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Infinite Abilities Online   作者: 星長晶人
煮えたぎる溶岩編

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八十階層ボス戦

 デルニエ・ラトゥール七十九階層を突破した俺達は、次の八十階層を探索した。モンスターの傾向から次のボスを割り出そうとしたのだが、出てくるモンスターは騎士ばかりだった。これはボスも騎士団長みたいな感じか? という予測が立てられる。真っ向からの勝負であれば準備をすれば問題なく対処することができる。

 まぁ特殊な要素もあるはずなので、それの対策に満遍なくプレイヤーを選出していく。


 デルニエ・ラトゥールは階層を進む毎に敵のレベルが1ずつ上がっていく。最終的にはプレイヤーでは今俺のみが到達しているレベル100同等にまで上がるという。つまりラスボスに挑む時は最低でも挑むプレイヤー全員がレベル100に到達していないといけないというわけだ。

 最上階に辿り着くまでに、今いるトッププレイヤー達が死ななければ最も早く挑めるだろう。だがそう簡単にはいかないはずだ。


 ……俺も、レベルが高いからと言って油断できるほどの余裕はないしな。


 俺がソロでやってきているというのも理由の一つかもしれないが、それはテイムモンスター達で多少なりとも補える。強いて言うならサポート関連がないのが辛いくらいか。


 とはいえ本当に余裕もなく、一応レベルが最も高いプレイヤーであるにも関わらず、になってしまうのだが。俺は階層攻略はほとんどボス戦にしか顔を出していなかった。ソロだと難易度が上がる分動きやすくなるため、他と進み具合を一定にする必要がない。その結果俺が先行して階層のアイテムを取ってしまう、なんてことを防ぐためという理由であった。

 ゲームなら早い者勝ちだろ、という意見ももちろんあると思う。だがこれはゲームであってもデスゲーム。プレイヤー同士の協力が不可欠だ。ただのゲームなら、例えば一つのギルドだけで挑むとしても何度もトライ・アンド・エラーを繰り返して敵の情報を暴きモーションを読み切るまで死に戻り続ければいいだけだ。だが今の状態においては、時に譲り合いの精神も大事ということだな。特に俺は無限迷宮の最前線を突っ走っているので、その分他のところでは譲って欲しい。万が一にも俺が死んだ時に装備や素材の偏りがあると今後が苦しくなるから、という真っ当な理由だ。特に異論はないので、先行したパーティのマッピング情報を貰ってから挑むようにしている。やはり敵の情報は文章で読むより体感した方がいいからな。


 敵のレベルが1上がるだけ、と慢心はせず今できる準備の全てを整えて八十階層へ挑む日がやってきた。


 今回はいつも生産面でのサポートに回るアリシャが、パーティに入って階層ボス攻略に協力してくれるそうだ。なんでも終盤に差しかかってきたため事前情報との差異の大きさを確かめたいのだとか。あまりにもボスが違うようであればその場でのハッキングも辞さないという。

 まぁハッキングの相手が相手なのでアリシャに勝ち目はないそうだ。だから結局のところスキルで読み取れる程度の情報しか得られない可能性もある、ということだったが。ただこういう時真っ先に反対しそうなメッシュが黙っていたのは珍しいなと思った。


「なにか気がかりなことでもあるのか?」


 アリシャが参加を表明すると言ってきた時、俺はそう返したものだった。アリシャの工房で装備やアイテム、モンスターの最終確認をしながらのことである。今は丁度フレイのブラッシングをしていた。炎の毛並みを持っているので意味があるとは思えないが、気持ちいいのか心地良さそうにじっとしている。

 以前アルティにしていたら羨ましそうに見ていたので、ブラッシングが多少なりできるヤツだけすることにした。もちろんそれだと不公平なので、他のヤツもなにかお手入れをしてあげている。


「……ん。言えないことだから」

「そっか」


 アリシャだけでなく、手下にも伝えられないように設定されている情報というのがあるらしい。言っても聞こえず口の動きすら見えないようになる徹底振りだ。曰く、「ネタバレほど嫌なモノはない」だそうな。


「じゃあアリシャなら、八十階層で起こることを少しはマシにできるってことか?」

「……わからない。多分、根本解決は無理。でも、やるだけやってみるつもり。一緒に行かないと、挑戦もできないから」

「そうだな」


 ある程度物事を前向きに捉えられるようになってきたようだ。そんな彼女の変化を嬉しく思っていると、


「……リューヤは、私が守る」


 じっと俺を見つめてきて言った。ありがとう、と返そうと口を開いたら大人しくしていたフレイが起き上がって割り込んできた。


「えっと……フレイも守ってくれるのか?」

「ピィ」


 頷いてみせるフレイ。ありがとうの意味も込めて存分に撫でてやった。

 装備品でメンテナンスが必要なモノを預け、レベル上げやスキル取得に最終調整時間を費やすのだった。


 ◇◆◇◆◇◆


 デルニエ・ラトゥール八十階層、ボス部屋の前。


「いよいよ八十階層だ。十階層毎に強さが変わることもある。気を引き締めて攻略するぞっ!!」

「「「おおぉ!!!」」」


 ジュンヤの宣言に、皆気合いを入れて応えたのだが。その気合いは空回りすることになる。


「……ボスが、いない?」

「ここに来て事前情報を外してきたか……!」


 部屋に入ってもボスの影がなかったのだ。アリシャの情報では巨躯の騎士王みたいなボスだったのだが。隠れているというわけでもなさそうだ。部屋が明るくなり、全体を見渡せるようになっても姿が見えなかった。

 困惑する俺達を他所に、ボス部屋の反対側へと歩を進めるプレイヤーがいた。


 ――メッシュだ。


「団長……?」


 『軍』のメンバーが、その背中になにかを感じ取ったのか怪訝そうに声をかける。……俺は動けなかった。メッシュの背中から感じる敵意(・・)に。


「――では、ボス戦を始めようか」


 メッシュは振り返って一人俺達と対峙する。


「な、なにを言ってるんですか!?」

「そ、そうですよ! だってメッシュさんはプレイヤーじゃ……ぁ」


 口々に、特に『軍』所属のプレイヤー達が困惑の声を上げる。言葉を失っているモノも多かったが、誰かの言葉で思い至ってしまった――ボスになれるプレイヤーがいると。


「……まさか、そんな……!」

「嘘だ、嘘だと言ってくれ!!」


 信頼していたギルドマスターが自分達を裏切るはずがない。そう思いたくて口にする言葉や、膝から崩れ落ちる者。『軍』所属でなくともトッププレイヤー二枚壁として戦友のように思ってきたであろうジュンヤも立ち尽くしている。


「残念だが、お前達が察した通り。俺は“乗っ取り女王(ハッキング・クイーン)”の配下だ。そして、この八十階層のボスでもある」


 彼の言葉通り、メッシュの頭上には敵対オブジェクトを示すカーソルが浮いていた。


「……なぜ、わざわざプレイヤーとして参加していた」

「言っておくが俺は全員を騙してやりたかった、という感情は持ち合わせていない。最初からこの辺りのボスとして登場する、ただそれだけの役目だった。だがそれだけではつまらない。折角のゲームだ。ゲーマーとして、プレイヤー目線で楽しみたいと思うのは自然なことだろう?」


 メッシュは絞り出すようなジュンヤの質問に、至極冷静に答えていた。


「っ……! なんで、女王なんかに協力してるんだ!?」

「女王陛下は偉大なお方だ。そこの例外を除いて、皆なにかしらの救済をいただいている。その恩に報いるため」

「そこを退く気はないんだな?」

「ああ。私に与えられた役割は、ここのボスというだけのこと。それ以外に仕事はない。逆を言えば、ここで退くことはない」

「……そうか」


 ジュンヤはギリッと歯軋りをして戦闘態勢に入ろうと――


「だが、お前達は後だ」

「なに……っ!?」


 怪訝な顔をしたところで、プレイヤー達が弾かれるように部屋の壁際まで後退していった。……俺を除いて。


「お兄ちゃん!」

「リューヤ!!」


 外側から皆が俺を呼ぶ。だが前に進もうとしても見えない壁に阻まれているのか、戻ってこれないようだ。


「……先に俺を倒したい、と?」

「ああ。俺が貴様に挑む理由は二つ。ゲーマーとして最強と呼ばれる貴様を倒して俺が最強になる。そして、貴様に殺された弟の敵討ちだ」

「弟だと?」

「ああ。名前で気づいているかと思ったが……ナッシュは私の弟だ」


 メッシュがそう言った時、ようやく理解が及んだ。


 ナッシュ。かつて姉ちゃんのストーカーとして女王の力を借りて立ち塞がり、そして倒したプレイヤーの名前だ。確かに名前は似ているが、それだけでオンライン上の兄弟関係を察知しろという方が難しい。顔立ちが似ているとも限らないわけだし。


「……そうか、あいつが。けど、俺はあいつを倒したことに後悔はしてない」

「だろうな。俺も、肉親とはいえナッシュはクズで愚鈍で、愚か極まる人間だと思っていた。肉親の情なども最低限持ち合わせているか怪しいところだったが……それでも殺された時は怒りが湧いてきた。ここまであいつを想っているつもりはなかったんだが、不思議なモノだ」


 メッシュは穏やかに苦笑していた。


「ナッシュを殺したのは私よ! 戦うなら私が……!」

「いや、リューヤがいなければ弟の思うままに終わっていたはずだった」


 姉ちゃんの反論はあっさりと否定されてしまう。


「だからこそ、貴様を殺す。だがただ殺すだけではダメだ。俺が最強プレイヤーとなるために、正々堂々一対一で戦う必要がある」

「二つの理由を満たすための、この状況ってことか。でもゼネスの時みたくボスステータスにされると勝ち目が薄いんだけどな」

「安心しろ。正々堂々と言っただろう? 俺は本来の俺のステータスで貴様と戦う」


 敵のレベルは既に表示されている。そこに記されたレベルは100。俺と同じだった。確か七十九階層に挑む前は95ぐらいだったかと思うが、一気にレベル上げしたのだろう。


「決闘と同じようなルールで行うが、決着はどちらかのHP全損のみだ」

「……」


 HP全損と言われれば重い気はするが、俺は兎も角メッシュは女王側のプレイヤーだ。ゼネスがそうだったように相手だけ死なない勝負となる。


「なにか勘違いしているようだが、俺はゼネスのように命が惜しくはない。ボスになる前にプレイヤーとして死んだ場合も然りだ。その場合はこれまでのようにボスモンスターが配置されるだけのこと」

「……。じゃあ、なんのためにお前はここにいる。女王はなにを考えてお前を配置したんだ?」

「女王陛下のお考えを、我らが理解できることはない。十伝えられても一理解できればいい方、という次元の話だ。元より一のみしか聞いていない」


 妄信に近い状態のようだ。目的まではっきりさせなくても、それがあいつにとって必要なことだからという理由で享受する。


「……そうか。なら、さっさと始めよう」

「潔いな。もっと狼狽えてもいいが?」

「狼狽えるなんて無駄な時間だろ。……でも最後に一つ、聞いておきたい。俺が負けた場合、八十階層のボスはどうなる」

「簡単だ。私がボスステータスになり、レベルが八十に下がって戦う」

「なるほど」


 そこでレベルそのままとはいかないようだ。それが本当なら有り難い。……とはいえ、果たしてメッシュの言葉をそのまま信用して良いのかとは疑問に思う。これまでのこいつの言動を考えれば、俺にこうして真っ向から勝負を挑んでくる時点でなにか仕かけていてもおかしくはない。だがアリシャは既にハッキングを試みている状態で、なんの状況変化もない。つまりどう足掻いても俺がこのまま戦うしかないわけだ。


「どっちにしても俺が戦わないって選択肢はなさそうだしな。……この勝負、受けて立つ」

「そう言ってくれると思っていた。では始めよう。最強のプレイヤーを決める戦いを!!」


 メッシュは言って、身体を覆う白銀の大盾と純白の片手直剣を構える。

 俺も応じて、腰に提げた聖竜剣・ホーリードラゴンと闇竜剣・ダークドラゴンを抜き放った。


 こうして、イレギュラーな八十階層のボス戦が幕を開けるのだった。

日間に初めて載った時感想で散々言われてましたが、SA◯好きすぎでは? 違いは色々ありますが、一番大きいのは勝負を受けるメリットが主人公に存在しないことですかね。ボスとして皆で協力して戦った方が多分楽です。

因みに連載開始からかなり時間が経っていますが、この辺は当初の予定通りに書いていますね。

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