海沿いの駅
夜中になると、寝台車は海沿いにさしかかった。
窓のむこうは暗いが松林が見え、そのむこうに水平線と思われる灰色の線が広がっている。
はじめて来る土地なので見るものすべてが新鮮だ。
あの松林で首をくくるのもお手軽そうと思う。
海に入って、どこまでもまっすぐゆーったりと歩いていくのもいい。
もう疲れたから、死にかたも疲れないものにしたい。
浅海 渚は、ぼんやりと窓の外の流れる景色をながめた。
とくになにがあったというわけではない。
仕事場の人間関係はまあまあだし、条件もいい会社だ。
友人もいる。
趣味のサークルに入って、楽しく過ごすこともある。
有給もわりとすんなりととれた。
人から見てとくに困っているように見える部分がないから、相談しても「だいじょうぶだよ」で済まされる。
ネットで調べたら鬱ではないかという結論にいたったが、では治療するかというと、とくに必要ではないのではと思う。
死んでしまえば、もっとかんたんに解決すると思うのだ。
窓に映る自分の顔が、自分のようで自分ではないように見える。
ドッペルゲンガーというやつだったりしてと思う。
それならここでパッタリ死ねるのに。めんどくさいもんだなとあくびをする。
「つぎは見附田駅、見附田駅」
車掌のアナウンスが聞こえる。
こんな夜中でも到着する駅があるんだとすこしおどろく。
ガタンゴトンと列車のジョイント音が聞こえつづけている。
しばらくすると、また車掌のアナウンスが聞こえた。
「つぎは小前田駅。え、小前田駅のつぎは小前荷駅に停車します」
「おまえだ」のつぎは「おまえに」。
おもしろ、と思う。
駅名をまとめていうほど距離が近いのか。
小さな町ごとに駅がある土地なのだろうか。
なにも調べずにフラッと乗った列車なので、どんな駅を通過するのかすら分からなかった。
バッグからスマホを取りだし、検索する。
小前荷駅のつぎは鳥付駅、伊馬駅、小前野駅、宇城似駅、宇城似入僧駅。
渚は窓の外の夜の海沿いを見つめた。
「みつけた」「おまえだ」「おまえに」「とりつく」「いま」「おまえの」「うしろに」「うしろにいるぞ」。
ぐうぜんかもしれないけど、もしかしたらものすごくラクに死ねるかも。
このまま寝台で寝て、これらの駅を通過すれば。
死ねるかもと思うと、安心感でふわふわと体の力が抜けた。
列車のジョイント音がガタンゴトンと聞こえる。
すっと音が遠くなった。
終




