大陸の覇者
「……くそっ!」
順調に黒い塔へと向かっていた俺達だったが、ボス級鳥系モンスターの群れに遭遇してしまい、苦戦を強いられていた。
ブレードファルコンというそいつらは、全長五メートルの巨大な鳥で、羽根や爪や嘴が刃のようになっている。羽根を飛ばす攻撃が厄介で、今もそれに苦しめられている。
「……戻れ、フレイ!」
俺はHPがレッドゾーンに達したフレイをモンスターBOXに戻す、並行して飛んでいるシルヴァに跳び移る。
空中戦に参加出来るのはフレイ、シルヴァ、リヴァア。そして大きさで空まで届くクリスタ。あとは俺とアルティがフレイかシルヴァに乗って戦えるぐらいだ。
しかも少数対多数の戦いで、リヴァアの大きさは危険だ。格好の的となってしまう。相手のブレードファルコンは羽根の刃を無数に放つ攻撃が多く、身体の大きいリヴァアではほぼ全てに当たってしまうことになる。
三蛇達をリヴァアに乗せて戦ってもらうという手も思いついたが、いくら三蛇が大きくてもリヴァアの全身をカバーすることは出来ない。リヴァアを戻すことになり、三蛇も戻したら総崩れとなってしまう危険もあり、それは回避したかった。
さらに休む場所もないようなこの幻想世界で空中戦に集中したければ、クリスタを出すのは下策だ。地上のモンスターも相手にすることになり、クリスタはそっちを相手にして空中の相手から一方的に攻撃されてしまうことになる。
ということは、空中戦において戦えるのは俺、アルティ、シルヴァ、フレイのみということになる。俺も一応は空を飛べるのだが、アルティの土台としてシルヴァに乗り、アルファ・ディ・ベルガリエでチマチマ攻撃するが。
「シルヴァ! 低く飛んで逃げるぞ! 敵の少ない方向でいい!」
俺はシルヴァに指示する。……黒い塔からは離れてしまうが、ここで死んだら元も子もない。俺とアルティはブレードファルコンの群れを牽制し、シルヴァが薄くなった場所から群れの包囲網を抜けてそのまま逃走する。
「……何とか撒いたか」
俺はブレードファルコンの群れが追ってこないのを見てホッと一息つく。アルティも同じようにした。
「……見晴らしのいい荒野だな。あそこにしよう、シルヴァ」
俺は下に見えてきた草木の少ない荒れた野原を指差し、シルヴァに下りるように言う。……周囲にモンスターの影は見えない。巡廻中なのかもしれないな。一旦だが休憩にしよう。
「……出てこい、皆」
俺は着陸してモンスターBOXにいる皆を呼び出す。モンスターBOXにはHPとMPの回復を早める効果があるんだが、フレイが全快するのを待つ訳にもいかないので、呼び出して臨戦態勢を整えつつアイテムを使って素早く回復させる。
ここも長居すればモンスターに囲まれピンチとなってしまう。そのための臨戦態勢であった。
俺のその予感は的中していて、見晴らしがいい荒野だが一向にモンスターが現れないことを不思議に思っていると、地面から次々と三メートルぐらいの大きさで長い五本の爪を持った人間の頭が胸と同化したような姿のモンスターが現れた。……土系統の属性モンスターか? 長い爪は地中に潜るためのモノのようで、穴を掘って地中に住んでいるのか俺達に気付かれないように近付いてきたのか。大きさからして強いがボス級のモンスターじゃないようだ。レベルも六十後半だから問題はないだろう。
「……数は多いが……いけるな?」
俺がアルファ・ディ・ベルガリエを構えて皆に尋ねると、すでに臨戦態勢を整えた皆が真剣な表情で頷いてくれた。
アルティも大人にしているので敵のモーガンというモンスターの群れとの戦闘は苦戦することなく終わるかに思われた。
すぐに空に逃げられるようにと背後を巨大な大地の裂け目にして、しかもリヴァアをそこに配置しかなり戦いやすいようにしたんだが、クリスタの大きさにより空中からレベル五十程度だがワイバーンの群れが迫ってきて、フレイとシルヴァにそっちを任せる。だが裂け目側にいたこととリヴァアを裂け目の上に配置したのが仇となり、裂け目から這い寄ってきた黒い巨大なフナ虫のようなモンスターも相手することになった。レベルは四十代と低くリヴァアが水で上がってくるのを流していたため大した障害にはならなかった。
だが、戦力が三体も減った。アルティが群れに突っ込み牙で引き裂いて奮闘しているし俺も休む暇なく攻撃を続けているが、モーガンが次々と地面から湧き出てきてキリがない。
「ゴホオオオオォォォォォ!!」
十数分程戦った辺りで大きさ十メートル程のモーガンが出現した。……ここでボスか! 皆も消耗して長期戦はやりたくないところだってのに。
モーガン達の親玉だろうそいつは、五メートルくらいもある爪で戦闘にいたアルティを捉えようと攻撃してくる。……アルティはこっちの攻撃の要だってのに、モーガンの数が減らせない。モーガン達は三蛇の攻撃により麻痺や毒を受けて動きを鈍くしているが、それも時間の問題だ。
湧き出るモーガンは、未だ留まるところを知らない。
「……【一式・断絶砲】!」
俺はアビリティを発動に高密度のレーザーを細くした砲口から放ち続ける。仲間に当たらないように細心の注意を払ってモーガンの群れを一気に叩く。別に攻撃してもダメージは受けないが、熱いや痛いなどは感じるので戦闘の邪魔になってしまうから、避ける。
だが時間が経つにつれてMPが切れたり増え続けるモーガンの群れに押されたりし始めていた。
「戻れ、ナーフィア、リエラ、シャーリー、フレイ!」
HPがオレンジ以下になりMPが切れた四体をモンスターBOXに戻す。……リヴァアもそろそろヤバい。水で流し続けているのでMPの消耗が激しいんだ。
「……戻れ、リヴァア、クリスタ!」
俺は続いて巨大な二体をモンスターBOXに戻す。リヴァアはMPが切れ、クリスタは両方が危ない状態となったためだ。……これで残るは俺とアルティとシルヴァのみか。
「アルティ、シルヴァ! こっちに来い!」
俺はボスモーガンをアルティが相手しているため雑魚モーガンを一掃していたのだが、MPが切れそうなためアルティとシルヴァを呼んで逃げる算段をつける。……後ろからは虫が這い上がってくる。空は何とか倒してくれたが、虫とモーガンは尽きることなく湧き出てくる。それなら空に逃げるしかない。空でアイテムを使ってHPとMPを回復してそのまま黒い塔に向かうしかないのか。
「……アルティ、戻れ」
俺はアルティを大人から子供の姿にして、シルヴァを近くに寄らせる。
「……俺がモーガンをまとめて攻撃する。アルティとシルヴァは後ろの虫を攻撃してくれ」
俺は二体に指示する。
「……【ツインスピン・スラッシュ】!」
『二刀流』のアビリティで、二回転しながら剣を振るうそれを使って超長い剣と化しているアルファ・ディ・ベルガリエを横薙ぎに振るった。シルヴァはそれを心得て屈んでいるし、アルティもシルヴァの上にいながら伏せている。その中で虫達に対し銀と影を放って追い払った。
俺の攻撃でモーガン達が両断され倒れていき、ボスモーガンも足止め出来ている。逃げるには最高のタイミングだった。
「っ!?」
だった。俺がシルヴァに飛び乗ろうとしたその時、足元の地面から出てきた長い爪をした手が俺の足首を掴んだのだ。シルヴァの脚も掴まれている。
「……くそっ!」
俺とシルヴァはすぐにそれを斬り落として自由になるが周囲から一気にモーガン達が湧き出てくる。ボスモーガンも怒っているのかダッシュで俺達の方に向かってきていた。
「させるか! ――っ!?」
俺が【一式・断絶砲】でモーガン達を薙ぎ払おうとすると、高密度のエネルギーが消えた。こんな時にMP切れかよ!
「キューッ!」
まだMPが残っているアルティが荒野に響き渡るように咆哮しながら影の刃を無数に生み出してモーガン達と虫を切り裂き倒す。だがボスがいる。モーガンも虫も全滅した訳じゃない。
「戻れ、シルヴァ!」
俺はMPが切れHPも危ないシルヴァをモンスターBOXに戻す。シルヴァがいなくなって宙に放り出されたアルティを掴んで抱き寄せる。
……アルティのHPはギリギリだ。MPが残っているとはいえ戦わせる訳にはいかない。俺が聖竜剣と闇竜剣を使って接近戦をしながらアルティにアビリティで攻撃してもらうか? いや、俺もHPが危ない。オレンジゾーンにある。俺が死んだらアルティはもちろんモンスターBOXにいる皆も死んでしまうことになる。テイムモンスターはテイマーが死んだら一緒に死んでしまうのだ。
「……くそっ」
俺は歯軋りして呻く。アイテムで回復するにもそんな隙がない。雑魚モーガンだけならアルティが牽制しながらってのも出来るがボスモーガンが真っ先に突っ込んでくるので回復している間にやられる。
万事休す、か……。
俺は裂け目のギリギリに追い詰められて思う。前からはモーガン。後ろからは虫の群れ。……そこまで強くないが無数にいるというモンスター二種に遭遇したのが運の尽きってか。
俺が死ぬ覚悟を決めていると、モーガンの群れの背後から忍び寄る白い影を見た。白い影はレベルが上がり動体視力も高いハズの俺の目でもどういうルートで動いたのか分からない程の高速でモーガンの群れをボスモーガンごと縦横無尽に駆け回り、俺の眼前に辿り着く。その間一秒にも満たないのではないだろうか。
「……レオンウルフ」
俺は大人アルティとほぼ同じ姿をしていて、しかし大人アルティの数倍はある大きさをした白い鬣が立派な狼を見て呆然と呟く。レオンウルフの背後で、ボス含むモーガンの群れがズタズタに引き裂かれているのを見た。
「……グルルル……!」
そしてレオンウルフが牙を剥き唸っただけで、虫達はそそくさと裂け目の中に去っていった。
「……キュウ」
アルティはそんなレオンウルフを尊敬したような目を見つめる。俺も畏怖の念を抱かされた。
これが本来の、成熟したレオンウルフ。
「……さすがに強いな」
レオンウルフはどうやらアルティに呼ばれてきたようだ。アルティの鼻に自分の鼻をつけてきた。……俺には全く興味がないようだが、助けてくれたので文句は言えない。
「……キュウ、キュッキュ」
レオンウルフはアルティを優しく咥える。するとアルティが慌てたように身振り手振りで何かを伝えた。レオンウルフはそれを見て胡散臭そうな目で俺を見、ため息をついてアルティを自分の背中に放り投げ、俺に対して顎で背に乗るように言ってくる。……随分と人間臭いヤツだな。
「……いいのか?」
「……」
俺が聞くとレオンウルフは少し間を置いた後、頷いてくれた。なので俺はレオンウルフの背中に横からよじ登る形で乗る。
「……ガウ」
「キュウ!」
レオンウルフが何かを言うと、アルティがそれに黒い塔を指差して答える。……行き先を聞いたのか?
「……ありがとな」
俺はレオンウルフの背中を撫でて礼を言っておく。レオンウルフが高速で黒い塔に向かって駆け出したからだ。だがレオンウルフはふんと鼻を鳴らしただけだった。
レオンウルフがぐんぐん進んでいく。途中モンスターの群れに会っても速度は変わらず牙だけで邪魔なヤツだけを倒していく。……超巨大な巨人系モンスターも喉掻っ切って一撃だ。どんな強大なモンスターが現れようとも、レオンウルフの速度は変わらず一撃でどいつも倒していく。それにアルティは尊敬した眼差しを向けていた。
高速で流れていく景色を見る暇もなく、俺はレオンウルフにしがみついているだけで精一杯だった。
だが黒い塔の付近でモンスター達が何かを戦っていて、魔法が飛び交っているのが見えた。
「……もう始まってるのか!」
俺は思わず声を上げる。……確かに『戦乙女』と『ナイツ・オブ・マジック』には黒い塔が全ての原因だということを教えてはいるが、まさかもう始まっているとはな。
「……」
するとレオンウルフは足を止めた。そしてアルティ共々背中から振り落とされる。
何とか着地した俺の肩に乗るアルティの頭に右前足を乗せ、少し左右に振って頭を撫でる。
「……キュウ」
「……ありがとう、レオンウルフ」
アルティは嬉しそうにしていた。同じ種族として何か子供のアルティに思うところがあるのかもしれない。アルティも嬉しそうだし、途中までだが一気に黒い塔まで送ってくれたレオンウルフに俺は礼を言っておく。
「……」
レオンウルフは何も言わずに、背を向けて走り去っていく。あっという間に小さくなっていくレオンウルフを見送り、皆をモンスターBOXから出してアイテムを使い切りながら回復させる。
これで準備は整った。
アビリティを何も使わずに、しかもしっかり掴んでいたのに振り落とされたということはかなり手加減してくれていたようだが、レオンウルフのおかげで皆を回復させる間も出来た。
「……いくぞ!」
俺はアルティとフレイとシルヴァだけを出して飛翔し、一気に黒い塔まで向かっていく。




