最後の祠
遅くなりました、すみません
バハムートの下を去った俺達は、シルヴァをモンスターBOXに戻しフレイに乗ってアスラベヒーモスがいるという太古の洞窟とやらを探していた。谷底、山頂、深海ときて洞窟の中だ。きっと四体と会った白い空間にいたアスラベヒーモスが丸々入るような洞窟だろうと思い、俺は空から地上を眺め、大きな洞窟がないか探していた。
「キュー!」
アルティが可愛い叫び声を上げる。洞窟を発見したからだろう。三蛇と話し合って当たりはつけておいたので、かなり早い。……ってか幻想世界にそんなでかい洞窟は一つしかないらしい。
「……んじゃ、このまま突っ込んでくれ、フレイ」
「ピイ」
俺は喜ぶアルティを尻目にフレイに指示し、フレイは低空飛行をし始める。……ん?
「……フレイ。ちょっと待った」
だが俺は近付くにつれて視認出来た人影が気になり、フレイを呼び止める。……黒いローブを着込んだ集団。『黒の兵団』か。
……そう言えば他の三つは俺達の方が先に辿り着いたが、三つ目のバハムートに関しては後から来た。そしてここ――おそらくベヒーモスの洞窟――では先回りされた。だんだんと『黒の兵団』が俺達より先に祠に辿り着くようになっていっている。
一斉に各祠を目指したとすればこのペースなのかもしれないが、先回りされていたとなると特攻をかけて殲滅するしかない。あとは祠を壊されていないことを祈るのみだ。
「……シルヴァ。ナーフィア。リエラ。シャーリー」
俺はシルヴァと三蛇を召喚する。何とかフレイの上で人間に近い姿の三蛇を抱えた。
「……よし。こうなったら猪突猛進! 突っ込めフレイ!」
「ピイイィィィィ!」
俺は言ってフレイが応え、綺麗な鳴き声を響かせて洞窟の入り口を封鎖するように横に並ぶ黒いローブの集団に一直線に突っ込んでいく。
「シルヴァ!」
「……」
俺はフレイの鳴き声に反応して武器を構える『黒の兵団』に対し、シルヴァの銀の剣で対抗させる。その隙にフレイの炎と三蛇の毒で追撃し倒す。
「……さて。いくか」
俺は敵のいなくなった入り口で言い、フレイから下りる。かなり広い洞窟なので三蛇もフレイも悠々と入れるが、明かりがないためフレイの炎で照らされているのみだ。
俺が先頭に立って、奥へ歩いていく。
「……いますね。敵は三人です」
ナーフィアが俺の耳元に告げてくる。……俺以外の皆は五感が優れているので俺の『索敵』より早く敵を見つけられる。
「……そうか。最悪気付かれてもいい、突撃するぞ」
元々コソコソする性分じゃない。俺はそう言って駆け出す。
「『ウエポンチェンジ』」
俺は素手の状態から武器を変え、左手に黒いアヴァロンブレード、右手にブレード・オブ・ロッドを出現させる。……久し振りだが一番付き合いの長い相棒達だ。ブレード・オブ・ロッドをただの荒削りの杖から刃を出現させて魔杖剣へと変化させる。
「……悪いが、手間取ってる暇はないんだ!」
俺はわざと洞窟で大声を出し相手に俺達の存在を気付かせ、唯一の明かりであるフレイに注目させる。俺は単独で駆けて敵に近付き、深く切り裂いて倒す。
俺達はそうやって次々と『黒の兵団』メンバーを倒し、奥に進んでいく。洞窟は一本道なので迷うことはないが、奥に赤い光が見えていた。
「……あそこがおそらくアスラベヒーモスのいる場所よ」
リエラが教えてくれる。
赤い光の正体は奥にあったかなり大きく開けた場所に着くと分かった。ボコボコと湧き上がる溶岩だ。
「蝿共がっ!」
その中に身体を半ばまで浸かった巨大な黒い獣が、攻撃してくる黒い全身甲冑に身を包んだ騎士二人を黒いモノと紫電を同時に放つ【アスラブラスター】で葬ろうとしていた。だが黒い騎士が巧みに攻撃をかわして獣をチマチマと攻撃しては離れる。ヒット・アンド・アウェイという戦闘方法だ。
奥の開けた場所には前部分に地面があり、そこが崖になる形でその先にはマグマが煮え滾っている。その地面には弓を使う者がいて、これまたチマチマと攻撃している。だが唯一陸地と呼べるそこには祠があり、数人がハンマーで祠を壊そうと攻撃を仕掛けていた。
……ってか何でマグマに入ってるのか。ってか熱くないのか。ってか“黒騎士”や兵達に攻撃されてて何で数ドットしか減ってないんだよ。
「……周りの兵達を頼む! 俺は祠を壊そうとしてるヤツらをやる!」
俺は三蛇とシルヴァとフレイに指示し、剣を携えて突っ込んでいく。祠の破壊に気を取られていた兵達はすぐに倒せた。その後周囲の兵を倒すのを手伝い、残るは“黒騎士”二人となった。
「……貴様、来るなら来るでもっと早く来い! こんな蝿を俺の祠に近付けるな!」
アスラベヒーモスも俺に気付いたようで、怒鳴ってくる。……無茶を言うなよ。
「……悪かった。だが幻想世界を統治する四体の内一体が、蝿なんかに手こずるのはどうかと思うぞ?」
俺はわざとベヒーモスを挑発してみる。
「……何だと? この俺が蝿共に手こずっていると言うのか? いいだろう、見せてやる!」
するとアスラベヒーモスはギロリを“黒騎士”二人を睨みつける。
「「「っ!?」」」
……睨んだ途端、物凄い衝撃が空間を走ったような気がした。直接向けられた訳でもないのに三蛇と契約している俺でさえ怖気が走った。肩に乗るアルティがブルッと身を震わせたので、直接向けられた“黒騎士”は堪ったもんじゃないだろう。
恐怖で筋肉が萎縮してか空中で動きを停止し、そのまま灼熱のマグマの中へ落ちていく。
「……ふん。これで分かったか?」
「……ああ。さすがだな」
俺は少し苦笑して祠の前に行き、合掌し礼をして祈る。……これで全ての祠を回ったな。
「……これで、俺に力を貸してくれるんだよな?」
「……ふん。他三体はそうだろうが、俺は貸さんぞ」
「……そっか。まあそれでもいいさ。その場合他三体は幻想世界のために身を切るような真似をしたってのに、アスラベヒーモスだけが人間に手を貸さずに保守に努めたって噂が出るかもな」
もちろん俺は流さないが、幻想世界のために戦ってくれなかったとしてアスラベヒーモスの人気はガクンと落ちるかもしれない。
「……ふん。一応祠を守ってもらった訳だからな。一度だけなら手を貸してやろう」
アスラベヒーモスはそう言って首までマグマに浸かる。……風呂みたいにマグマに入るなよ。
「……ありがとうな」
「……ふん」
俺は一言礼を言ってすぐに祠を後にする。アスラベヒーモスは素っ気なく鼻を鳴らすだけだった。だがそれでもアスラベヒーモスが力を貸してくれることは有り難い。
「……じゃあ、いくぜ。塔に乗り込む」
俺は言って三蛇をモンスターBOXに戻しフレイに乗って一気に洞窟から飛び出す。
……さあ、出来るだけ早くいかないとな。他の皆もこっちに来てるが、アイテムが切れそうになっているかもしれない。
俺はフレイに乗り、アルティを肩に乗せ、シルヴァと並行して飛翔する。目指すは天高く聳える、黒い塔だ。
いよいよ幻想世界での戦いも、終盤に差しかかっていた。
一話挟んでから、ようやく決戦となる予定です




