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Infinite Abilities Online   作者: 星長晶人
煮えたぎる溶岩編

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117/165

デスゲームでの死

えー、更新が遅くなると言いましたが、更新します


アリーンさん活躍の回です


あと文章を変えました

可能という意味のできるを出来るからできるに

提出出来るとか見にくいですからね


あとは文章を改行したら一行あけるのを止めました

見にくくなってることはないかと思います

「……」


 俺は宿屋に帰ってベッドに寝転び、しかし寝つけなかった。

 原因は分かっている。今日俺は、初めて人殺しをしたのだ。


「……キュウ」


 アルティが心配そうに鼻を押しつけてくる。優しい子だ。

 俺はそんなアルティの頭を撫でてやりながら、何で人殺しをしてこんなに寝つけないのかを考える。


 NPCなら、今までにも何回かある。


 アンドゥー教の教祖だったり、第二回グランドクエストで出てきた『黒の兵団』だったり。

 だが、プレイヤーを殺しこの世から永遠にログアウトさせてしまったのは、初めてのことだった。


「……」


 いつも見上げる天井。アルティがスリスリと頬擦りして甘えてくる。


 だというのに、いつもと全く違う。


 どこか息苦しいような、胸につっかえがあるような。

 死と隣り合わせの緊迫した日々を癒してくれていたアルティの愛らしさでも、埋められない苦しさ。


「……ふぅ」


 意味もない嘆息を一つ。しかしそんなことで俺の心は鎮まってくれない。ただ逃げようとしても逃げられないという現実だけが、重くのしかかってくる。

 目を閉じる。あの時の光景を思い浮かべた。俺は後ろを向いていたが、その前の光景だ。


 アルティというNPCを守るために、数人を殺害することも厭わない非道な人間。


 怒りで我を忘れていたとはいえ、わざと殺さないように攻撃し、痛覚が軽減されているゲームだが、わざと痛みが増す武器を使った。

 人間を守るための殺人じゃなく、NPCを守るための殺人。


「……命って、何だろうな」


 誰にともなく尋ねた。答えが欲しい訳じゃない。それでも俺は敵と認めたNPCやプレイヤーを殺してきたが、本来は生命でさえないゲームの中だけの存在であるアルティを助けた。

 普通に考えたら、あってはならないことだろう。文面だけを見れば人間失格と揶揄されても仕方がないかもしれない。

 しかし、俺にとってアルティは日々で一番近くにいてくれた、大切な存在だ。そんなアルティの命を無視して非道な行いをしようとしたヤツらを許せるハズがない。


 ……と、言い聞かせてみても俺の心は暗く沈んだままだ。


 あいつらを殺したことに後悔はない。むしろアルティのことで見逃して、次はクドラやカイに被害が及ぶ可能性を考えれば、いい判断とも言える――理性はそう言って俺を慰めてくれる。

 しかし本能は違う。お前が殺したのは命ある同族だと、お前が守ったのは命ない偽物の生物だと告げてくる。


「……キュウ」


 そんな俺の心内が伝わったのか、優しいアルティが俺の胸元に擦り寄ってきた。……この可愛らしい姿に何度癒されたことか。守ったことは間違いじゃなかったと、俺に教えてくれる。守ってくれてありがとうとアルティが伝えてくれることで、俺は守って良かったと思える。

 アルティがここにいること。それが、俺があいつらを殺して手に入れた成果だ。


「……アルティ……っ」


 俺はギュッとアルティを抱き締める。苦しくないようにしながら、しかし温もりが伝わってくるようにしっかりと。

 アルティを人殺しの言い訳に使っていることを心苦しく思い、同時にこの手でもなく、そしてその時を見ていた訳でもないのに、ここまで苦しむ自分が嫌いになりそうだった。冷酷な人間だったならここまで悩み込むこともなく、今もゲーム攻略に従事していたことだろう。

 俺は一刻も早く妹と姉を、ここで仲良くなったプレイヤー達を、現実に戻してあげなければならない。誰にも死んで欲しくないから。


 俺はここまで思考して、不意に自嘲気味な笑いがこみ上げてきた。自分が仲のいいプレイヤーには死んで欲しくないのに、自分が敵と見なしたプレイヤーは殺していいのか。……その辺りは考えないでおこう。考えると自責の渦に嵌まりそうだった。


 兎も角、本来ならここでこうしてアルティと一緒にベッドで寝転がるような時間は、ない方がいい。

 それでも、生きた温もりがあることが俺を安心させてくれる――例え一時凌ぎでも。


「……キュウキュウ」


 よしよし、とアルティの小さな手が俺の頭を撫でた。ほんの些細なことだったが、たったそれだけのことが俺を安心させてくれる。

 あの日、俺が姉ちゃんとリィナとここに泊まった日。俺は二人を現実に帰すため、頑張ると決めた。それでも癒しが欲しくてアルティ達と過ごし、最強から外されたこともあった。仲間が出来て、守るモノが増えた。

 もっと強くならなければならない。心も、身体も。


 そう誓いを新たにして、俺は色々なことを抱えながら眠りにつけた。


 ▼△▼△▼△▼△▼△▼△


 場所は変わってとある裏路地。人気のないそこに、リューヤが泊まっている宿屋の女将、アリーンが佇んでいた。いつもと変わらぬ、華美でないエプロン姿。しかしその表情は女将として働いている時とは違って険しく、戦士の表情となっていた。


「間に合って良かったですね、アリーンさん」


 レンガ造りの建物に背中を預けて佇むアリーンに、声をかける者がいた。

 朗らかに笑うその青年は、胸当てや腰に提げた剣と盾などの格好から戦士職だと推測できる。


「……まあ、そうだね」


 アリーンは曖昧に微笑み、壁から背を離す。


「情報提供してくれたことには感謝するよ」


「には、ですか。含みのある言い方ですね」


 アリーンは青年を正面から見据えて、青年は苦笑しながら言った。


「そりゃ含みも出てくるさ。――あんたがアルティの情報を流したんだろう?」


 アリーンは疑問形だがどこか確信があるように告げる。青年は相変わらず微笑んだまま、しかし答える。


「バレちゃいましたか。まあ元βテスターで、正式では情報通としてアリシャさんと肩を並べるアリーンさんなら、バレちゃうんでしょうけど」


 肩を竦め、「どうせここに呼んだのも罠のつもりでしょう?」と続ける。


「罠と読んでいて、何で来たんだい?」


 アリーンはバレていたと言いつつ、さらにバレていたことも承知で呼び出しに応じた青年に問うた。


「それは――」


 キィ――ン。


「あんたが邪魔だからだよ、アリーンっ!」


 朗らかな青年の様相はどこへ行ったのか。剣を抜き盾を構えた青年の瞳には狂気が宿っていた。


「……」


 アリーンはそんな青年を見て憐れみを覚える。これまで何度も見てきた、デスゲームに絶望し他者を傷つけることでしか自我を保てなくなった、バカなプレイヤー。希望を捨てずに戦うプレイヤーと違って、すでに生存を諦めたプレイヤーだった。


「……まあ、それでもいいんだけど」


 アリーンは女将の口調から元の少女の口調に戻して、右手に『ウエポンチェンジ』で大きな出刃包丁を出現させる。


「はっ! 生産職が戦闘職に勝てる訳がねえだろ! リューヤとかいう野郎も始末しようと思ってたが、まあいい! 『変装』さえありゃあ、いつでも殺せるんだからなぁ! だがてめえは違う! 情報を持ってやがる! 俺らが見つけた『変声』や『変装』も知ってやがる! トッププレイヤーに情報が出回る前に、てめえは殺さなきゃなんねえんだよぉ!」


 狂気の笑みを浮かべ、青年は盾を正面に構えアリーンへと突っ込んでいく。

 青年の言い分は、全くの暴論である。最早「論」でさえない。何故トッププレイヤーを殺さなければならないのか。何故そんなことをするために必死なのか。アリーンには全く以って理解できなかった。


「……それは聞き捨てならないわね。ウチの可愛いアルティを危険に晒したことだし、殺すだけで許してあげようと思ってたんだけど。やっぱ止めるわ」


 アリーンは女将でない現実と同じ口調で言い、腰を低く落とし右手を突き出すような格好で左手を引く。

 エプロン姿なのがシュールだが、それ以上に鬼気迫る威圧感があった。


 元βテスターアリーンの、βテスト時の構え。


 本来は出刃包丁が長剣で、淡い奇怪な紋様である魔導光彩に輝いていたのだが、さすがにそこまでは再現できなかった。

 だが女将になったからといって、戦闘スキルを全て捨てた訳ではない。

 βテスターであったなら、この構えを見た時点で突っ込むのを止めてステータス強化の魔法やアビリティを使用するべきだった。そんな判断もできない、戦闘職と生産職だからというだけで慢心して突撃する青年。

 戦いから逃げてよく分からない精神状態になっている、トッププレイヤーとも中堅プレイヤーとも言えないプレイヤーの判断だった。


「……ふーっ」


 大きく息を吐き、息を止める――急発進した。


「っ……!?」


 いきなり駆け出したアリーンに驚いた青年は、突撃を緩めてしまう。それも、悪手。


「【ブレイド・スティンガー】」


 隙を見たアリーンが携えた出刃包丁の切っ先を青年の顔に向け、先端から短剣の刃みたいな小さい刃が放った。


「うわっ!」青年は顔を盾で覆う。


 アリーンからしてみれば、バカの極まりだ。死を恐れるが故に、大きな隙を生む。デスゲームで必要なのは死を恐れないこと。せめて、死の恐怖を表に出さないこと。

 アリーンは冷めた目で青年を見据え、右手一本で出刃包丁を手繰り盾に向けて一刀を入れる。痛みに呻く青年を無視して、二撃三撃と続け様に攻撃を叩き込む。


 生産職で、長剣を片手のみで持てる。


 そこからステータスが相当高いと推測できなかった青年の落ち度は大きい。正常な判断すら失ってしまったのか。

 アリーンは青年が盾を持つ手に力を込めて、亀作戦に出たことを確かめると、猛攻を速めた。右足を軸に右手一本で戦うという奇妙な戦闘法は、隙が出る。力がしっかり伝わることもない。

 それでもトッププレイヤーのリューヤの姉、フィオナと並び称された『ナイツ・オブ・マジック』のツートップ。武術の心得がある人もない人も、やることのない構え。


 低レベルプレイヤーを圧倒するのに充分な材料は揃っている。


「うぐっ!」


 青年の腕が悲鳴を上げ、盾がついに弾かれる。アリーンは容赦なく出刃包丁を振るい、青年の首を刈り取って永遠にログアウトさせる。その時一切の躊躇はなかった。


「……料理は、後始末までが料理なのよ」


 ポリゴン体となって虚空に散っていく青年に告げ、アリーンは出刃包丁を消す。

 これで何人の命を奪ったのか、アリーンには分からない。数えるのは止めている。


「とりあえず、帰って料理作らないとね」


 女将の口調に戻ったアリーンは、何事もなかったようにその場を去っていく。

 自分の仕事は後始末ばかり。この程度のことなら、いつもだと自分に言い聞かせて。

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