負けん気強めにいったるぜ
「あ、私多分使えるんですよね、魔法」
「「え」」
「使える使える!やり方さえ教えたら多分俺と並ぶくらいには強いぞ!」
「「は?」」
驚愕の表情でただ固まる男の人2人に手を挙げて「て事で、修行付けて貰うのが条件で、その後国が私の事雇って下さい」と言う現段階での最大の無茶を押し付ける。
事の始まりは城に呼ばれたとザイエルさんの言葉を受けた次の日。
ハイネライゼ家で2日間を過ごした次の日だ。
結局その日のうちに私の部屋だと用意されてたもののリビングでほとんどを過ごして居た私は、ようやくザイエルさんの妻であるララリア夫人と対面した。
初めましての時はとても驚いたけれど、絹のような銀の髪と赤い瞳はリンカちゃんとお揃いで少し不安げな眼差しに、大人の女性らしさを感じる。
こんな美人から産まれたらそりゃあんなに可愛くなるよねえと納得しつつも、今回の件夫人はあまり詳細を聞いていないらしくて知っている部分をそのまま話すととても驚かれた。
「ここに居る間は私達を自分の家族だと思ってね」と笑って私の頭を撫でてくれる優しい手に、ああ、暖かいなあと忘れていた温もりが蘇る。
リンカちゃんは習い事やお勉強の合間にリビングに寄ってくれたり、ご飯の後少し話しをする様になった。
外の話しを聞かせて欲しいと言われて、前に住んでいた場所で出会った人の話しや近所の猫の話しをする。
来た時の事を覚えて居ないので私も外がどうなっているのか分からず問いかけるが、ララリア夫人もリンカちゃんも困った様に首を傾げるのだった。
そんな中王城へ向かう道すがら、ザイエルさんとは馬車の中で会話は無い。
こちらもなんて話そうかとか、さすがにお父様とかパパは無いわーと心の中で手を振って居ると「もし」と小さな呟きが聞こえて顔を上げる。
そこには真っ直ぐに届くブラウンの瞳があって、私を映していた。
「もし、この国に残り生きて行くと言うのであれば我が家が全力で保護する。
遠慮せずに頼ると良い」
「……」
見慣れた死んだ目じゃ無い、生きた人の熱い眼差し。
あー、多分私も仕事始めた時はこんな顔してたんだろうな。
「この数日でマシにはなったが目の下のクマも表情も、あまり見れたものでは無かった。
何かを成すには身体が資本だ。
あまり無理をしてはいけない」
「ザイエルさんって実は表情に出ないだけで心の中めちゃくちゃ心配性だったりしませんか?」
「心配……しない訳が無いだろう、まだ幼い子が天涯孤独になったのだ。
ご両親も不安だろう」
「いや、うちは亡くなって……」
「親はいくつになっても親なのだ」
「……はい」
ララリア夫人と言いザイエルさんと言い、分かりやすい人と分かりにくい人。
言葉と表情に出る人、出ない人。
色んな人が居るよなあと思いつつ少し気になるトゲがいくつか消えて行った。
国の王と呼ばれる人に挨拶をして、元凶の彼とも挨拶をして、軽く雑談を交えてから先手必勝。
冒頭に戻る、のであった。
「いや、その……カナエ」
「はい?」
「異世界から来た貴女が魔法を使えると確信を持って居るのも驚きではあるが、何故こいつに指示を仰ぐ?
コレは貴女がこの場所にやって来た原因を作り出した元凶だぞ」
「過ぎた事は良いんです、今から償って貰えるんですよね?魔法使いさん」
「その償いがお前に魔法教えろって事だろ?
面白そうだしこっちは全然おっけー!」
「クレカドス!もう少し考えて言葉を」
「考えたって利益しかないだろ?
国の外に出てこの現状を漏らされたり、別の魔法使いに余計な知恵を付け足される事も無い上に本人が希望してる!
異世界人ってだけでも興味尽きないってのに面白そうな事考えてるコイツに俺めちゃくちゃ興味津々!」
「……陛下」
「私も良いと思うが……むしろ貴女、カナエ殿は本当によろしいのですか?」
「文句言うにも実力無いと喧嘩買えないじゃ無いですか。
出来る事ならやります、やれそうにないならやりません。
異世界人ってパケに国のお墨付き貰ったら安全な人間だよ〜って分かりやすいでしょ?
タダでさえザイエルさんの家にお世話になるんだから初めから敵認定される障害は減らしたいんですよね。
あとは単純にちょっとワクワクしてます」
どんな仕事だって楽しめそうな事の方が伸びは速いんだ。
出来る限りやってみせますとも!
握り拳を見せ付けると、大人二人は何故か揃ってため息を吐き出すのだった。