ストーカーによるストーカーの話
大変長らくお待たせしました
約一年半振りぐらいの投稿になりますかね
近況報告や今後の予定やらを活動報告の方にさせてもらっています
「で、どう思う、アリア?」
俺はピンク髪のくノ一、アリアに尋ねた。案件はもちろん、姉ちゃんから相談されたストーカー被害についてだ。
「……なぜ私に聞いたのかは聞きませんが」
アリアはジト目で俺を見てきたが、こほんと咳払いをしてから語り始める。
「まず、ストーカーには二種類の人間がいると私は思います」
彼女は指を二本立てて、
「ストーカーであれば、相手を好きという感情が最も大きいかと思いますが。好きな相手をどうしたいかで分かれると思います。一つはあまり害のない、好きな人を遠くから見守っていたいストーカー。もう一つが厄介で、相手を自分のモノにしたいだとか自分のモノにならないならいっそのこと、というような思考に走りがちなストーカー。後者に目をつけられると大変ですね」
二種類のストーカーについて説明してくれた。……なるほど。そこにアリアのような相手を害する気がなく、一途に追いかけるようなストーカーが入るというわけだな。
「……なにか失礼なこと考えてませんか」
またジト目で見られてしまったが、まぁまぁと宥めて話を続ける。
「えっと、つまり姉ちゃんがそれを嫌な視線だと思ったってことは、高確率で後者ってわけだな」
「そうですね。それで間違いないと思います」
ストーカーたるアリアがそう言うのだから間違いないだろう。
「ま、当面は《戦乙女》の方に匿ってもらうつもりだから危険はないだろうな。ただ姉ちゃんのギルドの法にはなんて説明するかなんだよな。一応男にはストーカー被害に遭ってることを隠すとして、どう休みを貰うかだな」
万が一の事態を考えれば、デスゲームたるこの世界で粘着質なストーカーに追われるのはリスクが大きすぎる。誰もが常に凶器を持てるここでは、人が簡単に死んでしまう。姉ちゃんはトッププレイヤーだからそこまで心配する必要はないかもしれないが、女の子なのだ。襲われたら恐怖が勝ってしまう可能性もある。
「随分と、ストーカーに慣れてるんですね。普通姉がストーカーに狙われてると知ったら、そこまで冷静に対処できないと思いますが」
「まぁ、ウチの姉妹はプレイヤーキャラクターとそう大差ないくらいの見た目だからな。唯一の男は、色々と苦労するんだよ」
感心したように言うアリアに対し、苦笑して返した。残念ながら自慢にもならないことだ。俺は二人が安全に過ごしてくれればそれでいいんだが。
「なるほど。それでは私の方でも調査しておきます。エアリア様にも相談して、彼女の周囲を警戒してみるとしましょう」
「助かる。悪いな、攻略にも関係ないのに」
「いえ。リューヤさんには色々と借りがありますので。それでは私はこれで」
アリアはそう言うと、颯爽を身を翻す。
「あっ、エアリアには……いっか。あいつが姉ちゃんを狙うはずがない」
それに、あの忍者なら姉ちゃんに視線を気取られることなんてないだろう。
「はい、それはあり得ませんから大丈夫です」
アリアは肩越しにこちらを振り返り、満面の笑顔でそう言った。……俺は知っている。こういう時の女性の笑顔はとても怖いと。
「……あの人がそんなことをしていたら――切り落とします」
暗い笑顔でそう告げた。目が全く笑っていない。つくづく女性は敵に回したくないな。……なにを切り落とすつもりなのかは聞かないでおこう。なんか股間の辺りが薄ら寒くなったが、気にしないでおく。
「そ、そうか」
俺はなんとかそれだけを絞り出し、再び前を向いて歩き出したアリアを見送る。……エアリアも大変だな。まぁそれだけ想われているというのはいいことなのかもしれないが。
「――さて」
俺もアリアとは反対方向に身体を翻し、表情を真剣なモノへと変える。
……残念ながら俺は、敵に優しくできるほど人間ができてはいないんだ。
家族に手を出されて、黙っているわけにはいかない。まずは誰が姉ちゃんを追っているのか、容疑者を絞らないといけないな。
姉ちゃんがあまり知らないけどちょっとしたきっかけで勘違いし始めた場合は厄介だな。姉ちゃんに聞いても心当たりがないと返ってくるだろう。
「……まずは姉ちゃんのギルドの方から調べてみるか」
姉ちゃんの所属するギルド《ナイツ・オブ・マジック》の男性プレイヤーから調査していくのがいいと思う。姉ちゃんとそれなりに関わりがあった方が容疑者に近いと思われるからな。
そうと決まれば、気配を消せる職業に転職して調査といこうか。
俺は大まかな今後の予定を立てると、早速の男性プレイヤー調査に移るため行動を開始した。
そのためにはまず、そうだな。ギルドの拠点を尋ねて顔と名前でも覚えておくとしようかな。
静かに石畳の街道を歩いていく。足を向けた先は始まりの街にある《ナイツ・オブ・マジック》の支部だ。
魔法と剣とを両立するプレイヤーが集まる大きなギルドだ。拠点は城のようにでかいと聞いているし、金もあるのでいくつか別々の街に支部として小さなギルドホームを買っているくらいだ。
例えそのギルドと事を構える事態になろうと、俺は姉ちゃんやリィナを守ってみせる。
それだけが、現実世界でも仮想世界でも変わらない俺のできることだ。




