った魚を調理し、リヴァアに乗って沖でも釣りをする。釣ったのがモンスターなら戦う。これで四つ極められるな。
「……」
まあ、そう簡単に釣れる訳がないんだが、釣りって暇だよな。
「キュウッ!」
すぐ近くでアルティの声がした。
「ん?」
振り返ると、アルティがシースネークを持ってきていた。
「どうした? 食べていいんだぞ?」
「キュウッ!」
すると、アルティは嬉しそうにシースネークを脅威の速度で平らげた。
「自分で倒したのは自分で食べていいからな」
「キュウ」
アルティは頷いてトテトテと戻っていく。俺の許しがないと食っちゃいけないと思ったんだろうか。……可愛いな。
「おっ?」
竿がかなりしなっていた。きたか?
「この……!」
力ずくで釣る。リールの付いてない竿だからな。
「うおっ?」
急に楽になって、釣竿の糸の先が見えた。
「……」
マンボウっぽいヤツが釣れた。こんな浅瀬で。
「ンボー」
ビチビチと跳ねるマンボウ。
「……」
俺は腰にある包丁を抜く。
「【三枚下ろし】」
『調理』のアビリティ。マンボウを三枚に下ろしてやった。……調理って、モンスターに攻撃出来るのな。
「焼くか」
焚き火で。
「フレイ、木を少し採ってきてくれ」
「ピイイ」
フレイは木々のありそうな方へ飛んでいった。
すぐにフレイは戻ってきた。
「火をくれ」
「ピイ」
ボッ。焚き火の完成だ。あとはこれの周りにマンボウの串刺しを置いといて、と。
「じゃあ、釣りを再開するか」
――と、次の瞬間。
ドオーン。
水飛沫が上がった。
「ヒャッハー! 弱そうな釣り人発見! 手始めにやっちまえ!」
「「「はい、船長!」」」
……何だ、あいつら。
リューヤは勘違いしていますが、マンボウは魚です。
モンスターではありません。




