偶然の再会
その日。
ひろは会社を早退していた。
理由は大したことではない。
健康診断の再検査だった。
駅前の総合病院。
十年前、何度も来た場所だった。
待合室に座ると、懐かしい匂いがした。
消毒液の匂い。
ひろは少しだけ昔を思い出した。
えいこは、この病院で働いていた。
受付の制服を着て。
忙しそうに歩いていた姿を思い出す。
「川口さん」
名前を呼ばれた。
検査はすぐに終わった。
会計を待っているとき。
廊下の奥に、見覚えのある姿が見えた。
えりだった。
ひろは思わず立ち上がりそうになった。
でも。
その隣には医者がいた。
白衣の男性。
二人は小さな声で話していた。
ひろは、少しだけ聞こえてしまった。
「体調はどうですか」
「最近は大丈夫です」
えりの声だった。
医者は少し間を置いた。
「ただ」
その言葉のあと。
声が少し低くなった。
「無理はしないでください」
えりは小さくうなずいた。
「わかっています」
医者は続けた。
「時間は」
少しだけ言葉を選んでいた。
「決して長くはありません」
ひろの心臓が強く鳴った。
えりは、少しだけ笑った。
「大丈夫です」
その笑顔は。
どこか覚悟を決めた人の顔だった。
「やりたいことは」
えりは静かに言った。
「もう決めています」
医者は少し驚いた顔をした。
「そうですか」
「はい」
そして。
えりは言った。
「会いたい人に」
その言葉を聞いたとき。
ひろの胸がざわついた。
「もう会えたので」
医者は何も言わなかった。
ただ小さくうなずいた。
えりが振り向いた。
そのとき。
ひろと目が合った。
一瞬。
二人とも動かなかった。
えりは驚いた顔をした。
「……ひろ?」
その言葉。
それは。
十年前と同じ呼び方だった。




