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君が隣に住んだ理由  作者: 臥亜


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6/20

現在

 あれから十年が経った。


 ひろは三十二歳になっていた。


 朝六時。


 目覚まし時計が鳴る前に目が覚める。


 昔から、朝は早い。


 布団から出て、カーテンを開ける。


 窓の外は、まだ少し薄暗い。


 住宅街は静かだった。


 


 キッチンから音がする。


 妻が朝ごはんを作っていた。


「おはよう」


「おはよう」


 ひろはコーヒーを入れた。


 妻は手際よくフライパンを動かしている。


「今日は早いね」


「目が覚めた」


 そんな何気ない会話。


 


 そこへ、リビングの奥から声がする。


「パパー」


 長女だ。


 まだ寝ぼけた顔で歩いてくる。


「おはよう」


「おはよう」


 その後ろから、次男も出てくる。


 まだ小さい。


 寝ぐせのまま、ひろの足に抱きついた。


 


 ひろは二人の頭を軽くなでた。


「顔洗ってこい」


「はーい」


 


 朝ごはんは、四人で食べる。


 トーストと卵焼き。


 簡単な朝食。


 でも、この時間がひろは好きだった。


 


 会社へ向かう途中。


 ひろはふと、家を振り返ることがある。


 三年前に買った一軒家。


 大きくはない。


 ローンもまだ長い。


 それでも、自分の家だった。


 


 結婚したのは、七年前。


 今の妻とは、会社の知り合いの紹介で出会った。


 最初から強い恋だったわけではない。


 でも、穏やかな人だった。


 一緒にいると安心できた。


 


 えいこと別れてからしばらくは、恋愛をする気にはなれなかった。


 何年も、誰とも付き合わなかった。


 仕事だけしていた。


 


 でも、人は少しずつ前に進む。


 今の妻と出会い、結婚し、子供が生まれた。


 気づけば、今の生活が当たり前になっていた。


 


 もちろん。


 えいこのことを忘れたわけではない。


 でも、思い出すことはほとんどなくなっていた。


 時間が、静かに遠ざけてくれた。


 


 少なくとも。


 ひろはそう思っていた。


 


 その日の夜。


 ひろは仕事から帰ってきた。


 夕飯を食べ、子供たちと少し遊ぶ。


 妻は食器を洗っていた。


 


 テレビの音が流れる、いつもの夜。


 


 そのとき。


 玄関のチャイムが鳴った。


 ピンポーン。


 


 ひろは立ち上がった。


「はーい」


 


 玄関へ向かう。


 


 ドアを開ける。


 


 そこに立っていた女性を見て。


 


 ひろの時間は。


 一瞬だけ。


 


 十年前に戻った。

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