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あなたは今、幸せですか?

作者: 雉白書屋

「すみません、少しインタビューをさせていただいてもよろしいですか? あなたは今、幸せですか?」


「え、はい。あっ……」


 しまった。いい気分でぼんやりと歩いていたら、突然後ろから声をかけられ、振り向く前に質問されて、反射的に「はい」と答えてしまった。後ろにいたのは、やはりテレビのレポーターなどではなく――


「どうも。私たちは幸福局の者です」


 ある日、政府は『幸福局』という新しい組織を設立した。その目的は、国民一人ひとりの幸福の量を制限することだった。ニュースでそれを聞いたとき、ソファに寝転びながら酒を飲んでいたおれは、それがどういうことかとは思わなかった。何か利権などがあるかは知らないが、どうせまた税金の無駄遣いだろうと鼻で笑ったのだ。

 しかし、幸福局の活動は想像以上に本格的だった。まるでワクチン接種のように、各市町村に設置された会場では、次々と人々が『調整』を受けていった。それは政府の説明によれば、『社会の平等を実現するための措置』だという。

 幸福は人を妬ませるものだ。現実やSNSで他人と自分を比べ、自己嫌悪に陥る。負けじと偽りの充実を演じるが、心は満たされない。だが、その虚飾を見抜けない者がまた妬み、そしてその繰り返しが、満たされない人間を次々に生み出していく。

 不満を募らせた人々は社会へ怒りを転嫁し、口汚い言葉を吐き、ネットは誹謗中傷であふれる。だが、皆の幸福量が同じであれば、そんな感情も起こらないはず。それが平等だと政府は主張していた。


「まずは身分証を出してください」


「ああ、はい」


「確認しました。それでは測定しますね」


「あ、はい……」


「うーん、やはり幸福度が基準値を上回っていますね。何か心当たりはありますか?」


「そういうお前こそ、今幸せそうじゃないか」と皮肉の一つでも言いたくなったが、おれはぐっと飲み込んだ。皮肉を言うと幸福度がさらに上がる。


「いや、あー、あれですね。最近、地域猫って言うんですかね? 野良猫と仲良くなりまして、ははは……」


「なるほど。その猫はこの地図のどのあたりにいますか? 指で示してください。はい、どうも。ああ、確かにこの地域の幸福度が高めですね。よし、回収班を送れ」

「はい」


 政府の研究機関が開発した幸福検知器は、まるで気象庁が使う地上気象観測装置のように街のいたるところに設置され、国全体の幸福度をヒートマップにして可視化できるらしい。幸福度が高い地域には局員が派遣され、さらにサーモグラフィーゴーグルのような機器で、人々をスキャンして個人の幸福度をチェックするという。


「では、その猫のことを思い浮かべてください」


 ああ、もうあの子に会えなくなるのか。猫くらいいいじゃないか。もともと、政府は税金をむしり取るなど、国民の幸せを奪うことに関しては熱心だったから、この制度が始まったのも驚きはしなかった。

 しかし、これで本当に平等になるのかは甚だ疑問だ。そもそも、幸福度を測定するというのも、正確に測っているのか疑わしいじゃないか。何か別の目的があるのではないか。……そうだ、幸福局が設立されたとき、みんな幸せどころか政府に対して怒りを覚えていた。不景気の中、増税したくせに自分たちは裏金に脱税、私腹を肥やすことばかりで、それに、ああ、ムカムカしてきた。おれは何をして――


「はい、少し頭がバチッとしますよ。はい、調整完了です。今後は外であまり笑顔にならないよう気をつけてくださいね」


「……はい。どうも」


 おれは何を考えていたんだっけ……。


「もう行っていいですよ。あ、その前に最後の質問です。あなたは今、幸せですね?」


「はい、幸せです……」


 よかった。おれは幸せらしい。

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