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Infinite Abilities Online   作者: 星長晶人
煮えたぎる溶岩編

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122/165

ストーカーの正体

お久し振りです。

遅くなってしまい、申し訳ありません。


久し振りに更新しましたが、あまり良くない展開ですみませぬ。

 ストーカーについて、有益な情報を得たとエアリアから情報が入った。


 アリアがストーカーの調査を行っているはずだったが、《ラザーク・ナディア》を追っていたエアリアから情報が来るとは不思議だったのだが。


「《ラザーク・ナディア》の連中が《ナイツ・オブ・マジック》の拠点でうろついていたとの情報を聞いた」


 ということだった。


「……俺が周囲に聞いて回ったり調査を始めた段階ですぐに情報が見つかった、か」

「俺もそれは懸念している。だが確かに《ラザーク・ナディア》はうろついていたらしい。目撃情報が上がったすぐ近くで別のギルドが襲われている」

「そうか」


 なにか引っかかる部分もあるが、エアリアが集めた情報なら間違いはないのだろう。


「今、そいつらはどこにいる?」

「俺の集めた情報では、いくつか根城にしている場所があるようだ。……悪い、その内のどれが本拠地かはわからなかった」

「いや、いい。全部見つけられたんだろ?」

「ああ。全て把握している。ヤツらの根城がある場所を記したMAPをフレンドメールで送っておく」

「助かる」


 やっぱりエアリアに頼んで正解だったと確信する。後は虱潰しに回って姉ちゃんにつき纏うのをやめてもらうだけだ。


「……リューヤ」

「ん?」


 神妙な声で呼ばれてエアリアの顔を見ると、真っ直ぐに俺を見つめていた。


「一人で、行くのか?」


 聞かれて、僅かに目を見開く。


「……やはりな。お前は少し、一人でやりすぎるきらいがあるな」

「……まぁ、自覚はあるよ」

「ならもう少し周りを頼ったらどうだ? これでも一応、お前より年上なんだが」

「わかってるって。MAPのことで充分助けられてるよ」

「それならいいが。やはり少なくとも俺とお前で根城を撃破していく方が、効率はいいと思う」

「――いや」


 それでも俺は、エアリアの申し出を断った。


「リューヤ!」

「……言いたいことはわかる。けど、なんか嫌な予感がするんだよな」

「嫌な予感?」

「ああ。多分ラザーク・ナディアは罠だ。タイミングから考えても、俺を姉ちゃんから遠ざける算段にしか思えない」

「それがわかっているなら、尚更お前が行く必要はないだろう」

「いや、行く。行って相手を動かす。その後のフォローを、お前に頼みたいんだ」

「俺に?」

「ああ。さっき言ったよな? 周りを頼れ、って」

「……ふっ。わかった、一応《SASUKE》もトップギルドの一つに数えられているからな。討伐戦なら参加できるだろう。お前の姉が表に出る瞬間があれば、できるだけ同行できるようにしてみる」

「ああ、よろしくな」


 これで、姉ちゃんは大丈夫だ。エアリア含む《SASUKE》の皆は忍者軍団だ。調査や警戒はお手の物だろう。

 なにより、エアリアとアリアが率いるプレイヤー達だから信頼できる。


「じゃあ、俺は根城に行ってくる」

「ああ。リューヤ、死ぬなよ」

「ああ。お互いにな」


 言い合って、エアリアとはその場で分れた。

 早速一番近い根城から訪問するとしよう。……訪問で終わるかどうかは、向こうの出方次第だけどな。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 リューヤが《ラザーク・ナディア》の根城を訪問し――結果的に潰し回っていた頃。


 メインからは外れるが、サブとして出現した塔攻略イベントの最上階に棲まうボスを討伐しようとしていた。

 集結したのはいずれもトップギルドと言って申し分のない面々だ。


 《ナイツ・オブ・マジック》、《戦乙女》、《一夫多妻(ハーレム)》、《SASUKE》、《双子のエルフ》。

 加えて、トッププレイヤーと名高いソロプレイヤーもいる。

 ……《ナイツ・オブ・マジック》に所属しているが、一時的に《戦乙女》と一緒にいるリューヤの姉、フィオナも参加していた。


 最強のプレイヤーの候補であるリューヤは、あまり攻略自体に参加することが少なかった。攻略に参加したとしてもそれは「たった一人でボスに挑んだ」時のみであり、このように全員で強力なボスを倒すような時には参加していない。


 周りと連携を取らない《狂戦騎士団》と《暗黒魔術師団》もボス戦には協力的でない。というより参加する時は互いに競い合うように討伐しに行くため、割り込む隙がないと言った方が正しいか。


「さて、始めようか」


 《ナイツ・オブ・マジック》のギルドマスターを務めるジュンヤが言って、最上階に待つボス部屋の扉を開いた。

 ジュンヤに続いてトッププレイヤー達はぞろぞろとボス部屋へと入っていく。


 ジュンヤを中心に、壁役を担う前衛職のプレイヤー達が横一列に並び、各々の盾を構えた。


「――オォ」


 部屋の最奥に鎮座していた巨体が、唸り声を上げて立ち上がる。

 二足歩行で四本腕を持つ、巨大な鬼。しかも、赤と青の二体がいた。四本の腕にはそれぞれ異なる武器を持っており、前衛に高度な対応を求めるタイプのボスに見える。


「偵察の情報通りだな。予定通り半々に分かれてそれぞれの対処を! わかっているとは思うが、複数体いるボスと戦う時はまず分断させるのを優先する! 仮にもボスだ、挟み撃ちにされないよう、協力されないように戦うよう意識すること!」


 ジュンヤが鼓舞するように指示を飛ばす。事前に打ち合わせはしてきているが、意識合わせと死ぬかもしれないという恐怖へのフォローのために行っていた。

 デスゲームがまだ始まったばかりの頃、いざ戦うとなった時緊張で作戦が頭から抜けるプレイヤーが続出し、ジュンヤが最初に叫ぶことになった。それからというもの、ボス戦の開始合図として定着したのだ。


「いくぞ!」


 前衛が半々に散って、二体それぞれの下へ駆けていく。


「初撃注意!」


 赤い個体へ向かったジュンヤが叫ぶ。赤い方――クリムゾン・ジャイアントが左上の腕を大上段に振り上げていた。その腕が持つ斧が光を帯びている。

 甲冑を着たプレイヤー達が斧の軌道から逸れた。クリムゾン・ジャイアントの斧が振り下ろされる。地面を揺らすほどの衝撃が奔った。


「今だ、【ロイド・アライド】!」


 剣で切りつけると同時に敵のヘイトを集めるアビリティを、ジュンヤが放つ。

 彼は動いてから、他の壁役も各々のヘイト上昇アビリティを使って敵の注意を引きつけた。ヘイトが高い順に攻撃を受けやすくなるので、ヘイトが高いプレイヤーが複数いれば追加のヘイト上昇を行うだけで、危なかったプレイヤーをカバーできるようになる。


 ジュンヤ達が戦闘を開始したことで、壁役以外の前衛が参戦し後衛もヘイトを集めすぎない程度に攻撃を開始した。

 作戦としては、前衛プレイヤーが戦っている後ろから後衛職が攻撃してどちらか片方を早々に倒し、続いて残った片方を全員で倒すということになっている。


 HPが削られたら合体して一体になるかもしれないという懸念もあったが、特に合体することもなく二体のまま、一体ずつ仕留めることができた。


 こうして塔最上階にいた二体のボスは討伐され、サブ攻略の報酬が配布される。


 これで終わりだと、誰もがそう思っていた。しかし、


「ん?」


 ジュンヤがボス部屋を出ようと扉に手をかけて、怪訝そうな声を上げる。


「どうしたの?」


 《ナイツ・オブ・マジック》の副ギルドマスターであるメナティアが尋ねた。


「いや、単純なことなんだけど。扉が開かないんだ」

「えっ!? それって一大事じゃないの? ボスは倒したはずだし……バグとかかしら」

「いや、それは考えにくいんじゃないかな。長くIAOの世界にいるけど、僅かなバグすら瞬時に修正されてるし。なんかの仕様だとは思うけど」

「……そうね。でも、だとしたらなんのギミックかしら。皆、この部屋を隈なく探して「動くな!」――え?」


 メナティアが手がかりを探そうと振り向こうとすると、男の怒鳴り声が部屋中に響いた。


「くっ……!」


 それでも状況を確認しようと振り向いて、身体が硬直する。


 扉の前に集まっていたプレイヤー達から少し離れた位置で、男性プレイヤーが女性プレイヤーの首に剣を突きつけていた。


「……な、ぜだ」


 メナティアはそれを見て動けなくなったが、驚きで言えばジュンヤの方が大きかった。目を見開き、問う声も震えている。

 片方は、《戦乙女》と共に行動していたフィオナ。もう片方は、


「なぜだと聞いてるんだ、ナッシュ!」


 ジュンヤが叫んだ通り、表面上にだけにこやかな笑みを貼りつけた青年が、フィオナを捕まえていた。


「……答える必要はないね」

「なら俺が代わりに答えてやろう」


 ナッシュが拒んだ代わりに、腕を組んで仁王立ちする忍者のような恰好をした男が口を開いた。


 エアリアは他のプレイヤー達とは異なり、扉の前まで行かずにフィナを眺めていたのだが。


「お前だろう、リューヤの姉を追い回しているというストーカーは」

「……なんの根拠があってそんなこと言うのかな。人をいきなりストーカー呼ばわりだなんて、酷いよ」

「その反応が答えだ。これは一部の者しか知らないはずなんだがな。特に男性プレイヤーがストーカーだと推測された時点で俺とリューヤ以外の男性プレイヤーには伝えられなかった。だからお前は俺に『ストーカーか?』と聞かれてこう答えるべきだったんだ。『ストーカー? なんの話だ?』とな」

「……ははっ」


 エアリアに告げられて、ナッシュは引き攣った笑いを零す。


「バレちゃ仕方がないね。そう、僕がフィオナのストーカーだよ」

「……」

「なんでそんなことを!」


 あっさりとバラしたナッシュに対しエアリアは黙る。代わりにジュンヤが彼に詰め寄ろうと一歩前に踏み出した。


「おっと。近づかないくれるかな。首、斬り落とすよ?」

「っ!」

「お姉ちゃん!」


 ジュンヤが唇を悔しげに噛み、リィナが姉を呼ぶ。剣を突きつけられたフィオナは震えて、動けずにいた。


「動かなければいい、とは随分と甘いことだな」

「は? なに言ってるの、おっさん。もうフィオナは僕の手の中にある。誰も邪魔はできないよ」


 未だに笑みを貼りつけたままナッシュが言うと、


「――あかんなぁ、あんちゃん」

「っ!?」


 ナッシュの耳元で声が聞こえたかと思うと、疾風の刃が彼の両腕を斬り落とした。


「なっ!?」


 驚きのあまり口元の笑みが消える。フィオナの身体が彼の身体から離れた瞬間に風が背中を押して離れさせた。


「ほんま、あかん。惚れた女モノにするなら、力でじゃなく男の器で、や!」


 両手を鎌に変化させた鎌鼬のカイ、エアリアの相棒の姿があった。


「くそっ!」

「まさか、俺がなにも仕かけていないと思ったのか? 浅はかだな」

「ぐっ……」


 エアリアが軽々とナッシュを仰向けに倒し、馬乗りになって忍者刀を首に突きつけた。


「俺はただ見ていただけじゃない。ストーカーが本性を表すのを待っていただけだ」

「もちろんワイの協力あってこそやけどな?」

「ああ、助かった」


 一人と一匹が言い合うのを、呆然と見つめる他のプレイヤー達。


「さて。俺も悪人ではないからな、尋問は苦手だ。どうすればここから出られる?」

「……教えると思うの?」

「この状況で黙っているという選択肢は感心しないな――死ぬぞ」

「……ははっ。随分と余裕だね。有利だと思ってるのかな」

「明らかにお前が不利だ。それは変わらないだろう」

「ははっ!」


 また引き攣った笑みを漏らす。その様に狂気を覚えつつエアリアにはなぜか嫌な予感を振り払えなかった。


「――陛下!」


 ナッシュが狂気に彩られた笑みを浮かべて天井を見上げ、叫んだ。


「陛下のお力を、私に!」


 なにを言っているのか、咄嗟には理解できなかった。陛下が誰を指しているのかがわからない。

 しかし、次の瞬間には理解せざるを得なかった。


「がっ!?」


 エアリアの身体が、半ばから両断されて吹き飛ぶ。


「エアリアはん!」


 カイが素早く風を手繰って受け止めなかったら、床に叩きつけられた衝撃で残ったHPも吹き飛んでしまうところだった。


「な、なんでこいつらが復活してるんだ!?」


 ジュンヤが驚愕を乗せて喉を振り絞る。彼の言う通り、ナッシュの両側に倒したはずのボス二体が出現した。


「い、やぁ……!」


 不思議な現象は続く。ナッシュが手を向けるだけでフィオナの身体が彼へと吸い寄せられていく。


「嫌だなんて酷いね」


 再びナッシュの手にフィオナが戻ってしまった。しかも、ボス二体の復活というおまけつきで。


「……陛下、というのは、“乗っ取り女王(ハッキング・クイーン)”のことか……?」


 HPがレッドゾーンに陥ったエアリアが掠れた声で問う。


「よくわかったね。有利だと思って調子に乗ってたバカの癖に」

「“乗っ取り女王(ハッキング・クイーン)”……だと。まさかナッシュ、君は最初から」

「ああ、うん。もうこうなったら隠す必要もないか。僕はIAOに潜む女王陛下の配下の内の一人。と言っても本筋には関わる気はなかったんだよ。こうしてフィオナを手にできれば、後はもう好きにしていいと言われててね」

「お姉ちゃんを返して!」

「返して? おかしなことを言うね。彼女はもう僕のモノだ。いや、ずっと前から僕のモノだ」


 言動にまで狂気が滲み出ていた。


 ……情けない。


 フィオナは恐怖で動けない自分を恥じる。いつもそうだった。現実でも仮想でもそれは変わらないようだ。

 当事者であるはずなのに、自分が嫌だと撃退できれば済む話なのに、肝心な時に足が震えてしまう。

 結局周りに、リューヤに助けを求めて応えてもらっていた。


「次はないよ。僅かでも動くようなら、僕はフィオナを殺す。ボスを君達に差し向ける」

「フィオナを、連れ去りたいんじゃないのか?」

「うん。できれば生きたまま連れ去りたいよ。でも僕がフィオナを殺せばフィオナは僕の中で永遠に生き続ける。それはそれで最高じゃないかな?」


 ぞっとしない。

 耳元でそんな風に言われて、平然といられるわけがない。フィオナの足から力が抜けてしまった。


「さて、僕はここからフィオナを連れて出る。それを邪魔しないでくれるかな」


 言って歩を進めようとしてから、不意に足を止める。


「ああ、そうだ。その後も追ってこられたら面倒だし、フィオナ」


 名前を呼ばれて身体がびくりと震えた。


「フィオナから宣言してよ。僕と一緒になる、って。自分から言い出せば、きっと皆もわかってくれるよ」

「っ!」


 嫌だ、と即答できない自分が恨めしい。


「……ぁ」


 震える唇を開いて、彼の言う通りに宣言しようとしてしまう。恐怖に支配された自分が如何に弱いかを嫌でも自覚させられる。

 ……結局、私はずっと心が弱いまま。

 そうだ。フィオナの心は幼い頃から変わっていない。きっと、覚えてはいないが、本当の父親の姿が記憶のどこかにあるのだろう。

 母に暴力を振るっていた父親のことを、物心つく前だったとはいえどこかに記憶して残っていて、だから自分はこんなにも弱いのだと理解した。


「……つ、いて、いけばいいんでしょう」

「お姉ちゃん!?」


 掠れた声で口に出す。


「ついていく、から、だから……皆には手を出さないで……」


 真っ青な顔で、フィオナはナッシュに告げた。その言葉を待っていたとばかりにナッシュがにたりと笑って、


「うん。もちろんだよ。さぁ行こうか」


 彼はそう言うと、首に突きつけていた剣を下ろして、今度はフィオナの手を握って引いた。悪寒と恐怖がフィオナの身体を蹂躙して、心を疲弊させていく。


 ……ああ、終わっちゃった。


 あっさりと、終わりがやってくる。

 他人の命を人質に取られていたからとか、ナッシュがゲームのシステムにさえ介入したからとか、要因は色々とある。

 しかし結局は、こういう男を拒絶できないフィオナの心の弱さが原因だ。きちんと抵抗できていれば、もしかしたら未来は変わっていたかもしれない。


 諦めて、せめてとばかりに心の扉を固く閉ざし、瞳が光を失って流れた涙が頬を伝う――その時だった。


 がこん、と部屋の扉が開いていった。

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