エピローグ
※本日二話目
IAOというゲームはクリアされた。
生き残っていたプレイヤー達は皆ログアウトし、病院のベッドで目を覚ます。
長い間眠り続けていた身体は点滴で生き永らえていた。しかし栄養が足りず運動もしてこなかった身体は痩せ細り枯れ枝のようですらあった。
プレイヤー全員のベッドと点滴が用意されていたのは、IAO運営の必死な努力の成果である。全国各地に散らばっているプレイヤー全員の命を無闇に散らせないため場を整えていたのだ。
その後無事生還したプレイヤー達はリハビリに励むこととなった。
プレイヤーの生還は喜ばしいことだが、ただのゲームをデスゲームにしてしまった“乗っ取り女王”は健在だ。脅威が去ったわけではなく、加えて被害がIAOのみに留まらないため、政府は対策本部を設立することを発表した。
実際に設立されたのは、IAOプレイヤーの生還から三年後のことだったが。
IAOから生還したプレイヤー達は、直後元の生活に戻るためのリハビリを行うことになる。普通に生活できる段階まで回復したら、次は頭の方だ。死と隣り合わせの状況に置かれて久しく、人殺しを行った者もいる。彼らの道徳観念を取り戻させるべく、政府は再教育機関と称してプレイヤーを招集、一箇所に隔離した。
本人達はと言えば、そういえばこんな展開がアニメとかであったよなくらいの感覚ではあったが。
広大な敷地に中・高・大までの勉学が学べる環境。大人もすぐ仕事に就くのが難しかったため施設に通いながら直接会わずに行える在宅ワークなどを紹介してもらっていた。
全国各地から集められた元プレイヤー達は再会と解放を喜んだ。
しかし、中には施設に通っていない者も確認される。
プレイヤー名を、リューヤ、アリシャ、エアリア、アリアと言う。
エアリアとアリアは自衛隊関係者のため、立場が違うのかもしれない。アリシャは素性が素性なので警察関係者に色々と聞かれているのかもしれないという推測は立てられた。
しかしリューヤはどうだろうか。IAO内最強プレイヤーではあったが、彼はただの一般人である。ただ心配する必要はなかった。
「お兄ちゃんならやるべきことがある、って言って頑張ってるよ?」
「燈夜は立ち止まることを知らないのよ。偶には休んだ方がいいと思うんだけど」
とは彼の姉妹の言だった。
そして、IAO事件直後からの変化として見過ごせないモノが一つ。
それが現実世界の侵食である。それだけを聞くとなにがなんなのかわからないのだが、これが最も大きな影響と言えた。
現実世界に、ゲーム内で出会った使役モンスター達が出現したのだ。
もちろんそのままの姿ではなく小動物程度の大きさになっていたのだが。
これまでには存在し得なかった生物の出現に、モンスターを調べたいと思う者がいるのは仕方がないことなのだろう。しかし元プレイヤーからモンスターを奪った者は、文字通り人生を終えた。
生物について研究しているとある施設が一晩にして全壊、そこで働いていた全職員の死亡、個人情報の漏洩が発生したというのは大々的にニュースになった。緊急速報の最中に全チャンネルをハッキングした“乗っ取り女王”がモンスターに手を出したら殺すだけじゃ済まさないぞ、と脅しをかけたことで急速に縮んでいく。
実際大きな企業から個人まで含めて一つの例外もなく壊滅しているのだから恐ろしい話だ。元プレイヤーにとっては長く連れ添った相棒なので有り難いことではあった。
女王曰く、出現したモンスターはプレイヤー達が頑張った成果なのだとか。だから他者が奪うことは許さないと。
彼女が言うには出現したモンスター達は皆、プレイヤーと一緒にいたいと願ったよく懐いた者だけのようだ。まぁ一部の者は急に大所帯になっててんやわんやしたらしい。特に『双子のエルフ』を率いていた二人なんかは。
政府は突然のことではあったが、女王からの圧力もありまた被害を増やさないためにも「特殊生物保護法案」が可決されるという事態が発生した。
ともあれ、生還から三年が経ったある日。
再教育機関は三年を経て社会に再び馴染めるよう教育する施設である。そのため半年のリハビリ期間があったことを考えると、あと半年で卒業できるというタイミングだった。
丁度そのタイミングで、敷地内に新たな建築物が完成する。校舎や役割のはっきりした他の施設と比べると、どこか事務所のような佇まいの建物だった。
「おい! お前リューヤだろう!?」
燈夜が敷地内を歩いていると、聞き覚えのある男性の声に呼び止められた。
「ん……その声は、メアか?」
振り返れば、なんとなく雰囲気に見覚えがあったのでわかった。声を聞くのは三年振りだが、合っていたようで顔を輝かせている。
「三年振りだな。こっちでは全く話を聞かないから、どうしたのかと思ってたぞ」
「俺も色々あるんだよ」
「らしいな。で、今日はなんでここに?」
「あー……ここが俺の新しい配属先なんだよ」
「配属先? なんだ、一足先に就職か?」
「そんなところだ」
教師にでもなるのだろうか、と思ったが今日このタイミングというだけでなんとなく察しがついた。
「そうか、新しく出来た建物の」
「よくわかったな。あそこが俺の職場なんだ」
「そうか……。ならまた会えるな。俺はここの大学に通い続ける予定だ。気が向いたら顔を出してくれ」
「ああ」
元プレイヤーの話は、姉妹からよく聞いていた。メアは姉の陽菜と同い年なので燈夜の一つ上らしい。高校三年の授業を経てここの大学に通っているようだ。
メアと別れて道を行く途中も、擦れ違い様に声をかけられることが多かった。ゲーム内のアバターと顔立ちを変えていないせいもあるだろう。ゲーム内で約二年。生還してから約三年。合計五年ほど月日が経っているとはいえ雰囲気までは変わっていないということか。
目的地である事務所へ辿り着いた燈夜は、事前に貰っていた職員カードを翳してドアを開けると中へ足を踏み入れる。カード認証に加え入った瞬間に生体認証も実施される。外も白ければ中も真っ白な建物だ。清潔感溢れると言えばそうなのだが、少しずつ人が暮らしているモノにしていきたいとも思う。
一階は受付や応接室となっており、二階は複数の個室があり完全な私室となっている。それぞれの部屋に宿泊できるようになっていた。三階が実際の職場だ。エレベータで三階まで上がる。三階の事務室を集合場所にしていた。
事務室に入る時も職員カードが必要になっている。カードを翳すと自動でドアが開いた。
「ようやく来たか。重役出勤だな」
「実際重役ですからね。それにまだ集合時間十分前ですよ」
「やほやほー。私より遅いなんてダメじゃないかー」
「ねむぃ……ふぁ……」
「燈夜クン、いらっしゃい」
「……燈夜、おはよう」
中には六人のメンバーがいた。
強面だがイケメンで体格のいい男性、エアリアこと佐々木十郎。
あまり表情を変えない美しい女性、アリアこと佐々木梨亜。二人は去年に結婚していた。
しっとりとした艶やかな黒髪を長く伸ばし両目をアイマスクで隠した女性、井剣可奈。
ボサボサの茶髪と消えることのない目の隈が特徴の女性、亜桐谷天利。
日本人離れしたグラマラスな身体にウェーブがかかった金髪の女性、シャルロット・リディアリア・クレイス。
年齢よりもやや幼く見られる童顔に黒髪の女性、アリシャこと我妻亜理紗。
そして、龍ヶ崎燈夜。
この七人がここで一緒に働くメンバーだった。
ここは本日政府から発表された“乗っ取り女王”犯罪対策室の事務所。通称女王対策室。
「皆揃ってるな」
燈夜は初日からメンバーが欠けていないのを見て満足そうに頷き、一番奥の自分に宛がわれた席へと着く。
「キュウッ!」
燈夜が持ってきた鞄の中から、元気良く黒い獣が飛び出してきた。他のモンスターが小さくなっている中、一部アルティのように小さくなっていないモンスターもいる。アルティは慣れた様子で燈夜の首後ろに乗っかった。
「改めて、室長の龍ヶ崎燈夜だ。一つの事件は終わったが、それ以降も女王による被害は後を絶えない。……それを終わらせるのが俺達の役目だ。これから、一緒に頑張っていこう」
政府の前でその力を示した燈夜と亜理紗は、唯一“乗っ取り女王”に対抗できる人物としてこの部署を任された。と言うよりも、彼ら以外に対抗できる人材がいないのである。
リューヤの物語は終わった。しかし龍ヶ崎燈夜としての人生は続いていく。むしろ“乗っ取り女王との戦いを思えばこれからが本番だ。
これからも彼は仲間と協力し合い、どんな困難も乗り越えていくだろう。
どうか、彼らのこれからに幸あらんことを。
まるで第二部がありそうな終わり方ですが、本作はこれには完結となります。続きを書く予定はございません。
本作は私の三作目となり、連載開始は2012/11/29らしいです。その間ずっと更新していたわけでもありませんし、エタりかけたことも何度もあるので年月だけでは語れません。
ですがこの作品が、私がなろうに染まった初の作品だと思います。
初めて日間ランキングに載ったのもこの作品でした。……その後注目を浴びてしまったことでSAOのパクリだと燃えて感想を見るのが嫌になったのも懐かしい話です。
終わり方は兎も角、当時の頃から思い描いていた完結にまで持ってこれたのは一つの成果だと思っています。約八年半前以上の構成ですので未熟なところもありますし、また今の私が構成し直したとしてもこれ以上のモノが描けた保証もありません。
駆け足気味でしたし、ゲーム内ストーリーもあまり見せられていないし、色々と勿体ないところも多い作品になってしまいましたが、それでも完結させられて良かったです。最初に勢いだけで書き始めて完結させられなかった作品もありますからね……。
反省点を挙げれば数え切れず、更新頻度もあって当時から読んでくださっている方は一人もいないのではないかと思います。連載期間だけは長いので文章とか全く違いますしね。
ともあれ、この作品を描いたことだけは無駄ではないと思っておきます。と言うよりも、無駄にしないための作品作りをしていきたいですね。
ともあれ、完結までお付き合いいただいた方、誠にありがとうございます。
拙い作品ではありますが、なにか一つでも面白いと思ってくださっていればこの上ない喜びです。
これでまた他の作品の更新頻度を上げることができると思いますので、今後も温かい目で見守ってくださると幸いです。
長々と失礼しました。




