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断頭台の悪役令嬢  作者: 結塚 まつり


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第六話 急転

再三のエドワードの諫言もアリスの涙ながらの訴えも、何ひとつクローディアには響かなかったようである。アリスの悪評を広め、足を引っ掛けては転ぶ様を嘲笑い、アリスの友人に圧力をかけてそばを離れさせ。嫌がらせの度が過ぎるとエドワードがクローディアに愛想を尽かし、アリスの肩を持つようになったのは、嫌がらせが始まって半年ほど経過した年の末のことだった。


「はあ......」


新年を迎える数日前、王都は早くも祝いの雰囲気に包まれていた。新たな年の幸いを願い、教会で祈る人も多い。アリスは聖女候補として、教会の業務を手伝っていた。笑顔を浮かべて祈りを捧げる人たちの対応を続けていたが、夕飯時、人がいなくなった折りに、つい溜息が漏れた。


「どうしてこんなことになっちゃったんだろう.......」


思い出すのは学園でのことだ。ここ数か月、アリスはクローディアの嫌がらせによりすっかり孤立していた。


「尊敬、してたのに......」


使用人同様の暮らしをしていたアリスにとって、クローディアは絵本の中から出てきたお姫様のようだった。成績優秀で、魔法も上手。そして、同性でも見惚れるくらいの美しさ。

アリスは決して出来のいい生徒ではなかったと思うが、クローディアは我慢強くアリスを諭してくれた。だから、クローディアの期待に応えようと、アリスも頑張ることができた。

――わたしが、殿下のことを好きにならなければ。

たまたま庭園で泣いていた時に、助けてくれた王子さま。努力家なところも、屈託なく笑うところも、アリスの努力を褒めてくれるところも、全部が眩しかった。

恋だと気づくのに、さほど時間はいらなかった。

クローディアの婚約者、次の国王。手の届かない人だと言い聞かせれば言い聞かせるほど、想いに歯止めがかからなくなった。分かり易く距離を置かれても、目で追わずにはいられなかった。けれど、想いが募るほど、クローディアへの申し訳なさが増していった。だから、見ることもやめて、話題も避けて。そうしてなんとか思いを断ち切ろうとしたら。

その矢先に、あの事件が起きた。

――あれさえ、なかったら。

あの後から、クローディアは変わった。アリスに対して嫌がらせをするようになったのだ。最初は気のせいだと言い聞かせていたけれど、昨日までの友人が気まずそうに距離を取る姿を見れば、嫌でも分かってしまった。

仮にも聖女候補であるアリスに対し、婉曲的であれ、嫌がらせを加えられる人物は、そう多くないから。


「はあ.........」


何度目かも分からぬ溜息を吐いて突っ伏した時、ぎい、と扉が開いた。アリスは慌てて顔を上げる。

立っていたのは腰の曲がった老婆だった。フードを目深に被っており、その表情は窺い知れない。足が不自由なのか、杖をついてよたよたと歩いてくる。支えてあげなくては、と扉の方に向かった途端、老婆は転んだ。アリスは駆け寄って老婆を助け起こそうとした。


「大丈夫ですか、おばあさん」

「あぁ、済まないねえ」


言って、老婆がアリスの手を掴もうとした時だった。ぐらりと視界が回った。天井の白が目に入り、訳も分からず目を瞬いた。

護衛に突き飛ばされたと理解するのに、数拍の間があった。キン、と金属がぶつかり合う音が響いて、アリスは固まる。他の騎士に助け起こされて、ようやく状況を見ることができた。

老婆は――否、老婆のふりをした男が、騎士と剣戟を繰り広げている。その度に血が舞った。


「こ、れは.......」

「お下がりください!」


ぞろぞろと、開け放たれた扉から黒装束の男たちが現れる。アリスは悲鳴を上げて目を瞑った。恐怖のあまり、動くこともできなかった。ちっ、と舌打ちした護衛がアリスを抱え上げ、他の護衛に指示を出して教会の奥へと駈ける。

白い教会に似合わない赤が舞う。


「ま、待って.......ち、ちち治癒、治癒を、誰か、怪我を」


手を伸ばしたけれど、護衛の速度が早くて、どんどん騎士と襲撃者は遠ざかる。


「今は御身を案じられませ」

「でも」

「お捨て置きください!」


ひゅっとアリスは息を飲む。己が狙われているという恐怖感が、なぜか今更迫ってきた。


「に、逃げられる? 死なないよね?」


護衛は吐息で笑った。


「はい。我々は神殿騎士の中でも選りすぐりの実力者。襲撃者などに屈しません」

「そう、なんだ.......」


アリスはぎゅっと騎士の服を掴んだ。

恐怖と混乱に支配されて、それ以上何も言うことができなかった。


光魔法使いが襲撃されたという報は、すぐに教会と王宮に届けられた。殊更教会がこれに立腹し、一刻も早い事態究明を望んだ。教会と王宮合同の捜査は速やかに進められた。

そうして数週間にわたる調査の末、クローディア・シャーウッドの名前が上がったのだった。


「――シャーウッド公爵家令嬢、クローディアどの」

「なんですか、朝から騒々しい」


現れた調査隊に対し、クローディアは不機嫌を隠そうともしなかった。


「光魔法使いアリス・フローレス令嬢襲撃事件の嫌疑がかけられております。ご同行願います」


淡々とした調査隊の言葉に、クローディアはぴくりと眉を動かす。馬鹿な、と執事が反論した。


「襲撃事件の時、お嬢様は王宮におられた! そもそもお嬢様は、分刻みでスケジュールを管理されている! そのような嫌疑をかけられる謂れはなかろう!」

「黙りなさい、セバスチャン」

「しかし!」

「国王陛下直属の調査隊のご命令とあらば、従わないわけには参りませんわね」


はあ、と大仰にクローディアは溜息を吐き、手を差し出した。


「さあ、どこへなりとも連れて行きなさい」


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