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Infinite Abilities Online   作者: 星長晶人
煮えたぎる溶岩編

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133/165

“三賊ギルド”

 俺とアリシャはもしかしたら追っているヤツらと関係ある可能性を考え、二人から詳しい経緯を聞くことにした。


「さっきも言ったけど、昨日のことよ。このバカが『山賊集団バンディット・グループ』との話し合いに参加した」

「バカとか言うんじゃねぇよ」

「バカにバカって言ってなにが悪いのよ。で、結果ヤツらの作った砦に単独で乗り込んで勝てなかったから敗走。その途中で私が見つけたから、魔法で追っ手を殲滅して助けてあげたのよ」

「……」


 途中で反論していたベルセルクも、敗走して助けられたという部分で黙り込むしかなかったようだ。変に口答えして茶化されたくないからだろう。つまり、相手は近接戦闘というだけなら屈指の実力であるベルセルクを追い詰められるほどの実力を持っているということだった。いくら相手の方が多かったとはいえ、吸命刀は俺が持つどの武器よりも多分攻撃力が高い。単純な武器での攻撃という範囲でなら、トップと言ってもいいかもしれない。そのベルセルクが蹴散らせなかったのだから、相当なモノだろう。砦に招いた以上、遠距離からちまちま攻撃をするということはなさそうな気がする。


「ベルセルク。その砦に俺達で行って、倒すことはできると思うか?」

「あ?」


 俺の発言に、ベルセルクが片眉を上げて怪訝な顔をした。


「……まさか私達だけで乗り込む気?」


 アリシャも驚いているようだ。


「いいわね、それ。砦を襲撃だなんてロマンがあるわ」

「はっ。昨日の借りを返させてやんぞ」


 ただ、理解したらしい二人は好戦的な笑みを浮かべている。やはりこの二人、実は気が合うのでは?


「……バカばっかり」


 アリシャだけが、呆れた様子で眺めていたが。……あれ、俺も含まれてないか?


「だけどあれだな、もしさっきみたいに相手が分散してプレイヤーを襲ってるなら、もっと人数がいた方がいいか。そういや、ツァーリの仲間はどうした?」

「……いないわ」

「ん?」

「いないわよ、今回のイベントには私だけで来たから」

「なんでだよ。まさかツァーリもベルセルクみたいな話し合いがあったのか?」

「いいえ、そうじゃない。そうじゃないんだけど」


 俺が聞くと彼女はなぜかベルセルクの方をちらりと見ていた。そこにいつもの敵意はなかったが、どんな感情が込められているのかはさっぱりわからない。


「……朴念仁」


 ごすっ、とアリシャに肘で脇腹を突かれた。なにするんだと軽く睨んでもそっぽを向くばかりだが。


「……人数集めるならいい案がある」


 アリシャから提案がされる。


「……『海賊艦隊(パイレーツ・フリート)』を使う」

「……また聞いたことないギルドだな」

「『山賊集団バンディット・グループ』と同じく第二回グランドクエストで上位に食い込んだギルドよ。海を縄張りにしてるから、あんまり関わったことはないけど。ただあそこも“三賊ギルド"って呼ばれる三つの賊ギルドの一つでしょ。信用していいの?」


 ツァーリが知っていたらしく、説明してくれた。


「……そこは平気。あそこは他二つと違って海賊のロールプレイしてるだけ。根はいい人達」


 確かに山賊とは違って海賊をメインにした漫画もあることだしな。そういう漫画を読むと、海賊が楽しいモノなんじゃないかと思えてくることもあるだろう。


「このイベントには参加してるのか?」

「……ん。初日は船を組み立てて、私も手伝ってた。それからは海で過ごしてると思う」


 そんなヤツらがいたのか。見た覚えがないので、アリシャと会わなかったのも当然だろう。


「まぁアリシャが言うならいいか。実際に会ってないとどんなヤツらかはわかんないしな」

「……ん。もう一つの『盗賊組織シーフ・フォーメーション』は『SASUKE』に頼んで警戒してもらっておく」

「頼んだ。じゃあ『海賊艦隊(パイレーツ・フリート)』のとこ行くか」

「チッ。まぁいい」

「私の獲物が減るけど、仕方ないわね」


 戦闘狂二人は少し不満そうだったが、少人数で勝てない可能性を考えてはいるらしい。なんだかんだ、ベルセルクが追い詰められたという事実を重く受け止めているようだ。


 そうして俺達四人は海岸沿いをひたすら歩いていた。


 船を見かけたら接触する、というのが目的だ。その途中で『狂戦騎士団』の偽者がいたら倒すという風にしている。関わりのあるアリシャが直接連絡しないのは、応答がないからだ。戦闘中かと思って数分置いても応答がない。もしかしたらなにかあったのかもしれないが。


「あれじゃねぇか?」


 最初に声を上げたのはベルセルクだった。


「確かに船ね」


 ツァーリも確認して同意する。

 俺も視認した。木造の大きな帆船だ。一番高いマストの帆だけは黒く塗り潰されていて、赤い海賊帽子を被った骸骨が左目に黒い眼帯をしたマークが描かれている。漫画で見る海賊船に似ている。よく見ると髑髏の下で銃が交差していた。


「……ん。でも様子がおかしい。いつもならここからでも人影が見えるはず」


 アリシャがこくんと頷いたので、あれが『海賊艦隊(パイレーツ・フリート)』の持つ船なのだろう。艦隊と言う割りに一隻しかないのだが。

 ただ彼女の言う通り人気がないように見える。帆は張ってあるが甲板に出ている人がいなかった。


「どうする? 引っ張ってみるか?」

「は? なに言ってんだてめえ」

「そうよ。それに引っ張るってなによ」

「……リヴァア?」


 俺の提案を聞いて、ベルセルクとツァーリが怪訝な顔をし、アリシャは水棲のテイムモンスターの名前を挙げた。


「いや、もっと手っ取り早い方法がある」


 俺は言って、


「『ウエポン・チェンジ』」


 武器を変更し手元に漆黒の釣竿を呼び出した。


「釣り? ああ、でもこの距離じゃ届かないんじゃない?」

「大丈夫だ。見てなって」


 俺が取り出した超絶怒涛の釣竿は見た目リールもついていない性能の低そうな釣竿なのだが、実際にはとんでもない効果を秘めている。

 俺は三人から離れ両手で竿を持って大きく振り被った。


「ふっ!」


 思いっきり振り下ろして、遥か先にある海賊船まで釣り糸を伸ばす。リールがない癖に、無限に伸縮するのだ。釣り針が船に引っかかった。


「……有り得ないほどの距離を飛ばせる釣竿の中でも屈指の性能を誇る、超絶怒涛の釣竿」


 アリシャは効力のほどを見てなにを持っているのか当ててくる。流石は武器マニア。


「――超絶・船一本釣りッ!」


 アビリティを発動して力いっぱい竿を引き上げた。同時に糸を縮めれば、徐々に船が近づいてくる。そしてある程度距離が縮まったところで、


「せりゃぁ!」


 思い切り振り上げた。糸を縮めずにそんなことをすれば、船体が浮く。もちろん現実では考えられない光景だが、俺のステータスならいける。そのまま海賊船を上空へ釣り上げて、陸へと乗せた。その時に転覆してしまったのは申し訳ない。


「「「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」


 船が陸に上げられ横転したことで海賊船から複数の悲鳴が聞こえた。


「よし。これで話ができるな」

「……よしじゃない。船壊れたらどうするの」


 べしっ、と頭にチョップを受けてしまった。いや、ちゃんと船が壊れないよう平らな方に落としたんだよ。


「いるのに隠れてやがったのか。殺っちまうか?」

「今なら体勢も崩れてるでしょうしね。流石リューヤだわ」


 俺はそのために陸に上げたんじゃない。断固として反論したいが、その前に相手の動きがあった。


「ま、待っとくれ!」


 転がり出るように船から出てきた女性が、二人を制止する。


「降参、降参だよ! だから待っとくれ!」


 女性は赤い海賊帽子に赤いコートを羽織っている。胸元を大胆に開けており、左右の腰に銃を提げている。また左目には黒い眼帯をしていて、髑髏が描かれていた。


「……連絡に応じない方が悪い」


 アリシャが命乞いをする彼女に告げた。


「あ、アリシャ。いやこれには深いわけがあるんだ。アタシらだって好きで隠れてたわけじゃないんだよ」


 指輪をいくつもつけていたり恰好も出来上がっていたりするのだが、必死に弁解する姿はどこか情けない。


「……大したことない理由だった承知しない」

「わ、わかった。ちゃんと説明するから」


 珍しくアリシャが優位に立っている。いつも優位じゃないという意味ではなく、こうも威圧的に出ることがあまりないのだ。


 そして旗と同じような恰好の女性プレイヤーは、ぽつぽつと語り始めた。


「アタシら『海賊艦隊(パイレーツ・フリート)』は名前の割りに構成人数十四人の少数ギルドでね。グランドクエストの時はシップボトルっていう船を丸ごとボトルの中へ入れて持ち運べるアイテムを手に入れて、船に大量のアイテムを積み込んで配ったに過ぎない、小規模ギルドなんだ。レベルも最高のアタシが六十代と、そこまで高くもないしね。ただシップボトルの入手方法を教えてくれたアリシャに色々と教えてもらって、財宝探しっていう夢も叶った。でも凄い財宝の在り処には強い敵がいるからね、経験値がいっぱい貰えるならってこのイベントに参加したんだ。でもアタシらは強いわけじゃない。だから、『山賊集団バンディット・グループ』に狙われちまった」


「「「……っ」」」


 俺達四人の話と、ここで繋がった。


「“三賊ギルド”なんて呼ばれてるけど、アタシらは弱小と言ってもいい。今他二つのギルドは手を組んで、トップギルドの地位を落とし自分達に期待が集まるようにしようとしている」

「……それになんの意味があるの」

「意味なんて知らないね。けど、ヤツらはプライドが高いんだろうよ。『俺達はこんなところで燻ってるようなヤツじゃない! もっと上にいけるはずだ!』ってね。その証拠に、弱小のアタシらが同列に扱われてることが嫌だったらしくてね、消そうとしてきたよ」


 もう三人も殺られちまった、と彼女は顔を伏せた。船の方から他のヤツら、揃って同じ柄のバンダナを頭に巻くプレイヤー達も出てきていて、沈痛な面持ちをしている。


「でもヤツらだって海まで逃げれば追ってこられない。だからギルドメンバーだけを船に乗せて食糧を分け合いながら過ごしていたってわけさ」

「……なんで連絡してこなかったの。信用ならなかった?」

「ち、違うんだよ! アリシャのことは船のこともあるし信用してたんだ。けどあいつらはアリシャとアタシらに関わりがあることを知ってたような口振りだったから、アリシャを脅迫してるんじゃないかとか考えちまって……」


 確かに、標的を誘き出すのに人質を使うというのは常套手段だ。連絡に出て、もしアリシャが「来て」と言えば疑い、「来ないで」と言えばなにかあったのだと察してしまう。だから誰の連絡にも出ないという選択肢を取ったようだ。


「……まぁ、まさか釣られるとは思わなかったんだけどね」


 白けた目で見られてしまった。まぁそういう誤解も解けたし、そういった事情なら彼女達も嫌とは言わないだろう。


「……事情はわかった。許す。それで、連絡を取りたかった理由がある」

「なんだい? アリシャの頼みごとなら喜んで受けるよ」

「……『山賊集団バンディット・グループ』倒しに行くから、一緒に来て」

「……え?」


 アリシャに笑いかけた彼女だったが、その申し出に固まった。そして顔から血の気が引いていく。


「む、無理! 無理だよそんなの! 聞いてただろ、アタシらは弱小ギルドなんだよ!」


 彼女が首をぶんぶんと横に振って断ると、後ろの海賊達もこくこくと頷く。


「……ただの人数合わせだから問題ない」

「いやでも……!」

「……遠くから射撃するだけでいい。直接戦うのは、私達だけでも充分」

「……まぁ、それくらいなら」


 別に俺達も無理に戦って欲しいと思っているわけではない。守るべきプレイヤーが増えて手間が増える可能性もあるしな。


「……ん。とりあえずこの面子で山賊の砦を攻めることは決まった。で、それってどこにあるの」

「あっちの方だな」

「……ここからだと北西に行ったところにあるわ」


 ベルセルクの指差した方角を、ツァーリが言葉として補足する。


「詳しい位置が知れた方がいいか。じゃあこの地図だとどこにある?」


 俺は無人島の全体図を取り出して二人に示す。


「……てめえこんなん作ってたのかよ」

「意外と正確な地図ね。この辺りよ」

「売ってくれないかい? 船作ってから早々に島を追われたから全くわからないんだよ」


 ベルセルクが少し感心し、ツァーリは地図で砦の位置を示し、海賊の船長が情けないことを言っていたので値上げせず値切りもさせず定価で売っておく。


「よし、この辺りだな。じゃあ今日は休んで、明日襲撃するか。早い方がいいだろ」

「……それなら作戦会議。どう襲撃する?」

「正面から行きゃいいだろうが」

「バカは放っておくとして。外から魔法を連発して誘き出してそこを殲滅、はできないんだったわね」


 作戦会議にならなさそうな脳筋の二人は放置しようか。


「なんか意表を突けるといいかもしれないな。俺達は単体で見れば多分上だろうけど、人数で囲まれたら誰かが死ぬ可能性はある。防御寄りのヤツいないしな」


 俺含め火力寄りばかりだ。アリシャは生産職が本業だし。

 と俺達が顔を突き合わせて話し合っていると、船長の肩をちょんちょんとつつく手があった。


「……姉御姉御。ここは姉御の見せ場ですぜ。俺らただでさえレベル低いんすから、ここでばしっといいこと見せつけないと威厳ないっすよ。これが海賊なのに狩られる側っすよ」

「……わかってるよ。けどそんな簡単に妙案が思いつくわけないだろ」


 どうやら船員とこそこそ話し合っているらしい。丸聞こえだが、いい案があるなら出してくれると助かるので放っておくか。


「地理を生かすとかどうだ? つっても砦周辺はなにもないところだったか」

「……ん。周りに森と丘があるけど、それくらい」


 砦は草一本生えない地点に建設されているようだ。見晴らしが良く地理を生かす戦法もなかなか思いつかない。


「あっ!」


 そこで、こそこそ話していた彼女が声を上げる。思わず俺達は彼女を見た。俺の手に持っていた地図を奪い、しげしげと眺める。そしてにやりと不敵な笑みを浮かべた。


「……なぁ、あんたら。アタシの賭けに乗ってみないかい?」


 最初の情けない姿はどこへ行ったのか、堂々と告げてくる。後ろのヤツらが「やった! 姉御の天恵が来たぜ!」「これで俺達の勝ちは決まったな!」とはしゃいでいるのが締まらないが。


「……聞かせて、マリー」


 アリシャにマリーと呼ばれた女海賊は不敵な笑みを浮かべたまま、思いついたという策を説明してくれる。

 そんなことが可能なのかと驚くが、ゲームだから大丈夫らしい。確かにこの作戦なら敵の意表を突けること間違いなし、だな。


「……わかった。賭けに乗ろう」


 彼女の作戦を聞き終えて、俺達はその案を採用することにした。


「よぉし! そうと決まれば宴だ! 決戦の前は宴だよ! 野郎共、宴の準備をしな!」


 マリーは意気揚々と声を張り上げる。おぉ、海賊っぽい。なんてことを俺は考えていた。

 しかし。


「す、すみません姉御! 宴に使う食糧が足りません!」


 下っ端の一言で固まり、余程ショックだったのか色が抜け落ちてしまったように見える。その後がっくりと肩を落とした。

 俺は苦笑してアリシャ、ベルセルク、ツァーリの順に顔を合わせる。


「あー。良かったら俺達の食糧、分けてやろうか?」


 俺の提案に感激したらしいマリーの嬉しそうな顔は、海賊のロールプレイから外れていたのか少し幼く見えるのだった。

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