真打ち登場と更なる進化
「ふん。虫ケラだなんだと言っていたヤツに攻撃を受け止められる感想はどうだ?」
『この、クソ虫がっ!』
メッシュは位置取りと支援とスキルを使って何とか魔獣人テアロスの攻撃を受け止めた。
トップギルド勢揃いの中に後から合流した中級ギルド連合やソロプレイヤー連合も加わり、トッププレイヤーは一人を除いて勢揃いした形となっている。
テアロスのHPは七本中三本が減っている。だがすでに一対多数で一斉攻撃をしながら一時間以上は経過している。それでもテアロスの半分も減っていないという状況で、MPやアイテムが切れ始めることも多くなってきていた。何とか持たせていたがそろそろ限界が近い。メッシュも表面上は涼しい顔をしているが内心では焦りを感じているに違いない。
「ぐっ!」
「くそっ!」
騎士として定評のあるメッシュとジュンヤの二人がテアロスの攻撃を受けて弾かれる。
『フハハハッ! くらえ、【フレアボール】!』
テアロスは笑い巨大な魔方陣を宙に描きそこから紅の巨大な炎の球を放ってくる。真っ直ぐ、ジュンヤに向けて。
「……させないよ! 【アイスブリザード・ブラスト】!」
だが氷系統魔法だけを極め続けている『戦乙女』のリィナがテアロスの魔法を相殺すべく巨大な水色の魔方陣を描き、そこから丸く収縮させて猛吹雪を放ち何とか【フレアボール】を相殺することに成功する。
『ほう、なかなかやるな。だが、俺自らが動けばどうだ!』
テアロスは感心したように言い、しかしジュンヤに両手でほぼ二回同時攻撃を行う。
「ぐっ……!」
何とか防御を間に合わせたが、あまりの攻撃力にジュンヤの身体は宙を舞う。
『フハッ! 空中では身動きが取れねえだろ!』
テアロスは残酷に笑い吹き飛ばされるジュンヤよりも速く動いてジュンヤを右腕の振り下ろしで地面に叩きつける。
「ジュンヤ!」
ジュンヤと婚儀を果たしたメナティアが悲鳴を上げる。
『トドメだ! 【テアロス・クロス】!!』
テアロスはHPがレッドゾーンにギリギリなっていないジュンヤに大きく振り上げた両腕を向け、トドメを刺そうと禍々しいオーラを一層纏わせた長い爪を振るって自身の名前がついた大技を放とうとする――直前だった。
「フレイ、行くぜ!」
「ピイ!」
遥か上空から少年の声が聞こえた。それにテアロスはまだ虫ケラがいたのかと空を見上げる。
「何か黒いヤツだな。じゃ、『ウエポンチェンジ』っと」
少年が黄金の火の鳥の背に乗り、上空から真っ逆さまに急降下してくる。
超レア武器である聖竜剣・ホーリードラゴンを両手で持って構える。
「……強そうだな。じゃ、遠慮なくいくぜ。『ドラゴンフォース』! からの、【聖なる竜の一撃】!」
黒ずくめに白髪の少年、ソロであるリューヤが言うと、純白の翼と尾を生やし瞳も純白になり髪が逆立つ。白いオーラを全身に纏っている。聖なる竜のオーラを纏い、ゴールデンフェニックスのフレイの背から飛び下りてテアロスにそのまま斬りかかる。
『グオオオオオアアァァァァァァ!!!』
邪悪とは正反対、聖属性の攻撃をまともに受けたテアロスは絶叫を上げる。HPも肉眼で見える程減った。
「……遅くなったな、ジュンヤ」
リューヤは地面に倒れているジュンヤに声をかける。傍に乗ってきたフレイを伴っての登場は、派手で目立ち、敵も味方も両方の注意を引いた。
「……ああ、助かった」
「……礼を言うのは早いぜ。ってかこいつ何だ? 弱点属性で思いっきりくらったのにほとんどダメージがねえじゃん」
リューヤは油断なくテアロスを見据えて聞いた。
「……とんでもないHPを持ってるんだ。この数で一時間以上戦って三本しか減らせてない。もうアイテムも底を尽きそうな状態だ」
ジュンヤは回復を受けながらリューヤに現状を説明する。
「……それはヤバいな。ま、何とか戦ってみるしかないだろ。皆、出てこい。今回の敵は強敵だ。全力で潰すぞ」
リューヤは底冷えする程に真剣な声音で言い、テイムモンスターを全体呼び出す。
「……アルティ。見本は見せてもらったよな。頑張ろうぜ、【グロウアップ】」
リューヤはさらに肩に乗る黒い獣、リューヤの手持ちの中でも最強のアルティに言って大人へ進化させるアビリティを唱える。
「……いくぜ。とりあえず半分まで減らす。スキルも遠慮なく使っていいぞ」
リューヤはそう言って錚々たるメンバーに指示し、自らもテアロスに突っ込んでいく。
リューヤが戦闘に加わったことでテアロスの弱点属性が加わり、ダメージが増えていくらか戦闘が早く進んでいく。
『グアッ!』
そしてついに、テアロスのHPが半分を切る。
『クッ、クククククッ! まさか虫ケラ如きがこの俺にここまで傷を負わせるとはな。いいだろう、黒い塔のシステムを使って幻想世界を支配してやろうと思ったが、装置は何度でも作れる。貴様らの処刑にそれを使ってやろう!』
テアロスが笑って言うと黒い塔の先端に暗黒の巨大な魔方陣が展開される。
そこから暗黒の光線がテアロスの身体に降り注ぎ、再びテアロスが進化していく。
身体も大きくなり腕が四本に増え角も八本に増え、目が六つになりさらに獣性を増す。尻尾が生えていた。
『クハハハッ! もうこれで俺の邪魔を出来るヤツなど存在しない! これで、終わりだぁ!』
魔獣人テアロス改め、獣魔王テアロドスは大気が怯えたように震えるような咆哮を放って言った。HPは回復していないがテアロスよりも強化されているとなってはアイテムも消耗した今、勝機は限りなく低い。
「……ま、そう簡単にはやられてくれねえだろうな。だが、幻想世界にはこいつらの家族がいるんだ。好きにはさせねえよ!」
だが新たな進化を遂げたテアロドスを見て絶望する者達の中、リューヤだけは笑い、そしてテアロドスを正面から睨んで言い放った。
『よく言いました、我らと共に戦う者よ』
そこに、幻想世界を温かく包み込むような美しい女性の声が響いた。




