やっとの帰還
「おっ? 何だ、あれ? 卵か?」
邪悪竜のいた場所に漆黒の卵があった。
「邪悪竜の卵か? 貰っちゃお」
俺は卵に近付いていく。
ピキッ。
「ん?」
ピキピキピキピキピキッ。
「まさか――」
「キュウッ!」
卵が割れて、真っ黒な毛が生えた小さなイタチみたいな赤ちゃんが出てきた。……可愛い。
首を一周出来るくらいしかない全長に、艶やかな漆黒の毛。ああいうヤツを肩に乗せてみたいよな。
――――エリアボス出現。対戦人数百五十七名。バトルを開始します。
「へ?」
いきなりのことで、間の抜けた声を出してしまう。エリアボス? このタイミングで?
「グルルルル……」
南の森のエリアボスは、巨大な狼、ファウンドウルフだった。
「……っ!」
こいつ、生まれたばっかりの赤ちゃんを狙ってやがる!
「させるかよ!」
俺はファウンドウルフの爪が降り下ろされるまでに赤ちゃんモンスターを抱き抱えた。
「ぐっ!」
俺は爪で切り裂かれて、吹っ飛ぶ。
少し地面を転がってから、体勢を立て直した。
「……ハァ……ハァ」
あれだけ喰らっても五分の一しか喰らってない。邪悪竜のコートのおかげだな。
「キュウ……」
不安そうな声を上げる。
「大丈夫だ。ちょっとここで待ってろ」
撫でてあげ、立ち上がって地面に下ろす。
「あの程度、すぐ終わる」
言って、立ち上がってアヴァロンソードとブレード・オブ・ロッドを構える。
「キュウッ!」
ん?
赤ちゃんモンスターが足にしがみついていた。
「どうした?」
しょうがなく、抱えあげる。
「キュウ」
スルッと腕前をすり抜けて、肩に登ってきた。
「……そこがいいのか?」
「キュウッ!」
しょうがないヤツだな。
「じゃあ、ちゃんと掴まってろよ」
「キュウッ!」
首に巻き付くようにしてくる。……可愛いヤツめ。
「リヴァア! 【アクアキャノン】!」
リヴァアは巨大な水の玉を高速で放つ。
「キャオン!」
直撃した。……もう三分の一も減ったか。
「クリスタ、【ヘルブリザード】」
クリスタは猛吹雪を放つ。避けようとするが、広範囲の攻撃なので喰らう。
「フレイ、【フレイムファイア】」
フレイは口から火炎を放つ。
……あと一撃だな。もうちょっと。HPは十五分の一ってとこだな。
「【巨大化】、【イクスドライブ】!」
ブレード・オブ・ロッドを巨大化させ、【イクスドライブ】を放つ。
【イクスドライブ】は、【巨大化】同様魔杖剣の性質を活かしたアビリティだ。【巨大化】は魔杖剣の刃が魔法みたいなので出来てるから巨大化も出来る。【イクスドライブ】は魔杖剣の刃が魔法みたいなので出来てるのを利用している。斬撃を飛ばすにはかなりの力量がいるが、魔杖剣だとそれがない。刃を、そのまま飛ばせばいいだけだろ?
魔杖剣から放たれたXの文字をかたどる巨大な斬撃がファウンドウルフを襲う。
「キャウ……ン」
レベル差で即倒した。
「キュウキュウッ!」
肩でそれを見ていた赤ちゃんモンスターが嬉しそうな声を上げた。
――――シャドウレオンウルフのアルティがなつきました。仲間にしますか?
俺はもちろん、yesを選択する。
ーーーーアルティが仲間になりました。アルティ専用アビリティ、【グロウアップ】を覚えました。アルティは子供ですが、成長値を持ちません。【グロウアップ】によってバトル中のみ大人になります。アルティは大陸の覇者と呼ばれるレオンウルフの突然変異です。大人になった時の強さは不明です。固有のスキルが多く、強さが未知数となります。大海の覇者、大空の覇者に並ぶ最強種となります。
……アルティ、強いんじゃん。
「よろしくな、アルティ」
「キュウッ!」
頭を撫でてやる。
「お兄ちゃん!」
――と、リィナ達が駆け寄って来た。
「おっす」
「無事で良かった。お兄ちゃん、その子は?」
リィナはほっとしたように言ってから、アルティを見て言う。
「まあ、とりあえず俺の仲間達を紹介するから」
苦笑して言う。
「でかい亀がキャニオンタートルのクリスタ。でかい竜がリヴァイアサンのリヴァア。フレイムバードのフレイ。そして、さっき仲間になったシャドウレオンウルフのアルティだ」
アルティを両手で持って言う。
「「「レオンウルフ!?」」」
皆が驚いて言った。シャドウはスルーかい。
「ああ。何でも、レオンウルフの突然変異だってさ」
「「「……お兄ちゃん/リューヤ/リューヤさん/リューヤくんがどんどん最強に……」」」
その場にいた全員が落ち込んで言った。
「別にいいじゃん。そのおかげもあって、イベントクエストもクリア出来たし」
「そうだけど、ね。そう言えば、何でイベントクエストの方が先だったのかしらね。ちょっと不思議だわ」
「だな。まあ、そういう順番にされたんだろうな」
「……そういうことね。リューヤ、コートが新しくなってるし、邪悪竜を倒した時に使ってた剣は何?」
姉ちゃんが目敏く聞いてきた。
「邪悪竜討伐報酬だと。邪悪竜のコートと聖竜剣ホーリードラゴンだって」
「その剣、伝説の剣ね。対ドラゴン属性と聖属性を兼ね備えた上位の武器。多分、邪悪竜なら一撃よ」
マジか。道理で強いと思った。
「まあ、とりあえず帰ろうぜ」
「そうだね。ありがとう、リューヤくん。提案者としてお礼を言わせて貰うよ」
ジュンヤも来て、お礼を言った。
そして、俺達は始まりの街へと戻った。
これで第一章は終わりです。
次からは二章になります。




