デルニエ・ラトゥール攻略戦
前回は更新し忘れで日付がズレましたが、一応週一ぐらいのペースで更新できているので、完結までこのペースでいきたいところですね。
アリシャが“乗っ取り女王”の娘であることが判明したサバイバルイベントから一ヶ月が経過した。
トップギルドの合同戦線によって解放された海のダンジョンはクリアされ、残った他のダンジョンも次々と攻略されていっている。
残るは主にデルニエ・ラトゥールのみ。
とはいえまだ七十八階層をクリアしたばかりだ。あと二十二階層も残っている。加えておそらく報酬の強い装備、アイテムを途切れさせないためだろうが十階層毎攻略するとダンジョンが出現していた。その中には中級プレイヤーでも挑める難易度のダンジョンがあるので、そういうモノを譲るというのも最終的な攻略には必要になってくる。
俺は階層を上がる時に呼ばれてボス戦に参加していた。やはり先へ進むには戦力を集中させる必要があるのだろう。というよりは階層ボスが現状最大の敵になるのでできるだけ強いプレイヤーを集めたい、か。
俺としても妹や姉ちゃん、これまで関わってきた人達を自分の手で守れるので意欲的に参戦している。もちろん連携の輪を乱さないように、予めこういう時に攻撃していいと言われているのだが。
デルニエ・ラトゥールは全百階層。最初の頃は中級プレイヤーでも生還できていたが、五十階層を越えた辺りからトップギルドが助力し、攻略に挑んでいる。俺が呼ばれ始めたのは七十階層を越えてから。会議の時にレベル100だと言ってしまったせいだろう、呼ばれるのが一番遅かった。
その間はアリシャにアドバイスを貰いながら俺がよく使う装備品を強化、変更して準備を整えていた。スキル構成も見直す時間になったのだが、数が多すぎて構成もなにもなかったので、とりあえず取得していないスキルをがんがん取っていくことにした。なにが役に立つかわからないし。
そして無限迷宮でレベル上げ。全員『UUU』の奥義とも言える技が使えるようになるまでひたすらテイムモンスター達のレベルを上げていった。
ゲームクリアも近づいてきたという実感があるのか、プレイヤー達の士気も高い。七十八階層まで一切の死者を出さずに突き進むことができた。
次は七十九階層。前線にいないプレイヤーもクリアが近づいてきて徐々に表情が晴れやかになっていった。目と鼻の先、というほど近くはないが現実味を帯びてきたからだろう。個人的には希望を抱くにはまだ早いと思っているのだが、まぁ絶望しながら過ごすよりは健全だろう。過度な期待は禁物だが、期待に応えられるように死力を尽くしたいところだ。
今のところ大きな死者はないので、アイテム補充や消耗した装備の補填を経たらすぐに次の七十九階層へ挑むつもりだった。キリのいい十階層毎のボスは強さ、厄介さが跳ね上がることがあるのだが、それまでは緩やかに強くなっていくのだ。油断はならないが二の足を踏むほどではない、というところか。
デルニエ・ラトゥールの問題点は一つだけ。ボス部屋に入ったら出られないという仕様があることだ。だからボスの姿と特徴だけを偵察して攻略に活かす、ということができない。行動パターンがわかっていない状況でのボス戦は、デスゲームの中でも過酷と言えるかもしれない。トッププレイヤー達が警戒している「初見殺しギミック」とやらが搭載されていないことを祈るしかない。
「よし、全員揃っているな?」
リーダーを務めるのは『ナイツ・オブ・マジック』のギルドマスター。職業《魔鋼騎士》のジュンヤだ。ソロでやっている俺はリーダーに向かないし、『軍』のメッシュは俺と反りが合わない。人柄と実績によって選ばれたのが彼である。
あと挙げた二人と違って支えてくれる奥さんがいることも、リーダーとしての重荷を任せられる理由の一つかもしれない。俺はそういう相手がいないし、メッシュも噂は聞かない。というかあいつは誰かに相談したり弱音を吐いたりするんだろうか。
場所は七十九階層、そのボス部屋前のセーブポイント。セーブポイントではあるのだが、別にここから生き返れるわけじゃない。次来た時、ここから始められるというセーブポイントだ。問題としてある程度パーティ単位でしかセーブポイントを利用できないため、パーティ毎ボス前までは攻略を進めておく必要がある。俺はソロだからあんまり関係ない。
もちろんボスを自分が倒そうと逸って部屋に入り抜け駆けしようとするプレイヤーもいるのだが、最近は滅多になくなった。普通に生きて帰れないからだろう。下の階層だとそういうのが発生していたらしい。ボスを討伐した時の報酬装備などが欲しいんだと。まぁフィールドが更新されなくなってエリアボス討伐素材から造れる装備もなくなったし、強くなるためと思えば気持ちがわからないでもない。
まぁ流石にセーブポイント前で屯ろしてセーブポイントに触れさせず、という戦法はよろしくない。実際のゲームだったらマナーが悪いくらいかもしれないが、デスゲームは協力しなければならないのだ。
そういう場合にはボス討伐報酬よりいい装備をあげたり作ったりしていたこともあったかな。作るはアリシャだが。俺の場合初期のエリアボス報酬とかもう使わないのでプレゼントしていた。
もちろんマナーの悪いプレイヤーにはそういう補填をしなかった。
……一番最初のエリアボス討伐報酬を強化したヤツを渡したら、「これがあの時の!?」とめっちゃ喜ばれた。俺からするとあんまりいい装備じゃないんだが、まぁ喜んでくれたならいいのかな。
閑話休題。
今はジュンヤ主導でトッププレイヤー達がセーブポイント前に集まっている状況だ。相手がなにをしてくるかわからない以上、万全の準備を整えるのは難しい。だがどこかが層が薄くなってしまうとしてもなるべく満遍なくボス戦に必要な要素を集めているのが彼の基本方針だ。それにプレイヤー達も理解を示し納得しているからこそ、ジュンヤがリーダーを任されている。
ボス戦に必要なのは第一に回復、防御。強いボスになればなるほど攻撃力が上がっていく傾向にあるので、まずできるだけ死なないことを重視する。蘇生はできないので、回復は単純なHP、MP以外にも状態異常がある。厄介な状態異常を重ねがけされて詰む、なんてことがないようにしているのだ。そういった参戦者を欠かさないために必要不可欠な人員には、状態異常無効の装備品などをつけてもらうようにしている。ボス戦のみのレンタル、若しくは普段からパーティでそういう風にしているかは兎も角。
次に火力。死なせないための回復と防御も重要だが、敵を倒せなければ意味がない。中には一定時間以内に敵の障壁を削らないとそもそも敵のHPを削ることすらできない、なんて敵もいる。一定時間以内に周りのモンスターを一定数倒さないとボスが降りてこないとかもあったなぁ……。
俺は火力要員なので、敵の防御力が硬くなってきて削りづらくなってきたな、という辺りで呼ばれ始めたのだ。
「今回のボスは炎の属性を使う可能性が高い。それが確認できたら支援職は【レジスト・フレイム】などを味方にかけて属性耐性を高めるように」
ジュンヤは改めて指示を出す。七十九階層が炎熱地獄かと思うほどアッツいフィールドだったためにボスも炎を使ってくるだろうという当然の予測だ。これまでの階層でもボス部屋に行くまでで感じ取れたテーマに沿ったボスが出てきている。中には「そこいくか!?」という驚きもあったのだが、大体は合っていた。
「もし違っても慌てることはない。落ち着いて、一つ一つボスの特性を暴き攻略していこう」
「「「おおぉっ!!」」」
気合いの入る大声ではなかったが、落ち着きを払ったリーダーの言葉に気合い充分に応えた。
そしてジュンヤを先頭にボス部屋の大扉を押し開き、中へ歩を進める。
緊張感が高まり、自然と無言になった。黙って進んでいくと全員が中に入ったことを確認してから大扉が自動的に閉まる。そして真っ暗になった大部屋が炎で明るく照らされた。眩しさに目を細めていると、部屋の奥から灼熱の火柱が複数上がり、足場の外にある領域でごぽごぽと音を立てる溶岩の中から、足場に溶岩の手が這い出てきた。見るからに熱そうな蒸気を生みながら這い出てきたのは、溶岩の巨人。ぽたぽたと垂れる溶岩が足場を熱している。――名前の表示がボルケーノ・タイタンとなっている。レベル表記はこれまで同様階層と同じ七十九。
全身が溶岩で出来た体長十メートルの巨人。目の部分が黄色く光っており、胸の真ん中だけ空洞があって赤い球体が浮いている。
それが、二体。
そして更に奥から|上半身だけで二体より大きい《・・・・・・・・・・・・・》溶岩巨人が現れた。……上半身だけで十五メートルくらい、となると全身は三十メートル近くか。
だが奥に出てきた巨人はプレイヤーが入れる戦闘フィールドの外に上半身だけを出して留まっている。
名前はボルケーノ・ジャイアント。第一段階では直接手を下すつもりがないらしい。あっても援護程度か。
「支援職、バフを! あと盾役に継続回復! 多分あいつらの近くは溶岩が垂れて継続ダメージ床に変わってる!!」
ジュンヤが経験から推測した情報を、声を張って連携、指示する。こういう判断の早さもリーダーにとっては大事な要素だ。
「おそらく手下を倒すとボスが出てくるパターンだ! 消耗を少なくするため、左右それぞれの敵を少数精鋭で撃破! 残りは正面のボスに遠距離から攻撃!!」
次々と指示が飛び、そのように動く。ジュンヤの指示によって盾役のプレイヤー二名がボルケーノ・タイタンの下へ移動し足止めする。ジュンヤとメッシュという二大盾プレイヤーは正面でボルケーノ・ジャイアントの攻撃を受ける構えだ。
「リューヤは右! それ以外は左で頼む!」
俺に対しての指示が飛んできた。「了解」と短く答えて右にいるボルケーノ・タイタンへと向かっていく。なぜ俺と俺以外で分けるかというと、ソロプレイヤーに対する指示だからだ。ジュンヤの認識として、俺以上に通常火力の出るプレイヤーはいない。瞬間火力なら勝るプレイヤーはいるかもしれないらしいが。
「【海古竜槍士・リヴァイアサン】」
属性の有利が取れる水を操るリヴァアの力を借りることにした。
紺の瞳に青髪。袖のない紺色の和装を着込み、しかし足元はなにも履いていない。腕の外側にヒレが生え、尻尾もついていた。特徴的なのはやたら長い青のマフラーと青い槍。
「【海竜竜巻】」
初手、槍を頭上でぶん回して敵を水の竜巻に閉じ込める。ボルケーノ・タイタンのHPががりがりと削れていくのが見えた。ボスではないからかHPはそこまで高くないようだ。
「【水の道】」
地面から水で出来た道を空中に作り出す。作った俺のみが走ることのできる特殊な道だ。ぱちゃぱちゃと音を立てながら敵へ駆け上がっていき、
「【竜撃槍】ッ!!」
水を纏った槍ごと弱点らしき胸の球体へ向かってダイブし、多大なダメージを与えた。地面に着地する時には水が足元に散って滑り体勢を直してくれる。
「……これでHP半分か。こっちは早く終わりそうだな」
削ったHPを見上げて確認し、冷静に呟いた。ジュンヤが警戒していた継続ダメージも、【海古竜槍士・リヴァイアサン】が移動補助のために発生させる水で冷やすことができる。足元をうろちょろしているだけで味方が有利になるかもしれない。
様子見でアビリティを叩き込んだが、後の本番に備えてMPを温存しながら他プレイヤーと協力してボルケーノ・タイタンを討伐する。やや遅れてもう一体も倒された。その時点で残ったボルケーノ・ジャイアントがのそりと溶岩の海から這い出てくる。やはり大きさは三十メートルほど。巨大というのはそれだけで威圧感を齎してくるモノだ、と改めて実感する。
「見たところ動きはそこまで速くない! 直接攻撃は必ず二人以上で受けるようにしてくれ!」
指示が飛び、盾役のプレイヤー達がボルケーノ・ジャイアントの正面を位置取った。支援職は改めてバフをかけ直し、タイタンとの戦闘で消耗した者達は一旦回復を優先する。
ボルケーノ・ジャイアントはタイタンとは違って攻撃パターンも多かった。より広範囲により大きなダメージを与える攻撃が増えてきたせいで前衛は兎も角後衛の防御が高くないところは結構危ない場面があった。だがトッププレイヤー達もレベル九十台に乗っていることもあり、特段苦戦することはなかったように思う。
「【海古竜冥轟列波】!!!」
この姿での最強アビリティを叩き込む。水流が竜の姿となって空を泳ぎ、敵へと向かって突撃していく。巨大な水の竜が溶岩の巨人と激突する様は凄まじい迫力があった。
真正面から激突している間に足元を削られて仰向けに倒れたところを、一斉に襲いかかってHPを削り切ったのだ。
今回も死者なし。だが次は強さが明確に上がる八十階層のボスだ。……なにがあってもいいようにきちんと準備しておかないとな。




