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水が増えていく怪談  作者: 路明(ロア)
沼 ㇴま

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34/43

そろえられた靴  (書きかけです)

 

「ちょっとぉ! 降りて! 降りてよ、もうっ!」


 県境の山中の一本道。

 すでにあたりは陽も沈んでまっくらだ。

 

 沼沢 洸太(ぬまざわ こうた)は、彼女と隣県にドライブデートに行った帰り、車内でケンカになり車から追いだされた。

 彼女がかわいいかわいい言って自慢にしていた、てんとう虫のような赤い軽自動車から、つんのめるようにして降車する。

 

「もう別れるからね! 一人で帰って!」

「こんなとこで降ろすかふつう! んな気づかいねえ女、こっちだって別れるわ!」


「じゃね!」

 彼女が大きな声で告げて車を走らせる。

 申し訳ていどにしか外灯のない暗い道。

 車のライトはあっという間に小さくなり見えなくなった。

「あーくそ」

 洸太(こうた)は吐き捨てた。

 ケンカの原因はささいなものだったが、おたがいに車内で言いつのるうちに話がこじれた。

「あー」

 自身の足もとを見る。

 持ちものだけは置き忘れまいと持ちだしてきたが、靴を忘れた。

 助手席で、くつろぐために脱いでいたのだ。

「あーくそ」

 もういちどボヤいてその場にしゃがむ。


 ガードレールの向こう側は、大きな沼なのだと気づいた。

 

 フクロウの鳴き声らしきものが聞こえる。

 はじめて聞いた。ほんとにホー、ホーって鳴くんだと思った。

 

 目が慣れてくると、数メートルさきに沼のまんなかほどまで行ける土手があるのに気づいた。

 大きな木が植えられ、ベンチらしきものが置いてある。

 昼間はながめのいい公園という感じの場所なんだろうか。


 すわれる場所があるなら、とりあえず。


 洸太は、土手のほうに歩みよった。

 土手の上はきちんと整備されていて、道も(なら)されベンチもそれぞれ違う向きで二台ほど置いてある。

 周囲の大きな木々も定期的に伐採(ばっさい)されているような整った形だ。

 民家は周辺にはなく、ずっと遠くにやっと民家らしきあかりが見える。

 車が必須の土地だろうし、ここは車で来てくつろぐ公園なのか。



 ふと土手のはしのほうを見ると、黒っぽい革靴がそろえて脱ぎ捨てられている。



「え、ラッキー」

 洸太は思わずつぶやいた。

 これもらってやろ。

 靴下で歩いてきたので、足の裏は悲惨なことになっている。

 靴下を脱いで手に持つか、それとも気にせずにこのまま靴を履くか迷ったが、よごれた靴下を手に持ちたくないのでそのまま履いた。


 どうせこんな経緯でもらった靴なんて、後生大事に持ちつづけたりしないだろうし。



 


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