似ている
それから数日。
えりは、よく外に出ていた。
夕方になると、庭先で本を読んでいたり、植木に水をやっていたりする。
そして、子供たちが帰ってくると少しだけ遊ぶ。
それが自然と日常になっていた。
ある日。
ひろは休日で、家の前で車を洗っていた。
子供たちは庭で遊んでいる。
隣の家のドアが開いた。
「こんにちは」
えりだった。
「こんにちは」
えりは手に小さな袋を持っていた。
「これ、よかったら」
「え?」
「おすそ分けです」
袋の中には、クッキーが入っていた。
「作ったんです」
「ありがとうございます」
そのとき。
ひろは少し驚いた。
袋から、ふわっと甘い匂いがした。
それは。
昔、よく食べた匂いだった。
「どうしたんですか?」
えりが聞く。
「いや」
ひろは少し笑った。
「昔、似たクッキーを食べたことがあって」
えりは一瞬だけ黙った。
そして言った。
「そうなんですね」
そのとき。
次男が走ってきた。
「クッキー!」
えりはしゃがんだ。
「あとでね」
そして。
次男の頭をなでた。
その手の動き。
その癖。
ひろは、はっきり思い出した。
えいこも。
同じなで方をしていた。
ひろは思わず聞いた。
「榎本さん」
「はい?」
少し迷ってから言う。
「東京の人ですか?」
えりは少し考えた。
そして答えた。
「そうですね」
「ずっと東京ですか?」
えりは、少しだけ空を見た。
「……いろいろです」
それだけだった。
そのとき。
長女が言った。
「隣のおねえさんね」
「うん?」
「パパの好きなコーヒー知ってたよ」
ひろは驚いた。
「え?」
長女は続ける。
「この前、スーパーで会ったの」
「それで?」
「パパはブラックで飲む人ですよねって」
ひろはえりを見た。
えりは少しだけ困ったように笑った。
「なんとなくです」
でも。
その言葉は、少しだけ遅かった。
ひろは思った。
おかしい。
この人は。
なぜ。
そんなことを知っているんだろう。
そして、もう一つ。
ひろは気づいてしまった。
えりが笑うとき。
ほんの少しだけ。
右のえくぼが出る。
それは。
えいこと同じだった。




