いっしょにナイトプール
ホテルのナイトプールだと料金もけっこうかかるが、市営のプールのナイトプールだとお手ごろ値段だ。
水利 清華は、毎年シーズンになると学生時代の友人二人とちょくちょくナイトプールに出かけていた。
子供のころに行ったただのナイター照明で照らされた夜営プールというわけはなく、さいきんは青や赤のライトで水面が照らされていたり音楽がかかっていたりして、イベントという面でも満足できる。
「まあ、ホテルのとかよりはたぶん落ちるんだろうけどさ。おしゃれなドリンクとか飲めるわけでもないしさ」
自家用の軽自動車のハンドルをにぎりながら、清華はハハと笑った。
「いいじゃん。じゅうぶん楽しいよぅ」
後部座席に座った友人の和泉が、前席のシートのあいだから顔を出して声を上げる。
「何回も遊びに来れるし、いいじゃん」
助手席に座ったおなじく友人の志帆が笑う。
「思ったんだけどさあ、プール入リながらアルコール飲んだら危なくない? 酔って沈んでる人いそう」
志帆がくすくすと笑う。
「水抜くまでだれも気づかないとか?」
和泉が声をひそめて応じる。
「やだー怖いいぃ!」
三人で三様にゲラゲラと笑う。
「じっさいあったら、大事件だって」
志帆がいつまでも笑っていた。
市営プールに到着する。
ウインカーを出して敷地内に入り駐車場に車を進めが、車がぎっしりと停まり空いているスペースがまったくみつからない。
「うわー混んでるねー」
和泉がサイドウィンドウ越しに外をながめる。
「まじ空いてないね――そっちは? はしのほう」
「ぜんっぜん空いてないよ」
清華はハンドルをにぎりながら首をすこしのばして遠くのほうを見渡した。
「これじゃ、駐車スペースさがしてるあいだにナイトプール終わっちゃいそ」
助手席の志帆があせった声を出す。
「しょうがないな」
清華はウインカーを出すと、アクセルを踏んでのろのろと走らせていた車のスピードを上げた。
市営プールの敷地を出る。
「え、どうすんの?」
和泉が尋ねる。
「どっかの空き地とかに停める」
清華は答えた。
「えっ、大丈夫?」
「分かんないけど」
そう答える。
周囲は古くからの住宅街だ。
きちんと区画整理されているわけではないので、どこかの家の敷地なのか空き地なのかよく分からない個所もあちらこちらにある。
どうせ二時間くらいだ。場所によっては帰るころまで誰にも不審に思われないままのところもありそう。
五分ほどうろうろと生活道路を走らせていたすえに、ちょうど軽自動車一台程度の空き地を見つけた。
すぐ横にちいさな平屋の家があるが、暗いところで見た感じでもかなり古い印象で、昭和初期か明治あたりの民家に見える。
あかりもなく、カーテンのない窓から中をながめてもだれもいる気配はない。
「ここ……大丈夫かな」
清華は民家のほうをうかがいながら車を乗り入れた。
もう片側は竹やぶ。前方には石づくりの小さなブロック群のようなミニ墓石のようなものがあるので、踏まないように停める。
「だれも住んでないっぽいし、二時間くらいなら……大丈夫かな」
志帆がサイドウィンドウから横の建物を見る。
「放置された建物って感じ。いつくらいの建物だろ。昭和のはじめ? 大正? 明治?」
和泉もサイドウィンドウから周囲をうかがった。
「いいや、もう。ここの持ち主の人に怒られたら、あやまればいいし」
清華は運転席のドアを開けた。
「まあ、うん。路上じゃないから路駐と言われることは……ないかな」
志帆があらためて民家の建物をうかがいながら助手席のドアを開けて車から降りる。
「みんな水着持ってー」
和泉が全員分のバッグを持って後部座席から降りる。
「これ清華ちゃん、こっち志帆ちゃん」
同行した面々にバッグを渡す。
清華は全員が降りて車のそばにいるのを確認して車をロックした。
「お夏ちゃんは? ほんとにプール入らなくていいの?」
和泉がボンネット前にいるお夏に問う。
「お夏ちゃん、水着きらいなんだよねえ。恥ずかしいんだって」
志帆が代わりに答える。
「まあ、プールサイドでライトアップ見てるだけでも楽しいかもね」
清華はそうフォローした。
「なんか古風だよねぇ。明治とか大正の人みたい」
志帆がくすくすと笑う。
お夏はとくになにも言い返さず、スーッとスロープの上にいるような足どりでこちらに歩みよる。
「でもその浴衣かわいいよね。かすり模様っていうの?」
藍染の布で二、三ヵ所つぎはぎをした着物を志帆が誉める。
さきに生活道路を歩きだした和泉が、大きな声で呼び手をふった。
「三人ともはやくぅ、プールプール」
終




