海の町の駅
夜中になると、寝台車は海沿いの町にさしかかった。
窓のむこうは暗いが松林のようなものが見え、そのむこうに水平線と思われる灰色の線が広がっている。
新海 湊はイライラと窓の外を見た。
出張先で朝イチに取引先へと行かなければならないのに、乗る列車を完全に間違えてしまった。
土地勘のまったくないところなのでこういうことも多少は想定していたが、何で普通列車と間違えて寝台車に乗れたのか謎だ。
そわそわとネクタイを直す。
降りられるところで降りてタクシーに乗ろうと思う。
寝台車にはまえから興味があっていちど乗ってみたいと思っていたが、きょうのところはくつろいでいるところではない。
「つぎは見附田駅、見附田駅」
車掌のアナウンスが聞こえる。
こんな夜中でも到着する駅があるんだとおどろく。
かなり田舎の街のようだが、タクシーは来るだろうかと外をうかがう。
駅なんかどこにあるんだと怪訝に思う。
あかりすら見えないが。
ガタンゴトンと列車のジョイント音が聞こえつづけている。
しばらくすると、また車掌のアナウンスが聞こえた。
「つぎは小前田駅。え、小前田駅のつぎは小前荷駅に停車します」
「おまえだ」のつぎは「おまえに」。
ふざけてんのかと思う。
むかしの適当につけた村名がそのまま駅名になっているとか。
窓のふちに、通過する駅名がちいさな字で書いてあるのに気づいた。
小前荷駅のつぎは鳥付駅、伊馬駅、小前野駅、宇城似駅、宇城似入僧駅。
湊は顔をしかめた。
「みつけた」「おまえだ」「おまえに」「とりつく」「いま」「おまえの」「うしろに」「うしろにいるぞ」。
とたんに窓の外に見えていた水平線が盛り上がり、一気にこちらに向かってくる。
「うわ!!」
湊は声を上げた。
列車の中まで浸水し、水圧で一気に壁にたたきつけられる。
ゴボッと海水のなかでもがいた。
目のまえに、ぎょろりとした目でこちらに迫る大入道のようなものが見える。
湊は必死で海水をかいて大入道から逃げた。
「小前荷駅、小前荷駅。――終点、宇城似入僧駅の到着は午前二時四十四分の予定です」
車掌のアナウンスが聞こえる。
海水と大入道は消えていた。
無人駅らしき建物が窓から見える。
列車が停車した。
湊はカバンを持つと、駆け足で乗降口へと向かった。
終




