そろえられた靴 (書きかけです)
「ちょっとぉ! 降りて! 降りてよ、もうっ!」
県境の山中の一本道。
すでにあたりは陽も沈んでまっくらだ。
沼沢 洸太は、彼女と隣県にドライブデートに行った帰り、車内でケンカになり車から追いだされた。
彼女がかわいいかわいい言って自慢にしていた、てんとう虫のような赤い軽自動車から、つんのめるようにして降車する。
「もう別れるからね! 一人で帰って!」
「こんなとこで降ろすかふつう! んな気づかいねえ女、こっちだって別れるわ!」
「じゃね!」
彼女が大きな声で告げて車を走らせる。
申し訳ていどにしか外灯のない暗い道。
車のライトはあっという間に小さくなり見えなくなった。
「あーくそ」
洸太は吐き捨てた。
ケンカの原因はささいなものだったが、おたがいに車内で言いつのるうちに話がこじれた。
「あー」
自身の足もとを見る。
持ちものだけは置き忘れまいと持ちだしてきたが、靴を忘れた。
助手席で、くつろぐために脱いでいたのだ。
「あーくそ」
もういちどボヤいてその場にしゃがむ。
ガードレールの向こう側は、大きな沼なのだと気づいた。
フクロウの鳴き声らしきものが聞こえる。
はじめて聞いた。ほんとにホー、ホーって鳴くんだと思った。
目が慣れてくると、数メートルさきに沼のまんなかほどまで行ける土手があるのに気づいた。
大きな木が植えられ、ベンチらしきものが置いてある。
昼間はながめのいい公園という感じの場所なんだろうか。
すわれる場所があるなら、とりあえず。
洸太は、土手のほうに歩みよった。
土手の上はきちんと整備されていて、道も均されベンチもそれぞれ違う向きで二台ほど置いてある。
周囲の大きな木々も定期的に伐採されているような整った形だ。
民家は周辺にはなく、ずっと遠くにやっと民家らしきあかりが見える。
車が必須の土地だろうし、ここは車で来てくつろぐ公園なのか。
ふと土手のはしのほうを見ると、黒っぽい革靴がそろえて脱ぎ捨てられている。
「え、ラッキー」
洸太は思わずつぶやいた。
これもらってやろ。
靴下で歩いてきたので、足の裏は悲惨なことになっている。
靴下を脱いで手に持つか、それとも気にせずにこのまま靴を履くか迷ったが、よごれた靴下を手に持ちたくないのでそのまま履いた。
どうせこんな経緯でもらった靴なんて、後生大事に持ちつづけたりしないだろうし。




