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水が増えていく怪談  作者: 路明(ロア)
洪水 こぅव"い

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27/43

顔が増えていく怪談

 あすから夏休み。

 開放感でうきうきして友人とショッピングモールで遊んでいたら、暗くなってしまった。


 上溢 汐里(かみえき しおり)は、ショッピングモールの通路に立つポール時計を見上げた。

 現在、午後の八時。門限は九時なので、自転車ならまあまあよゆう。


 昼間の暑さが残っているせいか、お惣菜の割引時間になったわりに歩く人はあまり多くない。

 

「帰ろっか」


 友人の紗奈(さな)にそう声をかける。

「うん――あれ?」

 紗奈が歩きながら学生カバンをゴソゴソとさぐる。

 

「やっば。学校にタブレット置いてきた」

「えー」

「どうりでなんか軽いと思ったあ」

  

 気づきそうな気がするけどなあと思いつつ、汐里(しおり)は学校の方向をながめた。

 学校は、ここから家に帰る途中のあたりだ。

「とりに行く?」

 紗奈にそう尋ねる。

「行く行く。つきあってー」

 紗奈がぐちゃぐちゃにしてしまったカバンのなかを軽く整理しながら返答する。

 



 自転車を十分ほど走らせ、学校の近くの県道にさしかかる。

 左折してべつの県道に入り、五分ほど行ったらこんどは右折して生活道路に入る。


 とうぜんだが、学校は真っ暗だ。


 夏休み中も来ていると思われる部活動の生徒たちももう帰ったのか誰もいない。

 自転車置き場に自転車を停め、汐里は校舎を見上げた。

「どっか開いてる? 鍵かかってんじゃないの?」

「うーん、やっぱそっかあ……」

 紗奈が同じように校舎を見上げ眉をよせる。

「二階か三階の窓とか開いてないかな」

「……登んの?」

 汐里は顔をしかめた。



 一階の廊下を、懐中電灯のあかりと思われる光が通る。



 すぐにあかりがこちらを照らし、窓が開いた。

「どうしました?」

 年配の男性の声だ。

 警備会社の人か。

「えと教室に忘れものしちゃって。タブレットなんですけど」

 紗奈が声を上げる。

「あの、とってきてもらっていいですか。教室は一階の……」

 続けて言った汐里のセリフが言い終わらないうちに、警備員と思われる男性は最寄りの渡り廊下の出入口に歩みより、鍵を開けた。

 カラカラと出入口を開ける。

「どうぞ」

 そう声をかけてきた。

 二人で顔を見合わせる。

「いいんですか?」

「すみません」

 口々にそう伝える。

 上履きをとりに行くのは面倒なので、外履きの革靴をその場に脱いで靴下のまま校内に入った。


 教室に向かって早足で進むと、警備員は懐中電灯を照らしながらついてくる。


 「変な人じゃないよね」という感じに汐里と紗奈はチラチラ目配せし合ったが、もしこの懐中電灯がなかったら真っ暗でどこに何があるかも分からない。

 親切で照らしについてきてくれているんだろうと思うことにした。


 教室に入り、紗奈が自身の机をさぐる。


「あった、あった」

 アハハと照れかくしに笑いながら、肩にかけてきた学生カバンに入れる。

「すみませんでした」

 教室入口にいる警備員に汐里が声をかけると、紗奈も「すみませんでした」と頭を下げる。



「この校舎建ってるとこって二十年くらいまえに洪水あって、犠牲者がけっこう出たの知ってます?」



 警備員が、廊下のほうにうながしながらそんな話を切りだす。

 汐里と紗奈はそろって目を丸くした。

 雑談だろうか。

 ここまでとくに警備員とはおしゃべりもせずに来たが、もしかして怪しい生徒ではなくほんとうに忘れものを取りに来ただけと分かったところでホッとして雑談をする気になったとか。

「えと……親から聞きましたけど」

「あの、このまえユーチューブの県内ニュースでやってて」

 汐里と紗奈はそれぞれに答えた。


「一般的なお盆は八月だけど、このへんは七月の新暦のお盆が主流でしょ」


 警備員が廊下を歩き出しながらそう話す。 

 汐里と紗奈はあとをついて行きながらうなずいた。

 なので夏休みに入るまえにお盆の行事を行ってしまう家もある。



「だから七月に帰ってくる人もいて、まあ大勢なんで――」



 水の噴き出す音がする。

 汐里と紗奈はあたりを見回した。

 廊下の途中にある手洗い場の蛇口から、いっせいに水があふれ出ている。

「え、なにびっくりした」

「ちょっ、配管かなんかこわれたの?!」

 一箇所ならともかく、手洗い場すべてのようだ。廊下のさきのほうからも水がはげしくほとばしる音がしている。

「ちょっとまず止め……」

 汐里はいちばん近い手洗い場にかけよった。

 蛇口をひねろうとする。

 長ほそい水盤にたっぷりとたまってしまった水が目に入る。自身の姿が映っていた。

 キュ、キュと複数の蛇口を閉めながら、水盤の自分の姿をなにげに見る。



 肩にも頭の上にも腕にも胸元にも、自分のものとは違うさまざまな顔がいっしょに映っていた。



「きゃあああああ!!!」

 汐里は自身の胸元や腕をふりはらいながら手洗い場から離れた。

「ちょっ、やだ! やだああああ!!!」

 紗奈が学生カバンのベルトを両手でにぎりあとずさっている。

 水盤からあふれた水が廊下をながれ、紗奈の足元に迫っていた。


 彼女の姿といっしょにやはりいくつもの顔が水面に映っている。


「やだちょっと、警備員さん!」

 紗奈が警備員に助けを求める。

 汐里は警備員のいたほうを見た。

 

 警備員の姿はなく、持っていた懐中電灯のあたりに青白い人魂が浮いている。



「きゃあああああ━━━━!!!」



 汐里のあと紗奈は動揺して窓にかけよった。

 入ってきた渡り廊下の出入口までもどるのは怖い。

 さいわいここは一階だ。窓から脱出しようとクレセント錠を開けた。

 窓ガラスを開け、サッシ部分に靴下を履いた足をかけて外に飛びだす。

「紗奈!」

 声をかけると、紗奈もあとにつづいた。

 靴下が土まみれになるのにもかまわず校舎から離れる。

 

 プールのほうから、男子生徒なん人かの半狂乱になった叫び声が聞こえた。

「水泳部の人たち……?」

「いたんだ」

 汐里と紗奈は、校舎わきの植えこみにまぎれてしゃがみ、ハァッと息を吐いた。




 終





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