彼女は隠したがる
「ぉ、お願いがあります!」
ソファに座る僕の目の前で突如として
彼女が正座をかましてきたのは
とある日の昼食後のことだった。
いつも、食後には『人を溶かすクッション』
とか言う物騒な名前のクッションに身を沈め
人気活動者の最新動画をテレビで見るのが
日課なはずなのにどうしたんだろう…。
思い当たる節は特にない。
一応、こちらも正座してみる。
「……こん、かし……ぃ」
「ん?」
「パ、パソコン!貸してほしいの!!」
とんでもない勢いで切り出した割には
何とも拍子抜けするお願いだった。
話し方や雰囲気でもっと重要なお願いだと
思ったのに。こちらが間抜け面を晒して
いるであろう一方で彼女は今も
とんでもないお願い事をしたかのように
肩をすくめたままじっと見つめてきている。
「そんなかしこまって言わなくても全然貸すよ。
もう何かと思ってびっくりしちゃったー。
何か調べ物?今日は使わないから
いつでも好きな時に――」
「あ、今使ってるのじゃなくて古い方…」
「古い方…?あぁ、昔仕事で使ってた
ノートパソコンのこと?」
「うん、少しの間借りちゃダメ?」
「全然いいけど、何に使うの?
買ったの昔すぎて結構型が古いから
最近のゲームとかだと
できないかもしれないけど大丈夫?」
コクコクと首を縦に振る彼女は
なぜだか用途を一向に言おうとはしない。
何かやましいことにでも使う気なのか?
そう考えていると何かに気がついたのか
彼女は少しオロオロした後、僕の顔の前に
ドヤ顔でグッドサインを突きだした。
「安心して。私、ちゃんと健全な使い方するよ。
法に触れることとかしないよ!!」
「当たり前でしょ!人のパソコンで
ワンチャン何しようとしてくれてんの!?」
「何も変なことしようとしてないから!
大丈夫だから!お願い!!」
思わずため息も出てしまう。
何に使うつもりなのか知らないけど
違う意味で本当に大丈夫なんだろうか。
変なところ抜けてるからな…。
パソコン水洗いとかしそうで不安しかない。
「まぁ、そもそもパソコンを
まともに打てるのか怪しい杏ちゃんに
法に触れるようなことが
出来るとは到底思えないので
端からそこについては心配してません。」
「ひどい!私だって学生の頃は
レポート書く為にパソコン触ってたもん!」
「本当に?」
「うん!!だから、大丈夫。
絶対、ぜーったい、大切にお借りするから!」
「心配なのはそこじゃないんだよな…。」
そんな真剣な目で見られても困ってしまう。
「じゃあさ、パソコン何に使うの?」
「それは…」
「それは…?」
「言わなきゃ、ダメ?」




