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水が増えていく怪談  作者: 路明(ロア)
川 ヵわ

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32/43

あなたに贈ります



 さいきん彼女ができたが、誕生日のプレゼントは何にしたらいいのか。


 

 水戸口 潤(みとぐち じゅん)は、アパートの近くのバス停で降りた。

 午後九時すぎ。

 橋の上には外灯はなく、民家や店もやや離れているので足元は暗い。


 バイトをしながら大学に通う身なので、経済的に余裕があるわけではない。


 だがはじめてできた彼女だ。喜んでもらえるものを贈ってあげたい。

 できれば豪華なものを贈って格好をつけたいなんて気持ちもある。


 出逢ったきっかけは少し変わっていて、先祖の墓参りに行く友人につきそって霊園に行ったときだった。

 他県にいっしょに遊びに行く途中でついでだからと友人が立ちより、近くのスーパーで買った菊の花を五分ほどでそえて霊園の出入口に戻ってきた。

 その間、霊園まえの自販機でスポーツドリンクを飲んで待っていたのだが、そのときに話しかけてきたのがいまの彼女だった。

 

 長い黒髪と白い肌に、赤い花もようのワンピースがすごく似合っていた。


 こんなきれいな人いるんだ、芸能人かなと思わずまじまじと見てしまった。


 落しものをしたというので探してあげようとあたりをきょろきょろと見回したが、よくよく聞いたらここではなくアパートの近くの川での話だと笑った。

 「え、その川うちの近く」と答えたら、ぐうぜん彼女の自宅も付近だという。

 近所のコンビニや地元の人くらいしか知らないような神社や、マイナーな史跡の話などで話がはずんで、さらに話していくと大学まで同じ。

 

 「まじか」とうれしくなった。


 こんなきれいな人とそれ以上に何かは期待していなかったが、のちに大学の敷地内でばったりと会ったときは、彼女のほうから声をかけてくれた。


 どちらかが告白したとかではなく、気がついたらつきあっていたという感じだ。


 唯一の仲のいい異性だよな、と思ってたら、彼女が「つきあってるんだよね?」と確認してきた。

 「えっ、そうなのか」と目を丸くした。

 じっさいに付き合うときってこんな経緯なのか、屋上に呼び出して告白とかじゃないんだなと思った。

 ちょっとトントン拍子で怖い気もしたけど。

 

 



 バス停から降りて、広い橋の歩道を通る。


 下は河原だ。

 ざぶざぶと水が流れているかなり深いところもあるが、まるい石が一面に転がっているエリアのほうがずっと広い。

 遠くの外灯の光が川の水に映って、暗いなかにも水がはげしく流れる様子が認識できる。

 小さいころ、河原できれいな石をひろって持ち帰ったりしたなと思った。

 ざぶざぶと音を立てる水と一面に転がる石を橋を歩きながらながめる。


 ふと一面に転がる石のなかに、真っ白い石を見つけた。


 外灯の光がうまい角度にあたっているのか。

 ほかの石がやっと輪郭(りんかく)だけが判別できるような暗さなのに、その白い石だけがはっきりと見える。


 光を放つ性質の石なのか、それともわずかな光でも反射しやすいのか。


 何となくその石が気になった。

 早足で橋の入口のほうへ歩を進めると、川の土手へと進み、石のあった場所を確認しながら降りられそうな場所をさがす。

 十メートルほど歩くと、土手にコンクリートの階段が設置されているのを見つけた。

 早足で階段を降りて、白い石のあったあたりに歩みよる。

 

 一つだけかと思っていた石は、よく見ると周囲に大小いくつか転がっている。

 

 (じゅん)は、両手でひろいあつめた。

 ジャンパーのポケットに、つぎつぎと白い石を入れる。

 しゃがんだ格好で移動しながらまるい石をさぐると、その下からも白いきれいな石が見つかった。

 これを加工してネックレスかペンダントにしてプレゼントにできないかなと考えはじめる。

 いくら何でもショボすぎるだろうか。


 でもこんなにきれいな石なのだ。もしかしたら何かの宝石の原石なのかもしれない。

 潤は夢中で石を拾いあつめた。

 


「潤くん」



 背後から女性の声がする。

 ふりむくまえに相手が潤の横に歩みよってしゃがんだ。

 いま付き合っている彼女だ。

「橋の上歩いてたら、なんか川に見たことある人がいるなって」

「ああ……そか。不審者っぽかった? いま何時?」

 彼女が時間を告げる。

 一時間くらいさがしていたのか。夢中で気づかなかった。

 潤は苦笑してポケットをさぐった。大小の白い石を一つ取りだして彼女の耳にあてる。

「イヤリング……なんてダメかな」

 ハハッと笑って、冗談ということですまそうとする。

 彼女はうつむいて口のあたりに手をやった。

 こいつさては金ないなとあきれ果てているのだろうか。


 ややしてから彼女は、満面の笑みを浮かべて顔を上げた。



「ありがとう、潤くん」



 そう言ってほほえむ。

「わたしが川でなくしたものってそれ。さがしてくれてありがとう」

 潤は、何のことやらというふうに彼女を見た。



 彼女がいつも着ている白地に真っ赤な花もようのワンピース。

 とうとつに花もようではなくベッタリとつけられた血液に見えはじめる。



「え……」

 錯覚だよなと思う。暗さと外灯の光の角度のせい。

「わたしこの河原でストーカーに追いつかれて包丁で刺されてさ。――遺体はすぐ川の深いところにドボーンって投げ捨てられだから、なかなか見つからなくて。警察が見つけてくれたけど、もう白骨化してたから骨バラバラで。まだ見つかってない部分がけっこうあったんだよね」



 潤は、ぼうぜんとして彼女の姿を見つめた。

 白いワンピースのあちらこちらから、鮮血が吹きだしてワンピースに華のようなもようをつくる。

 潤はあやつられたようにひろったものを一つ一つ彼女に手渡した。


「ありがとう。潤くん、霊園でさがすの手伝ってくれるっていうから、やさしい人なんだなあって思ったんだ」


 潤は、思考力が停止したような状態でコクコクとうなずいた。

「ありがとう」

 彼女がもういちど言う。



「わたしの骨を見つけてくれて」





 終





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