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幸せの味

作者: みほ

 

「幸せってどんな味ですか?」


 その言葉で目がさめた。朝っぱらから何なんだ。

 嫌な目覚めだった。


 もう一度眠るには時間が足りないし、このまま起きて動くには、早すぎる。でも、もう一度眠ろう。考え直して、答えがでるまで一瞬だった。


 次にめが覚めたのは、目覚まし時計のうるさい音だった。

 朝ごはんは食べない。起きて、顔を洗って、歯を磨く。それから丁寧に化粧をする。もう家を出る時間だ。


 駅まではあるいて十分ほど、いつもの電車にのる。

 電車を降りてから職場まではすぐだ。


 職場につくと大きなガラスの扉がある。中にはいるとアロマオイルの香りがただよっている。

「おはようございます!!」誰よりも大きな声で挨拶をする。それだけは働きはじめた時から気をつけている。


 他のスタッフたちと話をしながら着替えをする。エステで働いているため、女ばっかりの世界。女ばっかりの世界は入社前に想像していたよりも働きやすい。変な気も使わなくていいし、女だから出世できないなんてことも皆無だ。


 先に制服に着替え終わっていた沙希が、準備をしながら話かけてきた。瞳が大きくて、目鼻だちのはっきりとした、かわいい美人だ。

「雑誌に載ってた新しくできた店、昨日いってきたよー」

「どうだった?」

「うん。よかった。マッサージも上手だし、接客も丁寧だし。また行きたいな。」

 エステで働いているとスタッフ同士で練習したりするけれど、やっぱり、ちゃんとお客様として店に行くのは楽しい。勉強にもなる。


 そんな会話をしながら、準備をすすめる。


 ここに来る人たちも女ばっかりだ。

 痩せたいけど、痩せれない。

 肌荒れがきになる。

 いろんな化粧品をつかってもかわらない。

 サプリはいろいろ試したがきかない。


 でも、よくよく話をきくと、ほとんどの人が何か理由がある。食べすぎている。油っこいものばかり食べている。毎日お酒を飲んでいる。偏食。コンビニ食ばっかり。生活リズムが乱れている。おかしなことに本人たちは、全く気づいていない。


 それでも、心のどこかでキレイでいたいと思っている。口にはださないが思ってるからお金を払ってでもきてるのだろう。


 ずいぶん年を重ねたお婆ちゃんもきている。私もお婆ちゃんになっても自分をキレイにする事を怠らないでいようと思う。


 仕事を終えて、聡くんに会った。


 聡くんとは付き合ってもう十年が経つ。今日はごはんを食べに行く約束をしていた。


 こんなに長い間一緒にいられることはすごく幸せだと思う。もちろん嫌な所がないわけではないが、それは誰といてもそうだけど、ないものねだりだ。


「今日は仕事いそがしかった?」

「すっごいひまだった、そこそこ忙しいほうがいいね。そっちは?」

「うん、まぁまぁかな。」

 まぁまぁかなといいながら、ほとんど仕事の話をしている。だけど、愚痴はほとんどなく、こうしたらどうだろう、とか今後の計画だったりなので、飽きることはない。私自身、自分の話をするのは子供の頃から苦手なので、聞いてるほうがいい。


 食事を終えて、店をでる。別れて、それぞれの家に帰る。


 周りからみると、仲のいい二人なんだろう。だけど最近ふと思う。


 なんとなく、私と会うのが辛そうだ。


 そう思ってから私も彼に会うと疲れてしまう。すごく気を使って会話して、時間を気にして、いろんな事に気疲れしてしまう。結局それで家に帰ってもぐったりしてしまう。


 これでいいのだろうか。そんな日がこの数ヶ月続いていた。


 家について、ソファーに倒れこむようにすわると、明日は休みのせいもあり、そのまま眠ってしまった。


 しばらくしてから目がさめた。


 なぜか急にそう思った。


 聡くんとはもうお別れをしようと。

 このよくわからないまま一緒にいるのは嫌だった。


 私も自分の事を何もできなくなっている。無理が生じているのは彼だけではないのだ。


 彼はたぶん言い出せないでいるのだろう。


 とても好きだけど、きっと何かがちがっている。


 ふたりでいるとつらくなる。こうあるべきだと、自分で決めつけていた。いや、彼といると、どうしてもそう思ってしまう。何かしてあげたいと思うから。そうすると、自分の事を後回しにしてしまう。ふたりが自由じゃなくなる。やりたいこともまともにできなくなってしまう関係。最悪のパターンじゃないか。


 十年一緒にいても、離れるときはくるんだなと、心がチクチクした。


 朝の言葉を思い出した。

「幸せってどんな味ですか?」


 私のしあわせの味はスパイスがきいている。


 甘いしあわせは、私向きではなかった。ピリリと辛いスパイス。


 思ったように生きてみよう。


 私の未来に向けて足をふみだそう。


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