ベヒーモスと決着
本日一話目
書けたその日に更新することにします
『いくぞ、リューヤ! 破砕獣双剣士・ベヒーモス!』
「おう! 【破砕獣双剣士・ベヒーモス】!」
リューヤはベヒーモスの言葉を復唱して呼応する。
リューヤの全身を漆黒の輝きが覆う。それと同時にベヒーモスの思念体は姿を消した。
新たな姿を現したリューヤの格好は、今までで一番物々しいモノだった。重厚ではないが黒光りした金属鎧に身を包み、黒いモフモフを首に巻き右側を長く垂らしている。両手には中国の柳葉刀と同じような形状の漆黒の双剣が握られている。
「……【アスラブラスター】」
リューヤは静かに左手の剣をテアドロスに向け、切っ先に黒いモノを溜め巨大な波動として放ち、それに追随するように紫電を纏っている。【アスラブラスター】をまともに受けて怯んだテアドロスに、リューヤは更なる追い打ちをかける。
「……【黒獣乱舞】」
リューヤはアスラベヒーモスの筋力を宿しているのか高速で駆けるとテアドロスに突っ込み、二本の剣を連続で振るいテアドロスの身体を傷付ける。
「……グ、オォ」
テアドロスのHPはほとんど残っていない。レッドゾーンに突入していた。
「……終わりだ、テアドロス。いくぜ、【破砕獣双連剛剣】!」
そんな瀕死状態のテアドロスの前に立つリューヤは漆黒で出来たアスラベヒーモスのオーラを纏って両手の剣を乱舞する。おそらく必殺技だと思われるそれは両手攻撃を一と数えても二十連撃に達する程だった。
その猛攻を受けたテアドロスのHPは全て削られる。両手を交差するように振り下ろす最後の一撃がテアドロスの腹部を切り裂きアスラベヒーモスのオーラがテアドロスに突進して、テアドロスは後方に大きく数歩よろめく。
「……グ、オオオオォォォォッ!!」
テアドロスはHPが零になり、進化のため集めていた黒いモノを空中に放出していき、すぐに人間の姿に戻っていく。だがその人間の姿も長くは持たず、すぐに霧散してしまう。
だが、
「――俺を破ったところで、幻想世界が救われただけに過ぎない」
男の声が幻想世界に響いた。
「――俺が倒されれば塔が破壊されるという訳ではない」
「――俺が倒されたところで次の主が塔を訪れるだけ」
「――それを阻止したければ人間の世界に戻ることだな」
「――俺にモンスターから力を搾取する装置を渡してくれた張本人がいる」
「――この塔は試作品だ」
「――精々頑張ることだな」
霧散した男の身体は粒子となって空に昇っていく。
「「「……」」」
第二回グランドクエストが終わったかと思えば、次のイベントについてのヒントが出され、疲労困憊のプレイヤー達はへたり込んだ。
『Congratulations! 第二回グランドクエストクリア。報酬を分配し、人間世界へ強制転移させます』
「Congratulations」の文字が上空に大きく描かれ、クエストをクリアしたためか陽気なBGMが流れ始める。
全プレイヤーの身体が淡い光に包まれた。おそらく転移の兆しだろう。
「……じゃあな。これからはちゃんとお前達が幻想世界を守っていけよ」
ホッとして安堵の息を吐くプレイヤー達の中で、リューヤは少し感慨深そうに空を仰ぎ、呟いた。それに呼応するかのように四つの光が彼方の大地に出現する。
『……ふん。言われなくてもそうする』
光はモンスターと思えない程巨大な姿に変わっていき、この幻想世界を統治する四体のモンスターの姿となった。
四体の内アスラベヒーモスが無愛想に応えたが、他三体は応えずにただ淡い光によって足元から転移していくプレイヤー達を眺めるだけだった。
「……ああ、頼んだ。俺はこれから、ちょっと向こうの世界で戦わないといけないしな」
リューヤはそんな見送りに来てくれたらしい四体に微笑みつつ、言った。
『……リューヤ。あなたのおかげで幻想世界は守られました。礼を言います』
『……僕達で直接お礼が出来たらいいんだけど、そういう訳にもいかないからね』
『……シルヴァはお前にしばらく預けといてやるが、守れなかったらぶっ殺すからな』
『……ふん。だが今回についてはよくやったと言ってやる』
『『『――だからこれを、授けよう』』』
四体はそれぞれの言葉でリューヤに言い、最後に口を揃えて言った。すると空から光がリューヤに降りてきて、その光に導かれるように何かがゆっくりと落ちてきた。
「……」
リューヤがそれに触れると何かは腕輪へと変形してリューヤの左手首に装着された。
『『『――我らの加護を授ける。リューヤに幸あらんことを』』』
再び四体は口を揃えて言い、姿を消した。
四体の出現と消失までの間にほとんどが転移していたプレイヤー達は、呆然としている間に顔まで消失していき、幻想世界から転移させられた。




