協力者
お久し振りですみません。
GW中は十連休でしたがずっとペルソナ5やってました。後悔はしていません。
長い道のりを歩いて地上へと戻ってきた俺達は、途中で『軍』などの団体と擦れ違った。どうやら夜が明けていたようだ。時刻にすると午前十時だった。
トップギルド、特に『軍』になると人数が多くプレイヤーのレベルにも差が出てくる。上のプレイヤーはレベリングに向いていないだろうが、六十までなら充分レベリングになる。今の内に差を埋めようという魂胆だろう。
スカル・バイレーツキングの討伐報酬として財宝の一部を貰えるのだが、貴重な素材にはならず持ち帰って売り払えば高値で売れるというアイテムだった。俺はあまり金に困っていないのでこれを無人島から持ち帰るアイテムの一つとして選ぶかは微妙なところだった。もし貴重な素材などがあればそちらを優先し、帰って装備を整えることを目指すと思う。俺がいつも通っているアリシャの店なら多少金額は融通してくれる、というのもあるかもしれないが。
中級、初級プレイヤー応援キャンペーンの時に素材をアリシャへ納品する仕事を貰ったので、その持ち込んだ素材量に応じて報酬を貰っていた。その時に無限迷宮で素材収集しまくったのもあったかな。
「さて、次はどうするかな」
洞窟を出て朝日の眩しさに目を細め呟いた。
一応拠点造りをし直すという目標はあるのだが、あそこ以外に造るのに良さそうな場所はあっただろうか。あと島でのイベントについてもまだ完結していないので、できれば続きへの道を開きたいところだが。まぁそっちはトップギルドの連中に任せるとしよう。流石にソロの俺が島中を回り続けるのは効率が悪い。かといって仲間達を島に放って探し回るのも不安だ。モンスターだからと討伐されては俺の怒りがどうなるかわかったもんじゃない。
ただでさえようやくプレイヤー同士のキルが解禁されたってのに。
「……次の拠点は、防衛機能でもつけてみようかな」
罠を周囲に張っておくとか、柵で囲うとか。確かにそういう意味では無防備だったかもしれない。これからは気をつけよう。
俺はそう決意し、自ら描いた地図を取り出す。
「……周囲に木があって……草原地帯からは少し離れて……」
ぶつぶつと条件を呟きながら地図を眺め、ある場所に目をつける。
「……ここがいいかな」
木の密集度は前の場所より少ないが、拠点を造るには充分な木材が採れそうだ。加えて海が近いので、前とは違い海産物の収穫にも期待ができる。
「よし。じゃあ新しく拠点にする場所へ向かうか」
「キュウッ」
「はい」
俺は二体に言ってから、地図を片手に目的の場所へと歩いた。
そうして島の北西に辿り着く。この辺りの木々は針葉樹と異なり、背が高く枝が上の方にしかついていない。ツリーハウスを建てるのは厳しそうだが、普通に拠点を建築するには問題なさそうな場所だった。
「よし。じゃあアルティとシルヴァは前と同じように食糧を集めてきてくれ。その間に俺は拠点造りを進めてるから」
「キュウッ」
てっ、とアルティがやる気満々な様子で片手を突き上げて駆けていく。シルヴァも続いてアルティとは別の方向に飛んでいった。
さて、俺も始めるとするか。
前回とはまた別の小屋にしたい。二回目ということもあるし、少しは難易度の高い小屋に挑戦してみようかな。ただし二階建てや地下などはハードルが上がりすぎてしまうのでダメだ。少し洒落た感じで造りたいとは思っているが、どんなモノにしようか。
と考えていたが、ふと空腹度がかなり減っていることに気づいた。残り二割くらいにまでなってしまっている。洞窟にいる間あまり食事を摂らなかったからな。やっぱこの島だけとはいえ空腹度という慣れないシステムがあるってことを忘れそうになる。
取り急ぎ食事を摂る必要があるので道具袋から余っていた枝を取り出し、点火して焚き火を作っておく。余った木材から木串を作成して肉を刺していき、焚き火の傍に突き立てた。それを五つほど設置する。また肉の香りに誘われてモンスターがやってこないとも限らないので、武器は魔杖剣の方をアマテラスに変えておいた。
肉が焼けるのを待つ間に、剣で木々を伐採していく。とはいえ空腹度がギリギリになってしまっては危険なので、ある程度のんびり作業していた。肉が焼けて空腹度を回復させてからは精力的に伐採していく。できればあまり景観は壊したくないので、小屋を建てる周りには木を残しておきたい気持ちがある。……やっぱり森の中にある小屋、っていいよな。と考えると前の拠点を壊したのは早計だったかもしれない。
今更後悔しても遅いか。
気を取り直して木材を収集する。肉の串焼きは常時作っておき、作業して空腹度が減り次第口にしていくようにする。空腹度の維持は大切だからな。
時には少し離れた位置から木を伐採して持ってきて、前のより大きく造ろうかと木材を大量に確保する。木材置き場を造ることも考えたが、面倒なのでその辺に丸太と木材を積み上げておく。
「よしっ」
気合いを入れて、俺は小屋の建設作業に移った。
どんなモノにしようかはある程度考えておいた。
とりあえず今回の家の大きさを決める柱を四本、長方形の頂点に突き立てる。地面から約五十センチほどの高さに溝を作り木の板を嵌めた。板が途切れる地点で丸太を立てて下から支える。それを繰り返して長方形の辺を作るような形で最初に決めた丸太まで伸ばしていった。途中丸太で支えた箇所は木の釘で打ちつけて固定する。そうやって丸太四本を板で繋ぎ枠を作った。
次は床を作る工程だ。例によって四つの辺の内短い方の二辺はやや下になるように作ってある。その上に板を乗せて釘で固定、丸太で下から支えて伸ばしていく。それを延々繰り返していけば、同じ高さ同じ向きで板の並ぶ床が出来上がるというわけだ。……この時点で失敗していることに気づいていれば良かったものを。
そして板の上、柱と柱の間に手摺りを作るために木材を立てていく。縦に板を立てて、その上に丸太を乗せるような形で作っていった。四方の内入り口になる場所だけ板を立てずにおく。
入り口には階段を設置しようと思っている。それもあって少し高めに床を造ってみたのだが。入り口は手前の右端で、横に板を立ててその上に横向きの板を乗せる。次のヤツは低くして同じように造り、を三回繰り返した。それら四つを横向きの板を釘打ちする形で固定させ、階段を形成する。ただしそれだけだと段を上がる時に爪先が引っかかりそうなので、上の段と下の段の間に空いた箇所を板で埋めておく。一応これで階段は出来上がったので、それを入り口の板の裏に固定した板へとくっつける。多少揺らぎはするが一応階段として使えるようになったかな。より固定したいなら地面を掘って板を固定すればいいかと思い、一旦終わりとする。
こうして土台が出来上がったわけなのだが。
「あれ、家どう建てるつもりだったんだっけ」
今目の前にあるのは階段と入り口のある囲いだ。外枠は手摺り程度の高さなので壁とは言い切れないように造ってある。ふと俺はどこに小屋を建てるつもりだったのかと首を傾げ、ようやく自分の失敗を認識した。
「……あー。家の壁になるところは手摺り造らなくて良かったなー。後はあれか、家の柱立てるなら床部分に穴開けとかないとダメだったな」
流石に床の上に柱を固定するのは難しそうだ。構築できたとしてもぐらぐら揺れそう。それなら家の柱と最初に立てた四本の柱が一緒になる場合、屋根の高さを考えて柱を立てるべきだったかな。途中から伸ばすのは無理そうだ。
「どうすっかな」
俺は失敗を取り返すためになにをどうやれば上手くいくのか咄嗟に思いつかず、出来上がったばかりの階段に腰かけてステータスウインドウを開いた。なにかいいスキルはないかと漁る時間だ。
しかしいくら探しても今の状況を打破できそうなスキルはない。肉が焦げた匂いに気づいて丸焦げになった串焼きをがっかりした気持ちが眺める羽目になった。不注意とはいえ立て続けに失敗が起こると気力が大幅に削がれる。
虚しい気持ちを抱えながら新しい串焼きを作り始めていると、
「……リューヤ」
背後から名前を呼ばれた。
こんなに近づかれるまで気づかなかったのかという驚きと、その声に聞き覚えがあり主を思い浮かべて驚きが起こる。
振り向くと、長い黒髪に黒い瞳をした美少女が立っていた。
表情があまり変わらないタイプのためにわかりにくいが、柔らかな微笑を湛えているように見える。
「……アリシャ」
俺はそのプレイヤーをよく知っていた。なにせIAOをやる上で最も関わりのあるプレイヤーだ。
「……ん。来ちゃった」
少しはにかむように言うアリシャだったが、今回のイベントは誘っても参加しないと言っていたような気がする。途中参加はできないはずなので、最初からいて今まで会わなかったということになるが。
「なんで、アリシャがここに?」
「……少しは、私も楽しもうと思って」
返答はシンプルなモノだった。というか、イベント前に俺がアリシャに言ったことだった。
俺としては楽天的すぎるかなとも思う発言だったので、アリシャがわざわざ考えを変えてくれたことに驚く。
「そっか」
でも思い詰めたようなアリシャの以前の顔を見ていると、今の少し楽になったような顔の方が好きだった。
「……ん。で、リューヤと一緒にいようと思って」
「そうなのか。じゃあ一緒にいるか。つってもまだ拠点造ってる段階なんだけどな」
「……拠点?」
ソロでやろうと思っていたが、アリシャが協力してくれるなら有り難い。彼女ならアルティとシルヴァも面識がある。シルヴァはやや人見知り気味だが無表情なアリシャには親近感を持っているみたいだし。
「ああ。この土台に小屋を建てるような感じにしようと思ってたんだ。左側は少し空けておこうかとは思ってるけど」
「……柱ないと不安定」
「……ですよね」
いくら相手が生産職とはいえ、初見で欠陥を見抜かれてしまった。
折角合流して協力してくれるということなので、いつものことながらアリシャの知識を頼ることにしよう。
ということで相談してみた。
「……それなら『チェンジ・ミステイク』を使えば、間違えて造ったところを別のモノに入れ替えることができる」
というのがアリシャの案だった。俺は持っていないスキルだ。どういうスキルなのかというと、
「……造りかけのモノに対して、場所はそのままに別のモノに入れ替えることができるスキル。例えば、その丸太を家の柱としても使える長い丸太に入れ替えることができる」
ということらしい。実に便利なスキルだ。一々壊して作り直す必要がないのだから。
「……ただしなにかとくっつけてる場合、釘以外の部分は置き換えられないから注意。この丸太だと、床部分の切れ込みは作ってからスキルを使わないとダメ」
一応デメリットはあるようだが、その程度なら問題ない。一回目よりも高い小屋にしようと思って長い丸太を確保し、『チェンジ・ミステイク』を所持しているアリシャに入れ替えてもらう。見事固定されたまま長い丸太に変えることができた。加えて打ちつけた釘がそのままになっている。随分と楽だった。
「おぉ……」
「建築スキル持ってる人なら取得必須のスキル」
「そうだったのか。流石はアリシャだな」
やっぱりアリシャは頼りになる。他のプレイヤーも頼りになるが、ゲーム開始直後からその広い知識を頼りにしてきたからだろうか。特にそう思う。
「……別に、そんなことない」
アリシャは口ではそう言うが照れているようで、仄かに頬を染めていた。
「いや、アリシャにはいつも助かってるよ」
「……」
「で、次なんだが」
「……まだあったから煽ててたの」
褒めたら顔がより赤くなったが、次に行った途端急激に冷めていった。長い付き合いになると意外に表情の変化がわかるようになってくるものだ、と現実逃避しつつ。
「そういうわけじゃないんだけどな。スキル眺めてても良さそうなスキルなかったから、アリシャならなにか知ってるんじゃないかと思って」
「……別にいい。で、なに?」
「小屋の柱部分なんだけど――」
その後も俺はアリシャに助言を求めていき、俺の知っているスキルや知らないスキルを駆使して失敗を取り返してくれる。本当に有り難い。しかもアリシャ自身生産スキルを俺よりも多く取得しているために効率が単純計算で二倍にもなり、なんと日暮れ前に小屋が完成してしまった。
「いやぁ、ホントアリシャがいてくれて良かったよ」
心からの感謝を込めて笑いかける。
「……すぐそういうこと言う」
「ん?」
「……なんでもない。役に立てたなら、良かった」
その前になにか言っていた声は聞こえなかったが。アリシャは少しホッとした様子を見せた。
「アリシャが役に立たないなんてことはないだろ」
「……そうでもない。私は、出来損ないだから」
今までその知識に助けられてきている俺からしてみればそう思うのだが、アリシャ本人はそう思っていないらしい。少し表情を陰らせてそう口にした。どういう意味なのか追究しようとするが、丁度アルティとシルヴァが多くの獲物を持って帰ってきた。
「おぉ、またたくさん獲ってきたな」
「キュウッ!」
「……」
また山ほどの食糧などがどさりと置かれた。
「……凄いたくさん。偉い偉い」
アリシャは驚きつつ、屈んでアルティの頭を撫でる。微笑ましく見ているとシルヴァがじっと俺の方を見上げていることに気づいた。目が合うと逸らされてしまったが、苦笑して屈み込み同じように撫でてやる。
「シルヴァもよく頑張ったな。今日はアリシャもいることだし、皆で夕飯にするか」
「キュッウー」
「はい」
「……ん、ありがと」
というわけで、俺達はその日の食糧をふんだんに使って夕飯を楽しむのだった。




