最強スキル
『神聖七星剣』を最大まで解放したメッシュに対し、俺は俺が持つ最強の武器・天叢雲剣を手にした。
天叢雲剣は、IAOにおける最強刀剣の一つである。
天叢雲剣、エクスカリバー、ラグナロク、村正の四振りが最強の刀剣と言われているそうだ。
第二回グランドクエストのMVP報酬として手にした天叢雲剣だが、他の三つは未だ手にした者がいない。
ただ四つの中でも最強とされている村正は所在が判明している。所在が判明していても手にした者がいないのは、単純な話。入手クエストの難易度が高すぎるのだ。
そもそもクエストを受注できる前提条件からして狭き門だ。まず、刀以外の武器を装備したことがないこと。この時点で真っ先に俺のような状況に応じて武器を切り替えるプレイヤーが脱落する。ストーリー上の問題なのか、村正は刀にのみ心血を注いだ者しか手にする資格を持ち得ないようだ。
その上で、刀一本でトッププレイヤーの一角に食い込んでいるソロプレイヤーのセンゾーが受けて、失敗した。クエスト内容を口外することは禁じられているらしく詳細は聞けなかったが、力不足を痛感して一人修行の日々を送り始めたほどだ。
トップクラスの刀使いでもそうなるのだから、他のプレイヤーが尻込みするのは当然だろう。他にも腕に覚えのあるプレイヤーが挑み、失敗し、時に帰ってこなかった。
特殊なクエストであるが故に同時受注不可、パーティ不可という条件がついていることもあって、順当にセンゾーが獲得するだろうとは思われているが、それもまだ実現されていなかった。
他二本はまだ所在すらわかっていないため、今獲得可能なのかもわかっていない。
つまり俺が持つ天叢雲剣は、現存する刀剣類の中で最強の武器と言っても過言ではなかった。
「はぁッ!!」
「ふっ!!」
二人して駆け出し、移動速度の関係で中心よりややメッシュよりの位置で剣を交える。ギィン!! と強く金属のぶつかり合う音がボス部屋に響き渡った。
「っ……!?」
だが、防御を得意とするが故に体勢制御も得意なはずのメッシュが、大きく体勢を崩して後ろに弾かれる。
「【天上破斬】」
俺はその隙を突いて、アビリティによる威力の高い攻撃を実行した。
強く見せるためなのかやたらと長い、天叢雲剣に付随する固有スキル『天上天下破砕剣術』。その内の一つである。
両手で握った剣を下から大きく振り上げる。隙だらけの攻撃だが、前方の高い範囲に向けて特大の斬撃を放つ。狭いボス部屋ではどこまで届くか見えないのだが、広いフィールドで行うとそれこそ天まで届くような斬撃となる。
「ぐぅあぁ!!」
耐えようと踏ん張るメッシュの防御力を貫いて、大きく吹き飛ばした。
「ぐっ……! 耐性無視に防御無視とはな!」
本来、斬撃が無効化されている今の状態では、天叢雲剣でダメージを与えられない。だが天叢雲剣の攻撃は確かにメッシュのHPを削っていた。
「その二つに加えて、神殺しの効果も持つからな。神聖を纏った今のお前には効くだろ」
天叢雲剣は、スサノオがヤマタノオロチを倒す時に使ったとされる武器だ。その逸話があるため、IAOでは神殺し、つまりは神に対して攻撃力を高める効果を持っていた。
とはいえ、完全に耐性と防護力を無効化できるわけではない。本来の威力とは程遠いダメージになってしまうが、それでもスキルの組み合わせなどによって、耐性や防御力が高まっていても継続回復以上のダメージを与えることができていた。
相性が悪いのは回避が得意な相手だ。両手で剣を振るう都合上、そしてアビリティにもかなり隙のある行動が多いので、例えばエアリアなんかが相手だと当てることに苦労する。
「この程度で調子に乗るなよッ!!」
メッシュが突っ込んでくる。盾を正面に構えているので、おそらく俺の一撃を受けてカウンターを決めるつもりだろうが甘い。天叢雲剣の攻撃はそこまで軟じゃないのだ。
「ぐぅっ!!」
受け流すつもりだったのだろうが、盾が大きく弾かれたために身体も引っ張られて体勢を崩している。この戦法を実践し始めてから、有用なスキルを探し続けていた。その結果が一撃のこの威力。アビリティも使わずに受けることを許さない構成になっている。
「『絶対防御の構え』!!」
追撃する俺の攻撃が届く前に、メッシュはアビリティを行使した。盾を構えることでダメージを三回無効にするスキルだったか。構えを解くと効果が解除されてしまうのだが、ダメージを無効化していれば関係ないだろう。一撃の隙が大きい俺への対抗策としてはかなり厄介な部類に入る。流石の天叢雲剣でもダメージ無効の効果を付与されては貫けない。斬撃無効化は耐性の延長戦上だから貫けたが。
その上で周囲に水や青い雷、光や闇を出現させて俺に継続ダメージを与えてくる。メッシュは己が持つ剣と盾を主体にして戦っているので、なかなかそれらを操るというのが難しそうだ。アビリティが使えるわけではないのか直接操る必要があるようで、大雑把にしか使えないのだろう。まぁ自分に害を及ぼさないので自分を中心に継続ダメージを与えられるように使用するというのは間違っていない。それだけであっても威力は高いので、俺のHPがガリガリ削れていってしまう。
MPの消費も激しそうだが、【布袋】から絶え間なくMP回復薬が落ちてきていた。……物凄いわけじゃなくても厄介な効果に違いはないか。
「――【神よ、滅び給え】――」
仕方なく、一日に三回しか使えないアビリティを発動した。胸の前に掲げた天叢雲剣が輝きを放ち、ボス部屋を明るく照らす。
ダメージを無効化されていようが構わない。この刃に触れた時、アビリティの持つ効果が発動する。
「やめろぉ!!」
効果を知っているらしいメッシュの叫びを無視してダメージに構わず突っ込み、剣を振るう。防御しても関係ない。当たればそれで効果が発動できる。
パキィ……ン! というなにかが盛大に砕け散る音が響き渡った。……だが、見た目上メッシュに変化はない。ハズレか。
「――【神よ、滅び給え】――」
ここで使い切るつもりで二回目を発動。もう一度剣を振るって盾に当てる。また破砕音が響いた。……これもまた見た目に変化なし。ハズレだ。
「――【神よ、滅び給え】――」
三度目の正直を願って剣を振るう。パキィ……ンという音が響いてメッシュの頭上にあった【布袋】が粉々に砕け散った。
メッシュは形容し難い驚きと悔しさの入り混じった表情をしていたが、次の瞬間には憤怒に変わる。
「貴様ああああぁぁぁぁ!!!」
剣を振るい、操れる全てで以って襲いかかってきた。攻撃直後、間合いに踏み込んでいる状態なのでなす術もなく呑み込まれてしまう。ほぼ満タンまで回復させていたHPが削れていき、あっという間に半分を切ってしまう。範囲内から抜け出す頃にはレッドゾーンに入っていた。……威力を見誤ったか。もう少し範囲が広ければ死んでたな。
表面上は冷静を取り繕い、内心で冷や汗を掻く。同時に自分の見込みの甘さを修正する。
「まさか俺の『神聖七星剣』に宿る神を殺すとはな……!!」
ぎりっと強く歯軋りしていた。その間に回復アイテムで態勢を立て直しておく。
「ああ。天叢雲剣は、一日に三回だけ神を問答無用で殺すことができる。スキルに宿る神がどうかはわからなかったが、通用するらしいな」
ただ七福神のどの神を殺すのかは、滅多にないケースなので断言できないがランダムだろう。三回で【布袋】を引き当てられたのは幸運だった。あとどれが使えなくなったかはわからないが、少なくとも【毘沙門天】は使えるようだ。道具購入と金増幅だったら戦力はあまり減らないかな。【布袋】封じてしまえば問題ない。
「チッ……!」
顔を歪めて激しく舌打ちをしていた。メッシュが【毘沙門天】の能力で俺が与えた属性攻撃を利用できるのも、【布袋】でMP回復ができるからだ。それを封じられた今、舌打ちする気持ちもわからなくはない。やった俺が言うのもなんだが。
確認できる範囲では、一番最初に発動した【寿老人】のHP継続回復は残っている。効果がわかっていないモノを含めると、多少有利が戻ってきたというところか。
ただ、代償は激しい。
俺が持っていた天叢雲剣が砕け散って光の粒子と化した。一日三回制限の【神よ、滅び給え】を使い切ると、その日は武器自体の使用もできなくなってしまうのだ。破壊されたようなエフェクトだが、日付が変われば復活する。……ただ、耐性無視と防御無視を持つ天叢雲剣なしに、メッシュに勝たなくてはいけなくなるのが欠点か。
「……互いに手を失ったか。天叢雲剣なしで、俺に敵うと思うなぁッ!!」
自分の防御を脅かす武器が使えなくなったと知って心を持ち直したのか、【毘沙門天】の能力で使える全ての属性を剣に集約させ、特大の斬撃を放ってきた。多少距離を空いた攻撃だ。速いとはいえ避けられないほどではない。次の手を考えながら回避しようと身体を動かそうとして。
「――?」
足が動かなかった。状態異常にかかっている様子はない。のになぜか、足が床に貼りついてしまったかのように動かせない。
「っ、【氷炎亀盾士・キャニオンタートル】!!」
焦る心を無理矢理抑えつけて、最も防御力の高いクリスタとの『UUU』を発動した。全身が氷のような分厚い鎧に覆われ、武器はない。籠手に盾のような板が装着されている。氷だけはなく炎の意匠が施されているのは、かつてボルケーノ・タートルの力を手にした影響だろう。
攻撃手段で言えば氷と炎を操るぐらいしかできないが、俺が持つスキルの中で一番の堅牢さを誇る。
「ぐっ……!」
それでも尚、メッシュの一撃は俺のHPを大きく削ってきた。
「俺の前で防御特化とはな! 笑わせる!!」
メッシュは大きくMPが減るのも構わず、同じ威力の攻撃を続け様に放ってくる。……クソッ、なんで動かないんだ。
「【アイスキャニオン】!! 【氷晶絶壁】!!」
このままではHPを削り切られる、と理解した俺は防御を固めるアビリティを発動させる。俺の身体を氷の城が覆い尽くし、城の前に巨大な分厚い氷の壁を築き上げた。
だが防御力が高いはずのそれらも、メッシュの一撃毎に破壊されてしまう。三発目が俺に直撃した。
「がっ!?」
防御したが大きく弾かれてしまう。だが仰け反っても足だけはその場に残ったままだ。……なんだってんだ!?
「……卑怯者!!」
混乱する俺の耳に、鋭いアリシャの声が届いた。見れば彼女にしては珍しく、強くメッシュを睨みつけている。
「……リューヤの足を動かなくするなんて! こんなの真っ向勝負じゃない!」
アリシャの糾弾を受けて、メッシュは剣を下ろしそちらを向く。……この隙に少しでも回復しておきながら表情を窺った――目を見開き、口元に三日月を象っていた。ぞわり、と悪寒が背筋を駆け巡る。
「当たり前だ。最初からのこのつもりだったからな」
メッシュの返答に、障壁の外で俺達の戦いを見ていたプレイヤー達がざわついた。
「正直に言おう。勝ち負けなんてどうでもいい。……もちろん、できれば俺の力だけで勝ちたかったが。それができなくなった今、もう取り繕う必要などないな。俺は、こいつを殺せればそれでいい」
メッシュの独白に、周囲の彼を糾弾するような視線が強くなっていく。
「……絶対にさせない」
アリシャは唇を噛んで悔しそうにすると、なにかのウインドウを操作し始める。その速さたるや、俺が現実世界で見たコンピュータに強い三人娘と同等、いやそれ以上のモノだった。
彼女がなにをしているのかわかった俺は、足を動かしてみる――床を離れてちゃんと動くようになった。
「ほう? 流石は女王陛下の娘だ。だが障壁が破れなかったところを見ると……二つ目は防げまい」
メッシュがニタリと笑ったかと思うと、今度は俺のHPが一定間隔で減り始めた。……クソ、また状態異常でもないのに。
「……ッ!!」
アリシャは表情を険しくして操作するウインドウを増やす。が、一向にHPの減りがなくなることはなかった。
「……アリシャ。移動阻害だけ、頼めるか?」
「……リューヤ、でも……!」
「大丈夫だ。――行動が阻害されてなきゃ、負ける要素はない」
俺はわざとメッシュの怒りを煽るように告げた。案の定、ぴくりと眉を跳ね上げている。
「……わかった」
アリシャは力不足を実感したのか肩を落としながら、移動阻害を弾き続けてくれた。
「……余裕だな、リューヤ。この状態で俺に勝てるわけがないだろう?」
「はっ。自分の実力じゃ勝てないと認めてるヤツに、負ける理由なんてないな」
怒りを煽るように鼻で笑い、回復アイテムで一度HPを完全回復させる。とはいえ継続ダメージがあるせいですぐに減り始めてしまうが、これに対抗する術は持っていた。
「頼むぞ、フレイ。――【金不死鳥扇士・ゴールデンフェニックス】」
俺は金色の翼を持ち、黄金の和服に身を包む。両手に扇を持っており、金の火の粉が全身から舞っていた。ジズの『UUU』を使った時と同じような姿だが、色合いの影響か神々しさが増しているようにも感じる。
不死鳥とついてはいるが、死なないわけではない。だがHP継続回復の効果が常時発動する。これはMPを消費しないため、念のためにと取っておいたわけだ。メッシュがここまで俺に殺意を抱いているとは考えていなかったが、攻撃特化故に補いづらい回復を残しておいたのは正解だったかもしれない。
おかげで継続ダメージが緩和される。ただ回復量よりダメージの方が多いようで、僅かに減っていってしまっている。……猶予はあまりないか。
「……ふん。まぁいい。ダメージで死ぬよりも、俺の手で殺してやりたいからな!!」
メッシュは鼻を鳴らしつつも、これ以上余計な手は借りないようで剣を構えて突っ込んできた。……良かった。HPを一瞬でゼロにするとか使ってこなくて。多少なりプライドがあるようだった。
「そう簡単に殺れると思うなよ」
俺も迎え撃つ構えで駆け出し、多くの属性を纏う剣と金の炎を纏う扇が激突する。余波が互いに髪と衣服を揺らし、しかしどちらも後退しない。メッシュもMPの消費を抑えたいがために威力を下げて使っているからだろう。
俺は舞うように両手の扇を叩きつけメッシュの動きを阻害する。その上で金の焔を操りダメージを与えていった。
メッシュもただ防戦一方というわけではない。攻撃は全て盾で受け止め、隙を見せれば即座にカウンターを使ってくる。
残りHPを気にしながら自分のHPが削られる前に敵のHPを削れるよう猛攻を繰り出す。メッシュは確実に防御を上げ、ダメージを軽減させて耐えながら俺のHPがより削れるように攻勢に出る。
そんなことを繰り返している内に、互いのHPが半分を切った。ややメッシュの方が少ないだろうか。だがHPは同じではない。前衛壁職のメッシュとそれ以外の俺では、HPの総量が違う。……やや少ない程度じゃ、予定より削れてないな。
このまま続ければ俺が先にHPを削られてしまう。その事実が重くのしかかってくる前に頭の隅へ追いやり、状況を打開する術を並べ立てていく。
……一応勝ちを拾える手立てはあるが、条件が整っていない。上手くいけばメッシュの『神聖七星剣』を封じることもできるのだが。
順当にやっても負けそうなら、賭けに出るしかない。あとは【弁財天】と【恵比寿】さえわかれば……。
「【金焔】、発動!」
【金不死鳥扇士・ゴールデルフェニックス】における最強のアビリティ。アルティとの時に使った【絶牙】と同等のアビリティだ。いくつか獲得してわかったが、これらのアビリティは共通でステータスが大幅に上昇する。
【金焔】は時間経過に加え、傷つく度にステータスが上昇していく。継続ダメージがある今、俺のステータスはどんどん上がっていった。全身が金の炎のようなオーラに包まれている。もう一つの効果は、もし発動中プレイヤーのHPがゼロになった場合HP半分で生き返りステータスが倍になる、というモノだ。それがわかっているのか、メッシュは明らかに攻撃の手を緩めた。削りすぎたくないのだろう。
俺の攻撃の手は増加し、メッシュは防御に専念する。よって徐々にHPの差が広がっていった。そして膨大なステータスを手に入れたところで、必殺の一撃を解放する。
「――【金焔】、必殺ッ!!」
不死鳥が、生き返ることを許さぬ業火を放つ。
「ぐああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
炎に呑まれたメッシュから絶叫が上がり、見る見る内にHPが削れていった。……このまま倒れてくれれば御の字だが――。
次の瞬間、炎の中で人影がメッシュから女性に変わった。炎が収まった後、後方に移動していたメッシュは悠々と佇んでいた。しかも、HPとMPが全快している。
「……よくやったモノだ。今のは【弁財天】の効果、一度のみ致死攻撃の身代わり後、プレイヤーのHPとMPを全回復させる」
一応【金焔】には死を耐える効果を無効化する効果もあった。だが身代わりでは発動できない。あくまで延命措置を阻害するだけなのだ。……これなら、序盤で追い詰めておけば良かったな。【金焔】を終わらせるためにステータスを一定以上にする必要があり、その時間が確保できないだろうから追い詰めた時切り替えなかったんだが。フレイとの『UUU』だけで追い詰めていれば、確実にいけてたはず。
……。後悔は一旦置いておこう。今俺は【金焔】のデメリットにより『UUU』が解除されてしまっている。その上メッシュは万全の状態だ。HP継続回復もなくなり放っておいても死ぬが、こいつはトドメを刺しに来るだろう。
「これで終わりだな、リューヤ」
「……この上【恵比寿】の能力まであったら、勝ち目はないと言っていいな」
「安心しろ。【恵比寿】はただ他の六つの効果を大幅に引き上げる効果だ」
剣を大きく振り被って使える全てを集束させたメッシュは、勝ちを確信しているのかべらべらと喋ってくれる。……慢心してくれて助かる。どうやら俺の賭けは、功を奏したらしい。
俺はHP回復アイテムを取り出して回復を試みる。
「させるわけがないだろうッ!!!」
メッシュは俺が回復する前に、特大の斬撃を放ってきた。……そうだ、それが普通の反応だ。
「『ウェポン・チェンジ』」
斬撃が届く前に装備を変更する。一度使った【氷炎亀盾士・キャニオンタートル】ではなくただの剣と盾だ。アリシャが造ったモノなので、プレイヤーメイドとしてそれなりに強いはずだがあまり重視していないためメッシュやジュンヤのそれと比べると見劣りしてしまう。
だが俺の予想が正しければ、これでいい。むしろこれでないとダメだ。
俺は攻撃が当たる直前でキーとなる言葉を唱えた。
「――我が威を示せ!! 『神聖七星剣』!!!」
俺が左手の剣を掲げて唱えると、剣に光が灯り力が宿る。同時に【寿老人】の効果が発動してHPが回復し始めた。
「……は?」
呆然とするメッシュを他所に、俺へ斬撃が当たる。盾で身体を隠すようにして耐えながら、取り出していた回復アイテムを使用してなんとか堪え切った。……一撃でレッドゾーンか。回復アイテムを使ってなかったら即死だったな。
継続回復よりダメージの方が大きいため、慌ててアイテムを使い回復していく。メッシュからの追撃を警戒していたが、愕然として手を出してこなかった。プライドをかけていた自らの最強を真似されたからだろうか。
「……なぜだ。なぜ、貴様が『神聖七星剣』を使える。貴様の『UUU』や『DDD』と同じく、一人にしか獲得できないはず。『物真似』などのスキルならプレイヤーのスキルも使えるだろうが、例外になっているはずだ」
激情に駆られるかと思ったが、余程精神的なダメージが大きかったのだろう。声が震えていた。
「……唯一、そういうスキルでさえも他プレイヤーが使える手立てがある」
今も尚手を動かして移動阻害を邪魔してくれているアリシャが呟いた。彼女にもまだ明かしていないためか、少し声が震えている。
「……あなたはそのスキルを、知ってるはず」
「っ!? ま、まさか! そんなはずがないだろう! アレはデスゲームにしなかった場合に取得できるという話だったはずだ! 攻略を急ぐことになる以上、取得は限りなく不可能に近いと結論が出ていた!!」
メッシュは声を荒げて否定する。
「……でも、それ以外に考えられないのも事実」
「ッッッ……!!!」
アリシャの言葉に、メッシュは苦虫を噛み潰したような顔になった。……この間に攻撃してしまうという手もあったが、メッシュの攻撃のほとんどを無効化できると考えれば時間経過を待つのも一つの手だ。加えて回復アイテムを使用して戦闘再開に備えておく。
そんなことをしていると、メッシュが俺を悔しさを滲ませながら睨みつけてきた。
「……このIAOというゲームにおいて、アビリティ、ひいてはスキル数というのは膨大だ。それがタイトルになっているのだから当然だがな」
Infinite Abilities Online。それがこのゲームの正式名称だ。直訳するのであれば、『無限のアビリティがあるオンラインゲーム』となる。流石に本当に無限ということはないが、それでも他のゲームより多いからこそこのタイトルにしたのだろうと窺える。加えてデスゲームとなった今でも随時追加されていっている。簡単に入手できるチートスキルなんかは追加できないだろうが、細かい新スキルは今も確認され続けていた。
「そんなIAOで、|スキル取得数を全体の七割以上の状態で三ヶ月キープし続ける《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》ことがどれだけの労力を要するかは、実際にゲームをやっている者ならわかるだろう」
俺を見るメッシュの目には、珍しいことに畏怖が宿っている。
「……運営に徹している連中がスキルを追加し続けているのはわかっている。もしかしたら実際にゲームとして運営するよりも速いペースで、だ。その状況下でスキルを取得し続けるなど、短くプレイしたい現状では不可能のはずだった。それを、貴様は――」
メッシュはワナワナと震えている。やはりと言うべきか、俺の所持しているスキルに心当たりがあったようだ。正確に答えに辿り着いている。
「――『全知全能』。それが俺の持っているスキルの名前だ。取得条件は……言わなくてもわかってるみたいだな」
「当たり前だ。IAO内事実上の最強スキルだぞ。俺達が知らないわけがない」
「……取得条件はスキル取得数が全体の七割以上になっている状態を三ヶ月間維持し続けること。そして武器、魔法に関連するユニーク以外のスキルを全て取得すること。特殊な条件下で習得する以外の職業を全てレベルMAXにすること。並みのプレイ時間じゃ到達できない」
メッシュが忌々しげに呟き、アリシャが細かな取得条件を説明する。プレイし始めた時間は同じだが、総合的に上昇しているレベル、ひいては必要経験値の格差を自分と比べて悟ったのか、他のプレイヤーも驚愕していた。
因みに剣、魔法に関連する特殊なモノを除いた全てのスキルを取得すると就ける《究極魔剣士》が俺の今の職業である。
「最強スキルだなんて言ってたが、そう簡単なスキルじゃない。自分が持っていないスキルの名前、効果を全て把握した状態ならそのスキルが使えるって効果しかないんだ。……お前がべらべら喋ってくれなきゃ、使うこともなかったんだが」
「……チッ」
わざわざ獅子を起こすような真似をしたのはそちらの方だ、と告げると盛大に舌打ちしていた。
「これで、『神聖七星剣』ではダメージが通らなくなったな。どうする? 継続ダメージを増やしてみるか?」
「……調子に乗るなよ。『全知全能』を持っていたところで俺の勝利は変わらん。『神聖七星剣』がダメなら、別の方法で殺すだけだッ!!」
「そうなるよな」
メッシュが『神聖七星剣』を解除して『ウェポン・チェンジ』で武器を槍に持ち替える。名前から予想していたが、おそらく武器が剣でないと使用できないのだろう。
これでほぼ一方的に攻撃できる、ということはしない。あくまでも『神聖七星剣』の発動はメッシュのそれを封じるためのモノだ。……こいつとの決着は、借り物じゃなく俺が会得してきたスキルで行いたい。
「……これで決着にしてやる。いくぞ、相棒ッ!! ――【影神狼双牙士・シャドウレオンウルフ】!!!」
HPが減るよりも速く、相手を殺す。その覚悟を持って、頼もしい相棒の力を借りることにした。
「――【絶牙】、発動」
最初から【絶牙】を発動。大幅なステータスアップに加え、時間経過と共にステータスが上昇していく。また攻撃を加えることで上昇していくステータスの割合が上がる。
「『神聖七星剣』を封じた程度で、俺に勝てると思うなよリューヤぁぁ!!」
メッシュも自身を強化するアビリティを重ねて戦闘態勢を整えた。
……長く続いた八十階層のボス戦も、ようやく終わりを迎えられそうだ。
長く続いた八十階層戦も、ようやく次回で終わります。




