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近所の靖子

作者: 鉢吾

眠い……


原因は、わかってる。


連日仕事が続いた事もあったが、昨日の夜に地元の友人5人に遊びに誘われて行ったのが、原因だった。


仕事を終えて満員電車に揺られながら、斜め右前方の綺麗な女の人にドキドキしながら帰路に着いた。


途中で、TSUTAYAでDVDをレンタルしコンビニに行って肉まんと週間雑誌を買って、次の日の仕事までの一時を楽しもうとしていた。


まず、肉まんをハムスターのように口いっぱいに詰め込み、お茶で流し込んだ。


次に大好きな漫画を読み、次週の話を想像する。充実した一時だった。


あとは、DVDを見て明日に備えるだけだった。


プレーヤーのトレイを開けて、DVDをセットしボタンを押したと同時に携帯電話が鳴った。鳴った拍子に、ビクッとして持っていたリモコンを放り投げた。


至福の一時を邪魔され、少し苛立ちを覚えつつ携帯電話のディスプレイを眺めた。


川田菜々子と表示されていた。


菜々子は、中学の友人だった。仲は良かったが、社会人になってからは会ってもいないし、電話で話しすらしてなかった。むしろ、電話が掛かって来たことさえ初めてだった。


「もしもし?」


「もしもし、今家の前に来てるから〜」


「えっ?!っていうか誰?菜々子じゃないっしょ」


「いいから、早く〜みんな待ってるよ!」


「ちょちょっと待ってて」


夏が近いのに、肌寒かった。僕は、誰かもわからないみんなを待たしちゃ悪いと思って急いで着替えた。


ガラッ


「よぉ〜久しぶり!」細くてちっさい棒人形みたいな身体の木沢猛が、大きな声で第一声をあげた。


懐かしいメンバーを懐かしむ前に、閑静な住宅街に響いた声が気になった。


「うるさっ!何時だと思ってんだよ!静かにしろよ!」


「ちょっと〜久々にあってそれは酷くない?」ギャル系の格好をした女の子に言われた。


誰だかわからなかった。


中学時代、全くさえなかった桜井遥だと後で聞いて変わりように驚いた。


「はいはい!悪かったよ!でも、近所迷惑なんだよ!」


すらっとした、モデル体型の菊池宏が上から目線で言った。

「変わってねぇ〜な、お前は!」


「そこ、うるさいよ!」


「フフッ」「キャハハ」

二人して笑っていたのが、一人は川田菜々子、もう一人が山岸靖子だった。


「さっきの電話靖子だったんだよ〜わかった?」


「全然!わかんないよ!」


「だって靖子」


「そっか、わかんないのか。印象薄いのかなぁ〜」

靖子が、ボソッと言った事がすごく気になった。


「取りあえずどこ行くの?」


「ボーリングか、ビリヤード?カラオケっていう案も」


「無計画過ぎるだろ!」


「私、カラオケがいいなぁ〜」


「カラオケは、遠いからビリヤードでいいじゃない」


「それって宏がやりたいだけじゃん!」菜々子は、最後まで納得していなかった。


ビリヤード場に着き、オールナイトコースを選択したことに、唖然とし声が出なかった。


僕らは、3人に別れてビリヤードをした。僕の台には、靖子と猛、向こうの台には、宏と菜々子と遥だった。


僕らは、下手くそでボールは全く減らず時間だけが過ぎていった。


僕は早々に飽きてしまい、飲み放題のジュースを椅子に座りながら飲んでいると、靖子が隣に座り、二人で少しの間、話しをした。


靖子とは、2年前に花火大会を見に行ったきり会ってなかった。


その時は、付き合ってもいないし好きでもなかった、ただ靖子の家と僕の家は直ぐ近くの近所だった。花火大会の日、会社から帰る途中に偶然靖子に会って、誘われて花火大会を一緒に見に行ったきり近所にも関わらず、全く会わなくなっていた。


お互いに、近況の話しをして仕事のこと彼氏のことを聞いた。


彼氏とは、あまり上手くいってなくて最近では、暴力を奮われてることを聞いた。


程なくして靖子は、明日仕事があるから帰ると菜々子達へ告げて店を出た、僕も朝早いと嘘をついた。靖子と、もっと話したかったから…


店を出て、歩いて帰る靖子を自転車で追った。


「靖子!家近いし送るよ!」


「タクシーで帰るから大丈夫!ありがとう」


「いいから、後ろ乗れよ!」

少し強引に誘った。


「うっうん……ありがとう」


「おーい!俺も帰るわ」

後ろから、猛が走って来た。


心の中で、なんて空気の読めない奴だと心底思った。


本当は、自分の後ろに乗せて送りたかったし、話しもしたかった…

自分の感情に素直になれなかった。


「猛の後ろに、乗れば?」


「うん?乗る?」

キョトンとした顔の猛。


「じゃ〜お言葉に甘えよっかなぁ〜」


それから僕は、マラソンの先導車の用に靖子の家を、案内した。


靖子の家に着く間、何も話せず、携帯のきてもいないメールを確認していた。


「また…会えるといいね……おやすみ」元気なく呟いた。


「おっおう!おやすみ」猛は元気だった。


「また……」


「おやすみ…」

言いたいことも言えず、別れた。


家に帰り、部屋へ戻りふーっとため息をひとつついた。


無意識にテレビをつけ、出る前にトレイに入れたDVDがクライマックスを迎えていた。



長年、暴力を奮われていた彼女が彼氏に逆襲をし最後には、殺してしまい逃亡するシーンだった。



その日から、靖子には会えなかった……


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― 新着の感想 ―
[良い点] ちょっとしたタイミングで 人生変わっちゃいますからね、 二人だけで帰ってたら(>_<)
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