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Infinite Abilities Online   作者: 星長晶人
煮えたぎる溶岩編

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135/165

山賊退治

 『山賊集団バンディット・グループ』の有する砦へ襲撃する当日の昼となった。


 既に各自が準備に動いている。


 俺はといえば、釣りをしていた。無論サボっているわけじゃない。これも立派な作戦の内だ。ほらあの、釣りを行うことで精神統一を図る、みたいな。


 まぁそれは冗談として、実際これも作戦行動の内だったりはする。


 丘の上から遠い海へと糸を垂らしていた。俺が持っているこの超絶怒涛の釣竿は糸が延々と伸びる効果を持っていて、どんな場所からでも遮蔽物さえなければ釣り糸を垂らすことができる。それを利用して、丘から海へと糸を垂らしているのだ。丘から海にかけては少し急斜面になっていて、その反対側に砦が構えている。見晴らしのいい位置ならこの丘からでも砦が見えるはずだ。


「……」


 俺は釣り糸を垂らしたまま手応えが来るのを待ち続ける。俺が獲物を釣り上げることが、作戦開始の合図となる。


 ちなみにアルティとシルヴァは俺の後方で砦の方角を向き作業している。プレイヤーが二体の役目を担っても良かったのだが、時間がギリギリになりそうだったので突撃時に間に合わない可能性があった。その点俺のテイムモンスターである二体なら多少離れていても問題ない。呼び戻すこともできるし、プレイヤーよりステータス自体は高いはずだ。追いつけるだろう。


 ちなみに。

 俺や『海賊艦隊(パイレーツ・フリート)』の面々は大丈夫だったのだが、途轍もなく強い酒を飲んでしまったアリシャとツァーリは二日酔いになっていた。ずっと頭が痛そうにしていたが、作戦にはきちんと参加するらしい。……ツァーリは記憶が消えてたみたいだったが、ベルセルクは凄い居心地悪そうにしてたな。挑発されても挑発し返さずにいるところとかからわかる。まぁそのおかげと言っていいのかはわからないが、ベルセルクがめっちゃ働いてくれて作戦が実行できたというのもある。


「っ……」


 そして釣竿に反応があった。


「アルティ、シルヴァ! 来たぞ、準備はいいか?」


 俺は後ろを振り向き二体へと声をかける。


「キュウッ!」

「問題ありません」


 準備はできているようだ。じゃあ、始めるとしようか。


 俺はぎゅっと竿を強く握り、足を開いて踏ん張ると釣竿を思い切り引いた。


「――船・急速一本釣りッ!」


 竿を引くと自動的に糸が収縮していき、引っかけた獲物が見える。いや、最初から見えていた。それは俺に引っ張られてぐんぐん近づいてくると、思い切り振り上げたのに釣られて海面から離れ宙に浮く。


「おらぁ!」


 気合い一発、振り上げた竿を腰の捻りを合わせて後ろへと振り下ろした。更に引っ張られて巨大な影が丘を飛び越え砦の方へ向かっていく。


「ひゃっほーうっ!」


 釣り上げたモノから歓声が聞こえた。俺が釣り上げたのはそう、船だ。昨日も釣り上げたように、マリー達が持っている船を丘の上から陸へと飛び越えさせたのだ。

 だが、丘を飛び越えたからと言って砦まで突っ込めるわけではない。そこで朝から直前まで、皆で協力して作業していたモノが役に立つ。


 それが丘から砦までずっと転がされた、丸太である。砦の方はなにがなんだかわからないかもしれないが、転がっている丸太の列こそ、船が砦まで行ける道となる。


 俺も乗り込むために、釣竿を引っかけたままにして糸の長さを固定する。持ち上げるならまだしも、引き止めるのは難しい。船が着地する頃には、俺は引っ張られて宙に浮いた。……良かった。ちゃんと真っ直ぐ飛び越えさせられたな。俺がミスったら事前に敷いてある丸太のレールから逸れてしまって、上手くいかないところだった。

 俺は釣り糸を縮めて丸太の上を突き進む船の甲板へと着地した。


「キューッ」


 遅れてシルヴァの背に乗ったアルティが飛び降りてきて、俺の頭の上に着地する。シルヴァはゆっくりと俺の左横に着地した。


「あははははっ! いいねぇ、最高だよ! まさか海賊船が空を飛んで陸を進むなんて! アタシらは最高の海賊だ!」


 やけにテンションが高いのは、先頭の正面に仁王立ちしているマリーだ。


「テンション高いな。アリシャ、結構揺れるけど大丈夫か?」


 呆れつつ、がたがたと揺れが激しいためアリシャに声をかけてみる。


「……ん。まだ平気」


 丘から乗り上げた勢いで突き進む船は、丸太のレールに沿って真っ直ぐ砦へと向かっていく。このまま突撃するというのに、酔って戦力にならないんじゃダメだからな。


「マリー。空なら昨日も飛んだだろ?」

「あんなの飛んだ内に入らないよ! 大体皆船室にいたんだからさっきみたいな爽快感がなかったしね!」


 マリーのテンションは下がらない。周りの船員達も一緒になって興奮している。……まぁ、そうやって感情を共有できるからギルドやってるってとこもあるんだろうけど。


「よぉーっし! それじゃあ一発、派手にかまそうじゃないか! 主砲用意ーっ!」


 マリーの号令が飛び、船首の方から鈍色に輝く特大の砲身が飛び出してきた。甲板にいない下で準備をしている船員達がいるのだろう。


「魔導力場凝縮発射式固定砲台、アレキサンドライト! 発射ーッ!!」


 やたらと長い名称を叫んで、発射の合図を出す。

 すると砲口に光が集束して、集束が収まると一瞬光が消えた後に特大の光線が放たれた。その威力たるや、勢いをつけて進んでいる船が一瞬後退したくらいだ。真っ直ぐに砦があるので砲撃は砦へと直撃する。轟音が響き砦が半壊する。これは山賊達もびっくりだろうな。


「ははははっ! いいねぇ、主砲直撃っ! さぁ乗り込むよ、あんたら! 海賊が陸でも強いってことを見せてやりな!」


 昨日は大分情けないところも多かったが、こうして見ると姐御みたいに思えてくる。こういうところに惚れ込んでついてきてるのかもしれない。


「魔導……なんだって?」


 しかしそんなことよりも主砲のネーミングが気になる。長ったらしいから最後のアレキサンドライトだけでいいと思うんだが。


「……魔導力場凝縮発射式固定砲台」


 すらすらと唱えたのは、近くにいたアリシャだ。じっと俺の方を見てくる。


「魔導?」

「……魔導力場凝縮発射式固定砲台」


 聞き返すと少し強い口調で繰り返されてしまった。そういや武器マニアっぽいとこあったな。覚えないと気分を害すのかもしれない。


「そ、そうか。それよりさっきの砲撃、凄かったよな」


 あからさまに話を逸らすと少し不満そうにしていたが、すぐ誇らしげになった。


「……ん。魔導力場凝縮発射式固定砲台、アレキサンドライトは使用者のMPを砲撃に変える。変換したMPが多ければ多いほど威力を高めることができる、私特製の大砲」


 あれを大砲と呼んでいいのかは兎も角、アリシャが造ったらしい。ネーミングは置いておいて、その威力は先程目にした通りのモノだ。


「凄いな、アリシャは。あんなのも造れるのか」

「……ん。大したことない」


 彼女は否定していたが、頬が少し緩んでいた。多分思い入れが強いというか、自信作なのだろう。それを褒められたら嬉しくもなるか。


 突撃前に主砲は格納され、半壊した砦にそのままの勢いで突っ込んでいく。先頭のマリーが一番危なかったのだが、腕を組んだままの仁王立ちをしていた。堂々とたる立ち姿だ。


「てめえら人の拠点になにしてくれてん、がっ!?」


 砦から出てきた山賊の一人を、一足先に船を降りていたベルセルクが襲う。


「先に手ぇ出したのはてめえらだからなぁ。誰一人、生きて帰れると思うんじゃねぇぞ!」


 昨夜とは打って変わって、戦闘狂の面が表に出てくる。更に砦を無数の火炎の弾が襲った。


「ええ。皆殺しにしてあげる」


 船の上から魔法を放ったツァーリが堂々と宣告した。……別に皆殺しまでしなくてもいいような気はするんだが。まぁ二人と共闘する時点で、そんな甘いことは言ってられないのか。


「アルティとシルヴァはマリー達の援護を。アリシャはどうする?」

「……私も援護に回る。戦闘力は高くないから」


 相手はベルセルクを追い詰めたくらいだ。戦闘が本分でないアリシャが前線に出るのは良くないだろう。いい判断だ。


「じゃあ、行ってくる」

「……ん。気をつけて」


 俺は逆に戦闘こそが本分なので、直接乗り込む方になる。剣と魔杖剣を構えて船を降り、戦闘を開始している山賊達と交戦する。

 襲いかかってくるヤツから順に倒していくが、そう強くはなかった。この程度の実力なら何人束になってもベルセルクを追い詰めることなんてできないだろう。


「山岳撃!」


 下っ端らしきそいつらを一掃して中へ乗り込もうとしたら、砦が内側から破壊されて瓦礫が降ってきた。仕方なく避けて壊したそいつが降りてくるのを待つ。


 だん、と二階の辺りから飛び降りてきたのは、ガタイのいい男だった。ファーのついたベストやトゲのついた黒いブレスレットを含め、やけに荒々しい装備で身を固めている。……確かあのイヤリングってレベル八十相当のモンスターを何度も狩って稀少な素材をドロップさせないと手に入らないんじゃなかったっけ? アリシャが昔作ってくれた時にそんなことを言ってたような気がする。


「よぉ、ベルセルクさん。随分派手な挨拶だな?」

「たり前だ。てめえを殺すために来たんだからよぉ、当然だろ」

「ははっ! 俺を殺しに来たって? そいつはいい。この人数差で、勝てると思ってんのかよ! 前回情けなく逃げ出した野郎が!」


 相手は厳つい顔を歪めて嘲笑った。激昂するかとも思ったが、ベルセルクはなぜか大人しい。いや、戦闘狂の笑みはそのまんまなのだが。


 確かに、あいつの言う通り『海賊艦隊(パイレーツ・フリート)』のメンバーを加えたところで開いた人数差は埋まり切らない。先程下っ端を一掃したのだが、今ではより強そうなプレイヤー達が続々と砦から出てきている。テンションアップの効果が切れたのか船の上であわあわしているマリー達はあまり宛てにならないとして、基本俺とベルセルクで直接戦わないといけないということになるか。


「はっ。人数差がどうしたよ。てめえらの前にいるのはトッププレイヤー二人だぜ? てめえらこそ、順に死ぬ覚悟はできてんだろうな?」


 ベルセルクは挑発されたことには返さず、そう告げた。……そのトッププレイヤーって俺も入ってるんだよな? なんかこうして公に実力を認められると照れるな。そういう場面じゃないんだけど。


「いい度胸だ、やってやらぁ! てめえら、何人死んでもいい! 必ず殺せ! 生きて帰すんじゃねぇぞ!」


 男が叫ぶと、山賊達は雄叫びを上げて襲いかかってきた。『狂戦騎士団』と同じような、戦闘狂の集団らしい。襲いかかられたら迎撃するしかない。俺は両の剣で敵を切り裂き倒していく。


「メテオインパクト!」


 そこへツァーリの魔法が飛来する。上空から降ってきた特大の隕石が砦を直撃し、上部分を抉る。更には直撃と同時に衝撃が周囲へと放たれて、破壊された瓦礫と衝撃で何人かが倒れていった。船の上から銃での射撃も飛んでくるし、問題なさそうだ。


「くそっ! 俺も出る! 死ぬ気でぶっ殺せ!」


 なぜそこまで固執するのかはわからないが、遂にボスらしき男が動いた。武器を携帯していないところを見ると、格闘で戦うタイプだろうか。さて、『格闘国家』のモルネ達よりも強いんだか。


「リューヤ! 俺があいつとやる! てめえは雑魚共をやっとけ!」

「わかった、勝てよ」

「誰に言ってやがる!」


 向かってきた山賊の頭にはベルセルクが対応し、俺は周囲にいる山賊達の相手をすることになった。奇しくも背中合わせになる。


「かかってこいや!」


 頭がベルセルクへ突っ込み、強い者同士の戦闘が始まる。一対一なら、ベルセルクが負けることはないだろう。


 だから俺は邪魔が入らないように周りを片づけるようにする。


「たった一人で俺達を相手にしようなんざ、舐めてんのかこらぁ!」

「ボッコボコのぎったんぎったんにしてやんよ!」


 元気だなぁ……。俺も大分荒んで、人を手にかけることに抵抗がなくなり始めている。死ぬ覚悟を決めているなら、いいんだが。


「お前達じゃ勝てないから、死にたくなかったら投降しろよ」


 一応警告はしてみるが、


「バカじゃねぇのお前!」

「この人数差でてめえが勝てるわけねぇだろ!」

「もうわかった、命乞いしても許さねぇからな!」


 届かなかったようだ。一斉に襲いかかってくる。


「はぁ、仕方ないか」


 これから人を大勢殺すっていうのに、震えもなにも湧き上がらない。酷く落ち着いてしまっている。


 俺は右手の刃で先頭三人の首を刎ねると、空いた隙間を利用して一回転しながら左手の剣を振るう。それで六人。あっさりと仲間が殺されても勢いが納まらなかったので、そのまま近づいてくるヤツから順にHPを消し飛ばしていった。

 その結果、三分の一ほど残った時点で突っ込んでこなくなる。


「どうした? もう襲ってこないのか?」


 俺が無感情に問いかけても、誰も来ようとしない。武器を構えてはいるが及び腰で、戦意はもうなくなってしまったらしい。


「ば、化け物だ……」

「こんなの勝てるわけねぇ……」


 一部のプレイヤーからは恐怖が見て取れる。これなら、もう襲ってくることはないだろう。


「ぼ、ボス! こいつヤバいですぜ! 早く援護を! ……ボス?」


 一人が俺の背後、一騎打ちをしているはずの頭へ助けを求めた。しかし、そちらももう既に終わりかけている。


「あんだよ。てめえそんなに強くねぇな。いや、今回は当然か。俺の後ろにいるヤツが異常なだけだ」


 なんか酷い評価を受けたような気がする。話し合いに行った時は不意打ちで一斉に襲われたから、ベルセルクとはいえ対処できなかったってことだろうに。真正面から戦えば負ける道理はない。


「……くそっ」


 倒れているのは頭の方だった。ベルセルクもHPはかなり削れているが、頭の方は赤いゲージが少し見えるだけの、ギリギリな状態だ。


「お、おい! てめえらなにぼさっとしてやがる! さっさとこいつらを殺せ! 俺はてめえらの頭だぞ! 俺は態勢を立て直すから、てめえらが時間を稼ぐんだよ!」


 要は自分が逃げるまでの時間を稼げ、ってことか。酷い頭だな。


「一応言っておくが、まだやる気があるんならそれは俺の担当だな。他のヤツらみたいに死にたいなら、どうぞ」


 すぐにかかってこなかったことが全てだろうが、ダメ押しに言葉を放る。すると誰か一人が武器を下げて落とし、それをきっかけに次々と武器を落としていった。


「て、てめえら……」

「無理です。俺はあんたにそこまでついていけません」

「俺は死にたくない……」

「殺されるだけのために戦うなんて真っ平だ」


 頭が驚く中、山賊達は次々と弱音を吐いて戦意喪失をアピールする。


「頭。一体何事ですかい?」


 しかしそこへ、一団が現れた。


「おぉ、てめえら! 丁度いいタイミングだ! こいつらを殺せ!」


 その一団を見て頭が目を輝かせたので、おそらく『山賊集団バンディット・グループ』の連中ではあるのだろう。


「……なるほど。砦を襲撃とは大胆な。では俺達プレイヤー狩りの実行犯が皆殺しにしてやりますよ!」

「やっちまえ、てめえら!」


 総勢三十人ほどの一団が俺達に襲いかかろうと駆け出した。しかし二人共武器を構えることすらしなかった。


「煩い」


 苛立った声が聞こえ、続いて一つの魔法が唱えられた。


「ディザスター・サクリファイス!!」


 それは様々な属性の魔法を極めていなければ会得できない類いのモノだ。妹のリィナは氷を主体としているので、そこまで至っていないはずだ。


 まず一団を襲ったのは炎だ。地面に描かれた魔方陣から紅蓮の炎が噴き上がって焼き払う。それが収まれば次は水。上空に描かれた魔方陣から滝にように水が降り注いだ。次は木。地面から植物がトゲのようになって一団を刺し貫く。その次に雷が天から降り注ぎ、最後は地面から発生した氷塊に閉じ込められる。

 その全てが一つの魔法によって発動したモノだった。途中にHPが消し飛んだヤツもいたが、一度発動した魔法は発動し切るまで基本終わらない。無情にも全員のHPを消し飛ばし、一掃していた。


「っ……!」


 これには頭も言葉が出ず愕然としている。


「途中から出番なかったなんて。私がやれば一瞬だったでしょうに」


 船首の方から見下ろして言ってくるのはツァーリだった。いや、彼女以外にあの魔法をIAO内で使えるプレイヤーはいないんじゃないかな。……しかもなぜか俺を睨みつけてきている。なにかやってしまったんだろうか。


「つーわけで、もうてめえを守るモノはなくなったわけだな」

「ひっ!」

「俺らを利用しようとしたんだ。覚悟はできてんだろうなぁ?」


 怯える頭へと、ベルセルクは短刀を振り上げる。


「ま、待ってくれ! わかった、協力してやってもいい! もうトッププレイヤーも狙わないから――」


 命乞いをしようとする彼を、あっさりとベルセルクは殺した。未だに発言が高慢だったとはいえ、命乞いをする相手を殺すのはあまり印象が良くないと思うのだが。


「……うるせぇよ。人を殺すんなら、てめえも殺される覚悟を持て。じゃなければ死ね。生憎俺は覚悟してるんでな」


 恨まれようがどうでもいいってことか。ベルセルクは人の生死に対しては冷めてるな。


「よし、これで一件落着だね」


 いつの間にか降りてきていたマリーが朗らかに言った。確かに頭は倒したし砦も制圧した。だが残ったヤツらはどうするかという問題が残っている。


「あんたら、今回のでわかっただろ? 上のヤツに乗せられて言う通りにやってきただけの、意思のない連中がトッププレイヤーに勝てるわけないんだよ」


 彼女は戦意を喪失したプレイヤー達に声をかけている。


「トッププレイヤーは自ら命の危険に飛び込んでそれを生き残り続けてきたような、芯のある連中なんだよ。アタシらみたいにトッププレイヤーが切り開いた道を沿ってきたような身で、勝てるわけないんだよ」


 言い聞かせるように繰り返す。


「で、頭を失ったあんたらはもう終わりだよ。誰かの庇護に入ることもできず、『山賊集団バンディット・グループ』として積み重ねた犯罪を理由に、どこも拾ってくれないかもしれない」


 マリーの言葉に誰もが俯いた。それはよくわかっているのだろう。


「そこで提案だ。アタシの船に乗る気はないかい?」


 思わぬ申し出に、山賊達は驚いて顔を上げた。俺も驚いている。


「アタシらだってあんたらに襲われた身だからね。いきなり仲良くなるなんて無理に決まってる。けどアタシなら、あんたらを罰してやれる。罪を背負う気があるんなら、雑用でもなんでもやりな。それがアタシからあんたらに課す罰だ」


 法律はない。監獄こそあるが、捕まえなければ入らせることはできない。隔離されたこのイベント中は監獄に入れることも不可能だ。つまり罪と認識して反省したところで、それを償うことはできない。それを雑用などという形で解消させようと言うのだ。

 マリーは腕組みをして胸を張る。


「それでも良けりゃアタシの船に乗りな。あんたらの腐った性根、叩き直してやるよ」


 彼女の一言に、山賊達の顔色が変わった。俺の中でも彼女への評価が上がっていくようだ。


「……あ、姐御! 一生ついていきます!」

「お、俺も! 俺もついていきやすぜ!」


 感激したように、マリーの前で膝を突く山賊達。


「なんだい急に。心変わりしたみたいだね」


 当の本人は困惑しているようだったが。


「凄いな、マリーは」

「……ん。そういうとこ、尊敬する」


 いつの間にか来ていたアリシャが同意してくる。


「どうだ、凄いだろ俺達の姐御は!」

「てめえらへの恨みは忘れねぇが、姐御がそう言うなら仕方ねぇ!」

「雑用からだかんな! 姐御に感謝して精いっぱい働けよ!」


 船員達も、許す気はないようだがマリーの人柄に惚れているのか歓迎している様子だ。……いがみ合ってたってのに、凄いな。俺なんか一瞬、始末(・・)しようかと思ってしまった。まぁでも、マリーみたいな人がいるんなら大丈夫か。俺はこのゲームをクリアするだけでいい。例え俺がどうなろうと、知ったことじゃない。


「よし、新しい船員も増えたことだし、今日は宴会だよ! 野郎共、準備しな! 盛大に騒ぐよ!」

「「「了解です、姐御!!」」」


 昨日の今日でまた宴会か、と思わなくもないが本人達がやる気ならいいか。まぁ、材料は俺達持ちなんだけどね?


「まだ昼過ぎだろうがよ。ったく」


 ベルセルクは呆れつつも、用件が済んだから別行動をするわけじゃないみたいだ。なんだかんだ付き合いがいいな。


「今日はあんたも飲みなさい。昨日私だけ飲んだんだから、不公平でしょ」

「なんだよ不公平って。ってかてめえ酔い潰れてたじゃねぇかよ。また二日酔いになりてぇのか?」

「うるさいわね。いいから飲みなさい」

「んだよ、ったく」


 ツァーリはベルセルクに飲ませようという魂胆らしい。……昨日のこと、もしかして覚えてるんじゃないだろうな。普段のツァーリとは全く違った一面だったが。


「……今日はちょっとにする。頭痛いのは嫌」

「ははっ。それがいいな」


 アリシャはもう懲りたようだ。……俺も、連日あんなアリシャを見せられては心臓が足りないと思う。もうちょっと健全に過ごしたい。


 ということで、全員で船を引っ張り海へと移動させて、夕方から夜が更けるまで宴会をするのだった。

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