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第一話:登別温泉(北海道)

土曜日の朝。羽田空港に晴斗たちはいた。

その日、晴斗たち一家は、その週だけ土日の営業を休業し、北海道へ向かうことにした。

当然、その週はシェフやフロアの従業員全員を休暇にした。その場合、いつもは月曜、火曜と休みのところを平日五日間を営業日にした。それは、娘である好乃の幼稚園のこともあり、休みを土日に合わせたのだ。

三人は早速、北海道行きの飛行機に乗った。

四才の好乃は、飛行機に乗るのがこれが初めてであった。飛行機に乗ると、彼女は興奮していた。泣くと思っていたが、平気そうで晴斗はホッとしていた。

一時間半ほどして、飛行機は新千歳(しんちとせ)空港に到着した。

空港に着いて、晴斗たちは一旦お昼休憩を取ることにする。

お昼ご飯を食べ終えた後、今度はそこからバスに一時間半ほど乗って目的の旅館に到着した。

旅館に着くと、早速、女将さんが晴斗たちを部屋へ案内してくれた。部屋は和室で、広々としていた。

晴斗たちは座椅子に落ち着くと、テーブルにあったお茶やらお菓子等で休憩する。

「一番風呂に行こう!」

 それから、晴斗がそう言った。

「いいわね」と、彩乃も張り切る。

 それから、「好乃、温泉行くわよ!」と、彩乃が好乃に声を掛けた。

「おんせん、いこう、いこう」と、好乃は嬉しそうに言った。

 早速、晴斗たちは部屋にあった浴衣とバスタオルを持って、温泉に向かう。本館から少し歩いた所に大浴場の建物があった。

 そこへ着き、晴斗は男湯へ一人で入ることにし、彩乃と好乃が二人で女湯へ入ることにした。


 晴斗は温泉に入る。その温泉はとても気持ちが良かった。

 ここの温泉は五種類の温泉が楽しめるらしかった。

 ①硫黄泉(いおうせん) ②食塩泉 ③芒硝泉(ぼうしょうせん) ④酸性緑はん泉 ⑤重曹泉(じゅうそうせん)である。

 晴斗はそれぞれの温泉に入ってみる。


 一方その頃。

 彩乃たち二人もその温泉を満喫していた。

 温泉に入るのが初めての好乃は、少々緊張気味の様だった。

 彩乃は好乃の服を脱がせ、その後、自分も服を脱いでタオルで頭を巻く。それから、彩乃はもう一枚のタオルを垂らして胸から下を覆うようにして、早速温泉に入る。

 温泉に入る前に、桶でお湯を掬い体に掛ける。彩乃は好乃にもお湯を掛けてあげる。

 彩乃が温泉に入り、身体を沈めた。

 その後、好乃もゆっくりと温泉に足をつけ、それから、段差のある所に座りお湯に浸かる。

「ふー、きもちい」と、彩乃が声を漏らす。それから、「どう?」と、彼女は好乃に訊いた。

「あつい!」と、好乃は正直に言う。

「熱かったら、出てもいいよ」

 彩乃がそう言うと、「うん。でも、きもちいいね!」と、好乃は言って笑った。

「そう、それなら良かった」

 彩乃はホッとして、彼女に微笑む。

 少しして、彩乃は娘のことを考えて、水風呂に入ることにした。

 そこへ入ると、「冷たい!」と、好乃はビックリしていた。彩乃も入る。確かに冷たいが、ひんやりしていて気持ちがいい。

「ここは、水風呂って言って、お水のお風呂なの!」と、彩乃は説明する。

「みずぶろ?」

「そう」

「へー。ねえ、ママ。よしの、別のお風呂行きたい!」

 それから、好乃がそう言うので、「分かった」と言って、彩乃はさっきと違うお風呂に入る。その温泉は、重曹泉のようである。

「あついね!」

 その温泉に入って、好乃は言う。

「うん。でも気持ちいいでしょ?」

「うん!」

「ここは、お肌がスベスベになるみたいなの」

 彩乃がそう言って、にこりと笑う。

「スベスベ」と、好乃が繰り返し言った。

「そう。ママも好乃も綺麗になるわ」

 彩乃がそう言って笑う。好乃もそれを聞いて、大笑いする。

 のぼせるといけないし、そろそろ出ようと彩乃は思い、そこを出た。


 彩乃たちがお風呂から出ると、大浴場のロビーのソファに晴斗が座って待っていた。

 好乃はパパを見つけると、一目散に彼の所に駆け寄った。

「パパ、何飲んでるの?」

 好乃が訊いた。

「コーヒー牛乳だよ!」と、晴斗は答える。

「コーヒーニューニュー?」

「コーヒー牛乳。好乃も飲む?」

 晴斗は半分入っているコーヒー牛乳の瓶を好乃に差し出す。彼女はそれを両手で持ち、ごくりと飲んだ。その後、彼女は不味いというような顔をした。

「あ、苦かった?」

 晴斗が訊くと、うんと彼女は頷く。

「牛乳もあるけど、そっち飲む?」

 それから、晴斗がそう訊くと、好乃は笑顔で頷いた。

 すぐに晴斗は自販機で牛乳を買う。瓶のふたを開けて、好乃に差し出した。彼女はおいしそうにそれを飲んだ。

 それから、ぷはーと息を吐く。

「牛乳、おいしい!」と、彼女は笑顔で言った。

「ママ、はい!」

 その後、好乃は残った牛乳を彩乃にあげた。

「ありがとう」と彩乃は言って、その牛乳を一口飲んだ。「うん、美味しいね」と、彩乃は好乃を見ながら笑顔で言った。

 その後も、三人でそれらを飲み、飲み終えてから部屋へ戻った。

「初めての温泉はどうだった?」

 畳に寝っ転がりながら、晴斗は好乃に訊く。

「きもちよかった!」と、彼女はすぐに答えた。

「おー、それは良かった! 五個の温泉があったけど、全部入った?」

 晴斗がそう訊くと、「三つは入ったよね」と、彩乃が言った。「後、水風呂も」

「三つ、水風呂も合わせたら四つか」

「うん、今回、好乃は温泉初めてだったからね。全部は入れなかったな……」

「十分じゃない? てか、今回は好乃にとって初めて尽くしだからね。凄いと思うよ」

 晴斗はそう言って、にこりと笑う。

「そう? まあ、そうかもね」

 彩乃が言って笑う。二人が笑っているので、好乃も笑顔を見せた。

 その後、晴斗たちは部屋でダラダラしながらテレビを観たりして過ごしていた。

 午後六時になり、夕食の時間になる。

 夕食はこの部屋ではなく、別の部屋で取ることになっていた。すぐに晴斗はたち夕食を食べに別の部屋へ向かう。

 そこへ行くと、先程とは別の女将がいて、夕食の準備をしていた。テーブルには会席料理が並んでいた。北海道ならではの海鮮やお肉、野菜などである。どれも美味しそうである。 

三人はすぐに料理の手前の座椅子に腰掛ける。

「では、ごゆっくりどうぞ」

 そう言って、その女将がそこを出て行く。

 早速、晴斗は瓶ビールを彩乃のグラスに注いだ。それから、彩乃が晴斗のグラスにビールを注ぐ。好乃のグラスにも瓶のオレンジジュースを注ぐ。

「じゃあ、乾杯!」

 晴斗は言って、三人でグラスを交わした。

 すぐに晴斗はビールを(あお)る。

「ぷはー、うめー」

 そのビールは良く冷えていて美味かった。

「うん、おいしい」

 彩乃もそれを飲んで言った。

「おいしい」と、オレンジジュースを一気に飲んだ好乃も嬉しそうに言った。

「いただきます」と晴斗が手を合わせると、彩乃や好乃も手を合わせて「いただきます」と言う。

 晴斗は早速、お刺身のお造りから食べる。その刺身は美味しかった。

 彩乃は、好乃が食べるのを見張りながら食事をする。

 好乃はおいしそうに食べている。

「好乃、おいしい?」

 晴斗がそう訊くと、「うん」と、彼女は答える。

「そっか、良かった」

 そう言った後、「これも初めてだね」と、彩乃が笑う。

「ああ」

 好乃にとって会席料理も今日が初めてであるなと思い出し、晴斗は頷く。

「今日は、初めて尽くしだ。色々と経験するのは大事だからね」

 晴斗は好乃を見て言った。

 彼女はもぐもぐとおいしそうにお刺身を食べる。

「そうね」と、彩乃が相槌を打った。

「ねえ、あなた」

 それから、ふと彩乃が口を開く。

「ん?」

「この会席料理を食べて思い出したけど、前に日本各地の料理を食べ歩いたわね」

 彼女のその言葉に、晴斗は思い出す。

「ああ、そうだね」

「あれって、四年前よね?」

「もう四年も前になるか……」

「うん。四年前って言ったら、まだ好乃が産まれてない頃ね。懐かしいわね」

 彩乃も当時の記憶を思い出して言う。

 ちょうど四年前、晴斗たちは新婚旅行で京都へ行った時、嵐山(あらしやま)の旅館で懐石料理を食べていた。その時、彼女の提案で東京にある日本各地の料理を二人で食べ周っていたのだった。

「あれから、四年が経ったと思うと、本当に早いね……」

 晴斗は懐かしむように言う。

 晴斗は今年で三十六になっていた。いわゆるアラフォーである。一方の彩乃も歳が三つ下なので、三十三歳になるわけだ。彼女はまだアラサーである。

 四才になった好乃は、もう幼稚園へ通い始めている。晴斗は親として、子供の成長が早いと感じていた。

 その後も、三人は料理を食べながら雑談をしていた。

 好乃はその会席料理を半分程食べて、「お腹いっぱい」と言ってごちそうさまをする。残った料理を晴斗と彩乃で少しずつ処理する。二人もお腹いっぱいになり、少し残してご馳走様をした。

 食べ終えて、三人は自分たちの部屋へ戻った。戻ると、部屋には川の字になるように布団が敷かれていた。三人はそれぞれ好きな布団へ入り、そこで横になった。

 好乃は数分もしないうちに眠ってしまった。

「疲れていたみたいだね」

 好乃の横で寝転がっていた晴斗がそう言った。

「そうだね」と、彩乃が頷く。「今日はいっぱい歩いたからね」

 彼女は好乃の寝顔を見て微笑む。

「私も疲れたな。もう寝ようかな」と、彩乃が言った。

「うん、いいよ。俺は少ししたら、もう一風呂浴びてくるよ」

 晴斗はそう言って起き上がり、窓辺にある椅子に座った。

「分かった。じゃあ、おやすみ」

 彩乃はそう言って、寝始める。

「おやすみ」と、晴斗は彼女に言う。それから、五分後に晴斗はもう一度大浴場へ向かった。


 翌朝、八時に目が覚め、晴斗は朝風呂へ行くことにした。二人はまだ寝ている。

「あ、おはよう!」

 晴斗が部屋に戻ってくると、二人は起きていた。

「おはよう」

「朝風呂行ってたの?」と、彩乃が訊く。

「うん、気持ち良かった」と、晴斗は答える。

「あさぶろ?」

 それから、好乃がママに訊いた。

「うん、朝風呂。朝起きて入るお風呂のことだよ」と、彩乃が説明する。

「へー、好乃もいきたい!」と、彼女が言った。

「行ってきたらどう?」

 それから、晴斗が彩乃たちに言った。

「うん、じゃあ、せっかくだしそうする」と、彼女は言った。「朝ごはんは九時よね?」

「そうだね。でも、ゆっくりしてきていいよ。チェックアウトは十時だし」

「分かったわ。じゃあ、好乃行こう!」

 彩乃は言って、好乃と二人で朝風呂へ向かった。

「ふう、気持ち良かった!」

 部屋に戻って来た彩乃が言った。

「最高~!」と、好乃も笑顔で言った。

「それは良かった! それじゃあ、朝ごはんを食べに行こうか!」

「うん」

 晴斗は部屋を出る。二人も彼の後に続いた。それから、三人は昨日と同じ和室の部屋へ向かった。そこへ行くと、朝食の用意がされていた。

 朝食は和食の会席料理である。どれも美味しそうだった。

いただきますと、三人は手を合わせて、それぞれご飯を食べた。どれもシンプルな味付けで美味しかった。

 ご飯を食べ終えた後、三人は部屋に戻り、身支度を済ませる。九時五十分になり、晴斗たちはチェックアウトをした。

 それから、新千歳空港までバスに乗った。空港に着いて、三人はお土産を見ることにした。晴斗と彩乃はお土産を買い、その後、飛行機に乗った。

「久々の温泉、気持ち良かったなぁ」

 飛行機に乗り、自分たちの席に着くと、彩乃がそう言った。

「そうだね」と、晴斗は頷く。

「おんせん、たのしかった!」と、好乃も嬉しそうに言った。

「そっか。良かった」

 晴斗は笑顔で言う。

 それから、「また行きたい!」と、好乃がはしゃぐように言った。

「また近いうちに行こうね!」と、彩乃が答えた。「ね、あなた」

 今度は晴斗の方を見て言った。

 うんと、晴斗は頷く。

 次は、どの温泉へ入ろうか?

 晴斗はそう思いながら、窓の外の景色を眺めた。

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― 新着の感想 ―
温泉にお詳しいですね。行ってみたくなりました。
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