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水が増えていく怪談  作者: 路明(ロア)
ポットの水 ぽっ೬၈みव"

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未来予知レストラン


 いきなりの雨に降られた。


 生水 湧真(しょうず ゆうま)は、湿ってしまったワイシャツの胸元をつまみ、パタパタと扇ぐようにしながら雨の降る街なかをながめた。

 少しくらいの雨なら濡れるのもかまわず車に戻るが、ちょっと降りが強い。

 廃テナントビルと思われる建物の入口で雨を避けながら、降りが弱まるのを待つ。

 なかなか弱まらない。

 さきほどまでは手で雨を避けながら急ぎ足で歩いている人を見かけたが、すぐに人通りは減った。

 ザーッと音がしてくる。これはしばらく止まないかなと思う。



「あの」



 廃テナントビルの地下入口と思われる階段から、三十歳前後と思われる男性が昇ってくる。

 ギャルソンという感じの格好だ。おしゃれなバーとかレストランにいそうな。

 湧真(ゆうま)は半歩ほど横によけた。

 すっかりからっぽの廃墟か思っていたが、地下には店があったのか。

「あ、邪魔でしたか?」

 そう尋ねた。

 雨やどりの場所を変えなくてはならないだろうか。


「いいえ」


 男性が感じよく笑う。

「迷惑なら場所変えますけど」

「いえ」

 男性がふたたびそう答える。

「いま、ちょうど当店で試作品を作っていたところでして。もしお時間大丈夫でしたら、食べて行かれませんか?」

 男性が言う。

「試作品……」

 湧真は、曇った空を見た。

「だと、ちょっと割引になる感じ?」

「試作品ですのでお代はけっこうです」

 男性がそう告げる。

 タダより高いものはないという警戒心が脳裏をよぎったが、仕事帰りなのでこれから帰ってもご飯して風呂して寝るだけでとくに予定はない。

 男性がとくにあやしい界隈の人にも見えないので、まあいいかと湧真は思った。

「んじゃいいかな――ほんとうに無料?」

「無料でけっこうです」

 そう言うと男性は地下の階段を降りはじめる。湧真を店にうながした。




 地下一階に降りると、薄暗い廊下の一角にレストランらしき店の入口があった。

 通路に置かれた看板は昭和レトロっぽい野暮ったいデザインのものだが、古びて金属部分などはところどころが()びていたりして店名も読めない。

 客なんか来るんだろうかと湧真は思った。

 

「ちょうどできあがったところでして」


 店内に入ると、男性が湧真にテーブルをすすめていちど厨房のほうへと入って行った。

 かなり広い店内だ。

 一角にあるカウンター席、イスとテーブルは二十席以上あるだろうか。

 準備中ではあるのだろうが、薄暗くしんとした様子がよくいえば神秘的、悪くいえば不気味だ。


 ややしてからトマトや焼肉のような匂いがする。


 肉料理か。トマトソースがかけてある感じ。そんなところだろうか。

 男性が皿を運んできた。非常に大きな皿だ。グループで来る客用の料理なんだろうか。

 片手で格好よく運んでくる様子は、ものすごく手慣れていそうだ。

 もとは大手の店にでもいた人なのか。

 

「どうぞ」


 男性が、いちばん手前のテーブルに皿をコトリと置く。横にフォークとナイフ、スプーンを並べた。

「じゃ、あの、いただきます」

 湧真はテーブルに近づいた。

 料理を横目で見ながらイスを引く。

 


 とたんに目を見開いた。



 皿に乗っていたのは、焼け焦げた体をまるめ血液がどろりとかかった大柄な男性だった。



「ぇ……うわ!!!」



 湧真は、脚をもつれさせて後ずさった。

 イスがガタガタッと音を立てて床に倒れる。

 テーブル横で、男性が手にテーブルナプキンをかけ折り目正しく礼をしていた。

 あまりの動揺に湧真は「ひぃ」という声しか出ない。

 視界のはしに映った男性。

 礼儀正しくおだやかな物腰だが、やはり何かおかしな人だ。

 反社、狂人、殺人鬼。

 さまざまな言葉が頭に浮かび、湧真は混乱した頭でともかく逃げるべきだと判断した。


「ひ……ひィ!」


 脚をもつれさせて店の出入口まで走る。

 男性か男性の仲間が追ってきたらどうしようかと思ったが、さいわい追われることはなく、地下の階段を登りきり地上へと抜け出した。


 はぁっと息を吐く。

 何だあれ。警察に行ったほうがいいだろうかと思いながら心臓をおさえる。


 つぎの瞬間、湧真の目のまえに黒い大きな塊が落ちてきた。

 アスファルトの上でドサッと音がする。

 何ごとかと確認するまえに、周囲を歩いていた女性の二、三人が悲鳴を上げた。



 全身が焼け焦げた大柄な男性だ。



 上のほうを見ると、隣接したビルの窓から炎が上がっている。

「火事!」

「ちょ、あれ火事?!」

 周囲を歩いていた人々が、口々に言いビルの一角を指さしている。

 湧真はつい動けずにビルの窓か上がる炎を見つめてしまった。

「劇団入ってるとこだ!」

 ビルの関係者らしき年配男性が声を上げている。

 

 窓から赤い袋がいくつも落ちてきた。

 とうに破けていたのか、さきに落ちてきた焼け焦げた男性の体にバラバラと中の液体がかかる。


 血糊(ちのり)だ。湧真はそう気づいた。


 男性の体に大量の血糊がかかり、やがて血糊まみれになる。

 さきほど地下の店で見せられた皿の上とそっくりの見た目になった。



 終





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