イベントの裏参加
幻想世界の無人島―幻想世界ならほとんどが無人だが――に来ることができた俺達とアリシャは、拠点作りに勤しんでいた。
とはいえ生産が本職の彼女が一から手を貸してくれているので、そう苦にはならない。
というか俺が一人でやるより倍速以上の速さでより良いモノが完成してしまった。
一応二人の拠点になるので以前のモノよりも大きく作ってある。
狭い空間で二人、という構図ではなくなり広々として嬉しいような、残念なような気持ちだ。かといって別になにがあるわけでもなかったんだが。
「よし。じゃあイベントストーリーを探しに行くか。と言っても多分表と同じく洞窟の方なんだろうけど」
「……ん」
すっかりこのイベント内でのいつもの面子となったアリシャ、アルティ、シルヴァと共に島の北にある大きな山の麓の洞窟へと向かう。道中の敵も手強かったが、この面子なら問題なく対処できた。
「あん? なんだてめえら」
と、洞窟に到着した瞬間中から武装したヤツらが出てきた。……プレイヤーじゃないな。これもイベントの内か?
「通りがかっただけだ。そこの洞窟があんたらの拠点だって言うなら、大人しく引き返す」
無駄な戦闘は避けられるなら避けておきたい。ソロなら兎も角アリシャがいるとなるとNPCとはいえ人を殺めるのは気分が良くないだろうからな。
「は? こんな場所に人がいるわけねぇだろうがボケが! おいてめえら、皆殺しだ!」
やはりダメか。武器を抜き放つ男達五人を眺めて嘆息する。
「アリシャ、バフを。アルティとシルヴァは一人ずつ倒してくれればそれでいい」
俺は三人に頼むと片手剣と魔杖剣を手に取って構えた。すかさずアリシャが『魔装』でバフをかけてくれる。
「さっさと終わらせよう」
「上等だ!」
ほぼ同時に動き出す――だがすぐに戦闘は終わった。
「大して強くなかったな。幻想世界のモンスターよりも弱いんじゃないか?」
「……ん。中級プレイヤーか、それ以下の強さ」
バフがあったからか、うちの子達が強いかという理由も考えられたのだが、よく他人を見てきているアリシャも同じような評価だった。
「つまりこいつらをここまで連れてこれるだけの強者がいるか」
「……または向こうとこっちを繋ぐゲートみたいなのが奥にあるか」
二人して推測を述べつつ、真実を確かめるために洞窟の中へと入っていった。俺が右手の杖で明かりを灯す。
「一応向こうの内部マップを見ながらついてきてくれ。中の構造で違いがあれば、隠し部屋なんかもあるかもしれないしな」
「……わかった」
俺とアルティとシルヴァでいつ敵が現れてもいいように警戒しつつ、アリシャに内部構造の確認を頼んでおく。こういう時に他のプレイヤーがいると確かに楽だ。とはいえ俺が本気でやった場合人に合わせずがんがん突き進んでいくのでやっぱりソロがいいのだとは思う。コンビ以上でやるなら、プレイスタイルを変えないといけない。だが俺はレベルが上限にいくまでは止まる気がない。上限に到達してもスキルレベル上げをやるから終わらないんじゃないかとは思うのだが。
「……ここって」
「……ん。元々も、資料がたくさんあった場所」
そうして歩いている内に一つの部屋に辿り着いた。そこは確か表の無人島でも資料があった場所だ。
「机の配置も俺の記憶とほとんど一致してんな」
「……ん。資料の内容も一緒」
部屋を探索してわかったことは、ほとんど全く一緒、という情報だけだった。
「どうなってんだ?」
「……わからない。まだ、情報が足りない」
二人して首を傾げて、更に奥へと進んでいく。最奥へ進む前に、サブイベントがあった火山の火口付近に続く道を進んだ。人が住んでいたことからもわかってはいたが、モンスターは出現しない。だがアンデットは出てきたな。開始早々の連中よりは強かったが、そこまでの強さではなかった。あいつらの仲間が死んでアンデットになったとかいう設定なんだろうか。
「あいつ、許さねぇぞ……っ。俺を、俺を騙しやがって……!」
火口に辿り着いたら溶岩の中から聞き覚えのある声と見覚えのある姿が這い出てきた。騙されて突き落とされたらしいヤツか。溶岩を滴らせる焦げた骸骨だ。
やはりというかアルティが怯えている。さっさと倒してしまおうか。
「こいつも見たな。だが謎の解決にはならなさそうだし、さっさと倒そう」
「……ん」
ということで苦戦もせず倒した。アルティが怯えてるとシルヴァがやる気になって必要以上に攻撃してくれるから、簡単になるんだよな。
「くそっ、俺はこんなところで……っ。あいつは言ったんだ、世界をくれるって。なのに、どうして、俺は……っ。あいつの誘いに乗ったのが間違いだったんだ……。やり直せるならあいつは絶対、会った時に……」
微妙にセリフが変わった、か? まぁあんまり覚えてないと言えばないから気のせいかもしれない。
あと溶岩が彼(?)を引き摺り込むようなことはなかった。その場でばたりと倒れて動かなくなる。
「……後半のセリフが変わってる。確か『こんな幻の世界すら手にできないのか』だった」
流石はアリシャ。いてくれて助かる。
「幻の世界、ってことは言葉だけで見ると幻想世界なんだが、逆なんだよな」
「……ん。元の無人島が幻で、こっちが本物?」
「だとしたら色々とこの世界についての鍵になりそうなんだが……まぁ先に進むか」
「……ん」
まだわからないことが多い。火口を後にして最奥を目指す。
途中途中で資料を見つけはしたが、特に変わりはなかった。一度読んだ記憶のあるモノばかりだ。だが一つだけ気がかりが見つかった。
「……ん? ここ、もう一個なかったか?」
俺はふと違和感を覚えてアリシャに尋ねる。アルティがこてんと首を傾げていたが、アリシャはこくんと頷いた。
「……確かに。資料が一つは足りない」
彼女の記憶でもそうらしい。
「ってことは、考えられることは一つだな」
「……ん。こっちにない資料があっちにあって、あっちが幻と言った」
「つまり、元からあったのは幻想世界の方で、元来た世界は今まで見てきた資料に書いてあった創造された世界ってことか」
壮大な話になってきた。だがそう考えると、偽の世界だからモンスターが弱いということも考えられるようになってくる。そして人がこの幻想世界で生き残れるとは限らないので、自分達が暮らすための世界として創ったということも考えられるようになってくる。確か貧困に苦しむ人のために、と書かれた手紙を読んだな。それはつまり、まともに人が暮らせる環境じゃなかった、ということも考えられる。
「……でも前半では、島一つを創ったとしか書かれてなかった。ならなんで、幻想世界じゃない世界が今存在してるのかわからない」
「そうだな。それにさっきの火口のヤツは騙されて突き落とされたんだと思う。けど島を創る研究をしていた人達は海賊によって滅ぼされ、海賊は逃げ出そうとした裏切り者の研究者が仕込んだ毒によって死亡した。つまりまだ見ぬ第三者の介入が、そこと繋がってる」
「……ん。行こう」
本編とは関わりのないイベントの癖して、世界の重大な秘密を握っているようだった。最後の塔じゃないとこでこんな重要なことを明かしていいんだろうか。まぁ育てやすさを売りに人を集めようとしてたからいいのか?
「ようこそ俺サマの城へ」
最奥、つまり島の中心の地下深くに辿り着いた時、俺達を出迎えたのは一人の男だった。
金髪を逆立て目つきの悪い赤目を傲慢に歪めている。首飾りや服装などから、チャラい印象を受けてしまう。そしてその表示は、明らかにプレイヤーのモノだった。
「プレイヤー、だと……?」
俺は警戒して武器を構えるが、相手は腰の短剣二本を抜かない。
「気づいたか? 俺サマはそう、てめえらと同じプレイヤーだ。つってもこれはただのアバター、AIってヤツだから殺そうとしても無駄だぜ? なによりイベント中だしなぁ」
イベント会話なのに妙にメタい。しかしこれは今までになかったパターンだ。プレイヤーがイベントの敵側として出てくるなんて……。
「ま、これも陛下の恩恵ってヤツでな」
陛下と来たか。それはつまり、“乗っ取り女王"の手先ということ。
「……チッ。なんだかんだ言って、どこにでもいやがるな」
総数がどれくらいかはわからないが、厄介なモノだ。なにせ首領がゲームを好き勝手改竄できる存在だからな。姉さんの時もそうだったが、なにをしてくるかわからない。
「このイベントをクリアしたきゃ島のどこかにいる俺の本体を見つけな。もし俺を追い詰めることができたら、ちゃんと対面してやるからよ。じゃあな」
そう言うとすぐに彼の姿は消えてしまった。……名前はゼネス、か。プレイヤーとしては聞き覚えがないな。少なくとも俺が関わりのあるギルドには所属していないはずだ。
会話終了後、俺の視界、ゲームで言うところの画面に変化が現れた。そう発見数という項目だ。今は「5/1000」と書かれている。あっ、今10に上がったな。おそらくこのイベントを起こした全プレイヤーが、合計してゼネスを1000回見つければ対面できるようになる、ということのようだ。
「全く、まだ面倒な。アリシャはゼネスってヤツを知って――アリシャ?」
俺は店を経営している都合上人との関わりが多い彼女に尋ねようと振り返り、なぜか暗い表情で俯く様子を目にしてしまった。
「……っ。ごめん、聞いてなかった」
俺が振り返ったところでようやく我に返り顔を上げる。普段と変わらぬ無表情だったが、どうも様子がおかしい。
「……なにか考え込んでるみたいだったが、気になることでもあったのか?」
「……なんでもない。それよりイベントを進める」
「あ、ああ」
本人がなんでもないと言うならなんでもない、のか。そんなわけはないと思うんだけどな。このイベントへの参加もあまりしたくなかったみたいだし。なにか俺の知らない情報を掴んでいるのかもしれない。
「まぁ、なんか困ったことがあるなら言ってくれ。できるだけ力になるからな」
「……ん」
頷いてはくれたが、話す気はないようだ。仕方がない、自分から話し出すのを待つしかないか。
「で、さっきのヤツ、ゼネスについてなんだが。アリシャは会ったことあるか?」
「……ない。心当たりもない、と思う」
「そっか。アリシャがないんならこの時のために用意された手下って可能性が高いか」
「……ん。だと思う」
初心者から上級者まで幅広くお世話になっている彼女のことだ。会ったら多分覚えているだろうが。
「……でも敵として出てくるならボスのステータスになってるはず。弱くはない」
「だろうな。とりあえず出たらあいつを探さないとな。まだこっちに来てるギルドも少ないだろうし、千回となると骨が折れそうだ」
「……ん。でも多分一人につき一回カウントだから、二人で見つければ二増えるはず」
「そうか。じゃあ五人が見つけたから一気に増えたわけだな」
「……ん」
そういう仕様なら多少はマシになるかもしれない。とはいえ百人くらいだったら一人十回は見つけないといけないので、探し回る必要が出てくるだろう。正直もっと人数の多いところに任せてレベリングしたいところもあるが、最終局面にはいたいので地道に探すとしよう。見つけた回数が多ければ報酬が変わる可能性もあるからな。
謎に迫るために、一旦洞窟を出て拠点に戻り周辺の探索から始まるのだった。




