新武器
「……大丈夫か、アリシャ?」
第二回グランドクエストが終わり、他のプレイヤーがトップ鍛冶プレイヤーの下に押しかけ武器の作り変えを依頼し予約殺到となった『プレイヤー鍛冶屋・knight』の店主アリシャに、プレイヤー達が武器の作り変えを終えてデルニエ・ラトゥールという最終ダンジョンへ我先にと向かっていくまで無限迷宮で時間を潰していた俺は、心配の色を強くして声をかけた。……だってあれだけ金儲けとレア装備のことなら目を輝かせ嬉々として仕事をこなすアリシャが魂が抜けたようにカウンターに突っ伏してるんだぜ? そりゃさすがに心配になるって。
「……リューヤ」
アリシャは仕事が去ってから来た俺に、生気のない瞳を向けてくる。……おい、ホントに大丈夫なのか?
「……大丈夫か? やつれてるし、魂抜けた感じだし」
俺はゲームなのにやつれて見えるアリシャに歩み寄り、尋ねる。
「……ん。一応全レア報酬装備は見たから満足。でも疲れた」
アリシャにしては珍しく(レア装備と見ると昼夜を問わず頑張るからな)、疲労困憊の状態のようだ。
「……そっか。じゃあ仕方ないな。アリシャにだけMVP報酬武器を見せにきたんだが、また今度にするよ」
俺は疲れた様子のアリシャの頭を撫でてから、しかし疲れているようなのでまたの機会にしようかと店を去ろうとする。
「……見せて」
だがアリシャは疲れていると思えない程の力で俺のマフラーを掴み、引きとめた。……苦しいから止めて欲しいんだが。
「……分かったから放してくれ」
「……ん」
俺が苦しさに我慢出来ず言うと、アリシャはあっさり放してくれた。
「……それより先に、色々聞きたいことがあるんだが」
「……ん、レア武器のため」
俺がカウンターの前にある椅子に座って言うと、アリシャはさっきの疲労はどこへやら、少しキリッとした表情で言った。
「……まず一つ目。神の名前を持つ報酬装備についてなんだけどさ、あれは新種の武器だよな?」
一通り武器を極めている俺でも見覚えがないので、アリシャに聞きにきたという訳だ。
「……ん。ヤマタノオロチは投擲細剣。主に投擲するために作られた軽い細剣で、八本で一つの武器。八本は人間の指の間と同じ数。八本を持って戦うことも出来る。アマテラスは光線銃。光と火の二つの光線を放つことが出来る。弾丸はいらないけど発射にはMPが必要。カグツチは爆発大槌。攻撃と同時に爆発を巻き起こすことで破壊力を上昇出来る。火を吹くことも可能。オオクニヌシは展開大盾。普段はただの大盾だけど戦闘時には透明なシールドを展開して防御範囲を拡大する。イヅナヒメは響鳴錫杖。錫杖を鳴らすことで味方全体を回復出来る。効果範囲は音が聴こえる範囲。MP消費は少なめ。コノハナサクヤヒメは吸収籠手。敵に花を咲かせてHPやMPを吸収することが出来る。その吸収したHPとMPを花弁にして味方に渡し回復させることも可能。ただし花を咲かせられるのはその籠手で触れた部分からのみ。スサノオは耐全Tシャツ。全てに耐性があるTシャツ。色はマチマチ。しかもこれらには専用スキルがあり、それを習得している」
アリシャがやっぱりというか饒舌になって説明してくれる。……俺が持ってるのはヤマタノオロチ、アマテラス、カグツチ、イヅナヒメ、スサノオか。オオクニヌシとコノハナサクヤヒメも魅力的だな。
「……なるほどな。そういう意味じゃ唯一無二の武器だよな」
十個か百個ある訳だが。
「……ん。でもリューヤが持つMVP報酬武器には及ばない」
ジー……。
アリシャはそう言って俺をジッと見つめてきた。……早く見せろってか。
「……待てって。まだ俺が聞きたいことが全部聞けてない」
「……リューヤの意地悪」
俺が言うとアリシャが頬を膨らませて拗ねたような顔をした。アリシャがそんな表情をするとは珍しいので、かなりレアかつ可愛い。
「……分かってるって。ちゃんと見せてやるから」
俺は苦笑してアリシャを宥めるように頭を撫でる。
「……で、あのデルニエ・ラトゥールなんだけどさ、クリアするのは無理じゃないか? だってレベル上限が百なのに最終ボスはレベル百の超強いモンスターなんだろ?」
「……ん。だから最終ボスに挑むにはレベル百のプレイヤーが何十――いや何百と必要。そこまでいけるかさえ不明」
俺が聞くとアリシャは難しい顔をして言った。……やっぱり無理の可能性が高いか。いくら報酬を激レア装備にしたところで、一部のプレイヤーが多く貰うのは目に見えてる。トッププレイヤーがさらに強くなっても、中小プレイヤーからトップに上がってくるプレイヤーを増やさないとクリアは出来ない。
「……じゃあ、俺は無限迷宮だけにするか、最初は」
「……何で? ラストアタック・ボーナスも追加された」
「……だってレベル五十代なら中小ギルドでも攻略出来るだろ? なら俺は出しゃばらずにレベル上げに勤しんで、早く強くなってもらうためにレアアイテムやレア武器は譲るさ」
「……」
俺が言うとアリシャは少し悩むような素振りを見せた。
「……分かった。それなら私に強力して。中小プレイヤー限定、素材なし購入キャンペーンを開始する」
アリシャはこくん、と頷くと俺の目を真摯に見つめて言った。……なるほどな。金があれば本来アイテム採集が難しい中小プレイヤーでも少しレアな装備が手に入る、という訳か。さすがアリシャ。いい案を出す。
「……ならトップギルドに依頼したらどうだ? 中小プレイヤー強化のため、素材採集を依頼する、とか何とか言って」
「……それもいい。でもトップギルドは攻略最優先だから納得してくれるかどうか」
「……大丈夫だ。もし心配なら俺も一緒に行ってやるから」
これでも一応、プレイヤー単体としてはトップを張れる訳だからな。
「……ん。じゃあリューヤのMVP報酬武器を見てから、行く」
「……」
忘れてなかったか、さすがアリシャ。
「……分かった。『ウエポンチェンジ』」
俺は『ウエポンチェンジ』を使ってその武器を呼び出す。その剣は聖竜剣と闇竜剣を片手持ち出来る俺でも両手持ちせざるを得ない程重く、そして高威力。見た目は真っ白い柄の上に横から見て円状の白い丸があり、その中に黄緑色の淡い光を放つ円があり、白い丸から斜めに交差させたのか角柱が少し出ている。真っ白な円から上に刃があるのだが、黄緑色の部分も上に伸びて刃の形になっており、外側の白と内側の黄緑で二重構造のようになっている。
「……名前は天叢雲剣だ」
「……っ!」
俺が両手で持って出現させ、カウンターに置いたどこか神秘的な雰囲気を持つ比較的細い両手剣を見たアリシャが驚愕して大きく飛び退いた。……そこまで驚かれると、若干傷付く。せっかく手に入れた超レア武器なのに。
「……これ、IAO内における最強刀剣の一つ。エクスカリバー、ラグナロク、村正がそれに当たる」
アリシャがビックリしたのも頷ける。だって最強の刀剣四つの内の一つだったんだから。俺もアリシャに聞いてかなり驚いている。
「……因みにこの四つの頂点に君臨するのは日本刀である村正」
アリシャが追加情報をくれる。……日本だからだろうか。ファンタジー世界なんだからエクスカリバーとかでいいと思うんだが。
「……これがあるならいい。リューヤ、早速無限迷宮の五十から百三十、行ってきて」
アリシャはいつかと同じように、無茶な注文をしてくる。……いや、レベル的には大丈夫なんだが、後半はかなりキツいというか……。
「……いいけど、あんまり無茶するなよ、アリシャ。アイテム採集したらまたアリシャが忙しくなるんだし、たまにはゆっくり閉店にして休むのも大切だからな」
「……毎日狩りに出てる人に言われたくない」
俺が苦笑して言うと、アリシャはムッとしたように言い返してきた。……それもそうか。
「ま、ちゃんと休めよ。俺も一気に百三十まで行く気はないからさ」
「……ん、分かった」
俺が言うとアリシャは渋々といった感じで頷いてくれた。……これだけ念を押しておけば大丈夫だろ。ゲーム内だから身体を壊すことがないとはいえ、疲労がない訳じゃない。たまには休むことも大切だ。
俺が言うのも何だが。
ということで、俺は天叢雲剣を引っ込めて無限迷宮に向かった。他の報酬武器も試さないとな。使い方がよく分からなくて使わなかったし。




