候補絞り
夏期休暇があってもあまり更新できずすみません。
週一は守りたいところですね、頑張ります。
姉ちゃんをつけ狙うストーカーの容疑者を絞るため、俺は《ナイツ・オブ・マジック》の始まりの街支部を訪れていた。
比較的レベルの低い、あまりデスゲーム攻略に参加したくないプレイヤーが多い支部だ。確か姉ちゃんはここと最前線を行ったり来たりしているとか。
レベルの高いプレイヤーがつき添ってちょっと狩りに出ることもあるそうだが、攻略というほどでもない。現実でいうところの趣味、息抜きや暇潰しといった程度だった。
攻略の手助けになるほど強くはならない、だがなにかをせずにはいられない。そんな心境のプレイヤー達が多いそうだ。
「あ、リューヤさん。こんにちは、今日はなんのご用ですか?」
戦いを避けて受付をしている女性プレイヤーが声をかけてきた。現実世界とは違って警備員の必要がないため、入り口から入ってすぐのところにカウンターがあった。
ギルドホームなので入場制限がかけられているが、そこは事前にギルドマスターにアポを取って許可してもらっていた。
「ちょっと用事がありまして。支部長はいますか?」
「はい、いますよ。今の時間なら支部長室の方にいると思います」
「ありがとうございます」
俺は受付に話を通してから中の階段を使って最上階にある支部長室へと向かった。途中すれ違ったプレイヤーに声をかけられたが、ギルドメンバーでもない俺のことを知ってるとは意外だ。姉ちゃんも前線の方にいることが多いので、最近はここに来ることも少ないのだが。
こんこん、と支部長室のドアをノックする。
「どうぞ」
中から透き通った女性の声が聞こえた。俺は「失礼します」と一声応じてドアノブに手をかける。
ドアを押して開ければ、奥の執務机に腰かけた女性プレイヤーの姿があった。
「久し振りだな、リューヤ」
白い軍服を着て白いコートを肩に羽織った金髪碧眼のエルフだ。威厳を出すためか両手を組んで肘を突きこちらを見据えている。
「ああ、久し振りだな。アラーナ」
プレイヤー名としては、アラーナ・リリアスタ。ゲーム内で結婚を果たし、そしてある戦いで夫を失った女性だ。今は現役を引退し、始まりの街で下級プレイヤーの面倒を見ている。
「ああ。早速だが本題に入ってもらおう。あまり長居させるのも忍びない。それに、ここには客人をもてなすための椅子もないのでな」
大人びた美貌を苦笑で歪め、話を進めた。
「わかった。アラーナはたぶん知ってると思うが、姉ちゃんがストーカー被害に遭ってる。解決するために協力してくれないか?」
俺が本題に入ると、アラーナは表情を引き締める。
「了解した。具体的に、私はなにをすればいい?」
彼女は即答してくれた。あまり知り合いが多くないということもあるが、この人に声をかけて良かったと思いほっとする。
「《ナイツ・オブ・マジック》でここ最近頻繁に訪れた男性プレイヤーを教えてくれ」
まずは内部から洗おうと思っている。個人的に怪しいと思うプレイヤーは挙げているが、やっぱり個人的見解というか偏見が混じってしまう。こういう時は他の人の意見を聞いた上で考えるべきだ。
姉ちゃんと普段付き合いがある人から考えて、《ナイツ・オブ・マジック》か《戦乙女》が大半だ。《戦乙女》は同年代の少女で構成されていることから、姉ちゃんと関わりたいなら《ナイツ・オブ・マジック》に入ろうとするはず、という考えだった。
「……ふむ。頻繁に、となると私が知る限りでは何人か心当たりはあるが……。先に、ストーカーが出る少し前から《ナイツ・オブ・マジック》に加入した男性プレイヤーのリストを渡そう」
アラーナは難しい顔をして、少し思案したいのかメッセージで俺にリストとやらを送ってくる。私が独自に調べたモノだが、と付け加えて目を瞑った。
……最初からストーカーを割り出す気だったらしい。立場上表立って動けはしないだろうが、こうして手っ取り早いリストを作ってくれてるのは有り難い。
「なるほどな」
レベルと職業も記載されている。個人情報ただ漏れの状態だが、姉ちゃんと同じ《ナイツ・オブ・マジック》のメンバーでもそれだけ手がかりが少ないということだろう。ほぼ手当たり次第に探っていくしかないようだ。
「最近頻繁に来た男性プレイヤーだが」
思案が終わったのか、アラーナが真剣な瞳でこちらを見据えてきた。
「ジュンヤ、ナッシュ、メルディヌス、ローガード、レドルフ、だな」
五人の名前を挙げてくれる。……五人共俺の知っているプレイヤーだった。
ジュンヤは言わずもがな、《ナイツ・オブ・マジック》のギルドマスターだ。よく付き合いがあるので俺も人柄を知っているが、おそらく問題ないと思う。メナティアという妻もいることだし。
ナッシュはまぁ、性格自体は悪い方だと思うが。聞けば《ナイツ・オブ・マジック》設立当初からのメンバーだそうで、意外と仲間想いのいいヤツだという話をよく聞く。優しい笑顔で厳しい訓練を課し、他のプレイヤーが言いにくい欠点やなんかをきちんと言ってくれるとか。……デスゲーム内だからこそ、厳しく訓練をしてくれるプレイヤーがいると嬉しいのだそうだ。
メルディヌスは水と風、槍を操るプレイヤーだ。槍の腕前では俺も一歩劣る。流石に一点を極めたプレイヤーに、それだけで対抗するなら劣ってしまう。全体で考えればなんとかなるかもしれないが。性格的な部分は俺も詳しく知らない。
ローガード。ジュンヤと同じ《ナイツ・オブ・マジック》の壁役。身体は大きいが女性が苦手だ。一度エアリアの女性苦手なところを克服させたことがあったため、どうしたら普通に話せるようになるのかと相談を受けたことがあった。話しかけられなくて遠巻きに眺める、ということはあり得るかもしれないが。ストーカーになれるような度胸が備わっていない気がする。
レドルフは霧に紛れ、霧と共に襲撃する《暗殺者》だ。霧を作り出す魔法を使うから、《SASUKE》ではなく《ナイツ・オブ・マジック》に入ったとか。ミステリアスを気取っているため、あまり人と話したがらない。所謂中二病なので話したいことがある時は饒舌になるのだが。純粋なヤツなので、ストーカーに走るようなヤツではないと思う。なにより、“カッコいい”ことを考え実行したがる性分なのでストーカーのように“カッコ悪い”ことは嫌いなはずだ。
……結局、俺が考える限りではこの中にストーカーがいなさそうだった。
「そうか、ありがとう」
「いや、私にできることはこれくらいだからな。あとはこの街にいる限りでフィオナの身の安全を保障するくらいだ」
「それだけしてくれれば充分だ、助かるよ」
充分すぎるアラーナの「できること」に苦笑して心からの礼を言った。
「またなにかわかったら連絡しよう」
「ああ、悪いな。そうしてくれると助かる」
彼女も色々と忙しい身だ。俺もあまりのんびりしている時間がない。
敵がいつ行動を起こすかわからないからだ。
俺はアラーナに軽く挨拶をして退室した。
……さて。とりあえず姉ちゃんがかなりの頻度で現れるこの街での候補は絞られた。
前線にいる五人が候補に挙がったので、《ナイツ・オブマジック》内ではかなり絞られたと思っていい。
「次は外部かな」
範囲が広すぎて見当もつかないが、まずは少しでも候補を絞るために情報を多く持っていると思うプレイヤーのところへ行こうか。




