東の海岸
「とりあえず、街に帰って整理するか」
安全圏でゆっくりやりたい。
▼△▼△▼△
「さてと、整理するかぁ」
俺は椅子に座って陽気に言う。
「……何でウチ?」
そう。ここはアリシャの鍛冶屋だ。
「いいからいいから。ちょっとだけだし」
俺はそう言ってステータスウインドウを開く。
「えーっと、スキルスロットがいっぱいになるな。どうしようか」
「サブスキルスロットがある」
「おっ、サンキュ」
とりあえず、『片手剣術』と『黒魔法』と『索敵』はここがいいから、『殴術』を外して、二つをセットするか。
「よしっ」
整理完了。
「んじゃ、アリシャに聞きたいことがあるんだが」
さっさと本題に入る。
「……何?」
「エリアボスって何だ?」
「各エリアにいるボス。倒すと隣街への鍵が手に入る」
「その鍵ってのは何なんだ?」
「広場の近くにある転移ゲートに差し込んで、開けるためにある」
なるほど。
「じゃあ、これもか?」
俺はアイテムウインドウからカリムタウンへの鍵を出す。
「っ!?」
アリシャは驚愕に目を見開いた。
「アリシャの武器と防具のおかげで西の草原のエリアボス、倒しちゃったんだよな」
半分得意気に、半分苦笑して言う。
「……凄い。けど、一人で?」
「ああ。でっかいゴーレムだったな。これがその素材」
ジャイアントゴーレムからゲットしたアイテムを出す。
「首の防具、巨石像のネックレスが造れる」
「いいのか?」
「うん。エリアボスの特殊素材で造られた装備にはスキルが付く」
おぉ、いいな、それ。
「造るけど、お代はいい。エリアボス限定防具を造れるのは鍛冶屋の名誉」
そうなのか?
「まあ、ただでやってくれるんならよろしく」
「うん。『防具生成』、巨石像のネックレス」
「……」
「巨石像のネックレス。効果は、DEF、MDF中上昇」
中、か。いいな。
「ありがとな。何か、アリシャには世話になってばっかだな。何か俺が手伝えることないか?」
いい装備造ってもらったし。
「別に、ない」
「何でもいいからさ」
お礼がしたい。
「……じゃあ、一つだけ」
「おう。何だ?」
何でも来い。
「私とパーティーを組んで。やりたいことがある」
「オッケ」
俺は即答する。
「んで? やりたいことってのは?」
それが重要だよな。
「……魔法使いになる」
「なればいいじゃん」
「……鍛冶職がMAXにならないと転職出来ない」
「今は?」
「もうなった。だから、あとは転職して魔法使いになるだけ」
「じゃあ何に困ってるんだ?」
「魔法使いになっても、今まで鍛冶職だった私には魔法系スキルがない」
ああ、そういうことか。
「スキル販売店に行けば買えるけど、私は近接系だから」
魔法で攻撃しても戦力にならない、と。
「まあいいさ。じゃあ、いつからやる?」
「えっ? いいの?」
「別にいいじゃん。俺なんか、魔法戦士やってから魔法使いやろうとしてんだぜ?」
こっちの方が酷いだろ?
「……じゃあ、よろしく」
「ああ」
「私の今の職業は鍛冶職人。転職して魔法使いになる。今から、でいい?」
「いいぜ。……店の方は大丈夫なのか?」
「大丈夫。夕方には帰ってきて、開ける。それまでは閉店」
「そっか。でも、魔法使いに鍛冶が出来るのか?」
「それも大丈夫。一度MAXになった職業にはいつでも転職出来る」
そういうシステムか。
「じゃあ、転職していいぞ」
「うん。……魔法使いへ、転職」
ステータスウインドウをいじりながら呟く。すると、アリシャの身体が光に包まれた。
「っ」
眩しくて目を閉じ、光が収まってから目を開けると、……全然変わってないアリシャがいた。
「……ん。装備を整えないと」
鍛冶屋だけあって、かなり様になった装備だった。杖はマジックロッドだった。
「スキル販売店に行くか」
言って、スキル販売店に向かい、『白魔法』と『黒魔法』を選んで買った。
『黒魔法』は攻撃、『白魔法』は回復と補助らしい。道理で回復がないと思ったら。
こうして、俺達は初めてのフィールド、東の海岸へと向かった。
▼△▼△▼△
「おーっ。綺麗な海だな」
えーっと、エメラルドブルーというヤツだ。
「綺麗。モンスターは魚介類が多い?」
海岸の上にある丘から海を見下ろして言う。
「とりあえず、狩るか」
ここは、北と西の間ぐらいの難易度らしい。
「よしっ。はっ!」
俺は丘を駆け降りて、蟹っぽいモンスターに斬りかかる。
「ギ……」
「へ?」
アヴァロンソードで斬ったら一発だった。
「強すぎ」
だよな。
「エリナソードでやるか」
杖もマジックロッドで。いや、とりあえず『魔杖剣』を試すか。
「んじゃ、とりあえず一人でどこまで出来るか見せてくれ」
「……うん」
アリシャはマジックロッドを構えて、さっきの蟹、ウォータークラブに狙いを定める。
「【サンダーボール】」
杖から雷の玉が放たれ、ウォータークラブに直撃した。
「ッギィ……」
雷は効くのか、よろけた。三分の一は喰らった。
「【サンダーボール】」
もう一回【サンダーボール】を放つ。
今度も直撃し、もう瀕死状態だった。
「【サンダーボール】」
三度目。レベルの低い魔法使いでも、効果がいい【サンダーボール】を使えば三発で倒せるのか。こっちの方が簡単だな。
「――まあ、モンスターが密集してるのが難点か」
「えっ?」
アリシャはきょとんとしていた。
「ほら、集まって来た」
蟹と海鳥、あと空飛ぶ魚がいるな。
「あっ……」
まあ、大丈夫だろう。
アヴァロンソードとブレード・オブ・ロッドを構える。
「アリシャ、俺の後ろにいろよ。隙を見て攻撃してくれ」
「……わかった」
アリシャは大人しく俺の後ろに来て、杖を構える。
「こういう時こそあれだよな。【サンダーストーム】」
敵四体を雷の竜巻が包む。四体同時に倒した。
「ッフィ!」
海鳥が上空から襲ってくる。
「近接はありがたい。【スラッシュ】!」
タイミングを計ってアヴァロンソードを一閃する。
海鳥は一撃で倒した。
その調子で、片っ端からモンスターを一掃した。
「……ふぅ。大丈夫か、アリシャ?」
一息ついて、アリシャの無事を確認する。
「……大丈夫」
アリシャの返事が聞こえた後、レベルアップのファンファーレが聞こえた。
「レベルが上がったな」
「うん。あれだけ倒せば上がる」
話しながらステータスウインドウを開く。




