表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

嘘の世界1

境界線

作者: ハル

常に動いているが移動していない場所があった。


床はわずかに震え、壁は呼吸のように伸び縮みし、天井は低くなったり高くなったりしていた。


だが、どれだけ揺れても、場所そのものは変わらない。

外から見れば、ずっと同じ位置にある。

ただ中にいると、止まっている感じがしなかった。


そこに、名をユウと呼ばれる人がいた。


ユウは自分の名前を覚えていたが、なぜその名前なのかは知らなかった。

ここでは、知る必要があることと、知れないことの区別が曖昧だった。



ユウは毎日、歩いている。

前に進んでいるつもりだったが、景色は少しも変わらない。


床の揺れに合わせて足を出し、壁の伸びに合わせて姿勢を変える。

それを自由だと感じた日もあった。

誰にも止められていない、と思ったからだ。


別の日には、自由ではないと思った。

どれだけ歩いても、端に着かない。


戻ろうとしても、背中側も同じだった。

選んでいる感覚だけがあり、選んだ結果はどこにも現れなかった。



あるとき、境界線が現れた。線は細く、はっきりしていた。

越えられそうに見えたし、越えられない理由も見当たらない。


線の向こう側は、揺れていなかった。

動いていないというより、何も起きていないようだ。


ユウは立ち止まった。

止まると、場所の動きがはっきり分かった。

床の震えはユウの足を待たず、壁の伸び縮みはユウの呼吸を無視していた。


動いているのは場所で、自分ではないのかもしれない、という考えが浮かんだが、すぐに形を失った。


その瞬間、場所のルールが一度だけ壊れた。

揺れが止まり、壁も天井も静止し。


完全な静止だった。

ユウは一歩踏み出せば、線を越えられると分かった。

分かったが、確かめる方法はない。



次の瞬間、揺れは戻った。今度は、少しだけ強かった。

境界線は消えなかったが、近づいているのか遠ざかっているのかが分からなくなった。


ユウは腕を伸ばした。

触れたかどうかは判断できなかった。


線は見えているが、感触はない。

越えたかどうかも分からない。

ただ、ユウは境界の手前に立っていた。


立っている、という状態だけが残り、場所は相変わらず動き続けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
表現がとても面白いなと思いました。 特に序盤の「壁は呼吸のように伸び縮みし」という部分や、「それを自由だと感じた日もあった。誰にも止められていない、と思ったからだ。」から「別の日には、自由ではないと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ