手違いで異世界へ?まあそうでしょうね
「手違いで異世界へ?
あー、まあそうでしょうね」
「驚かないのか?」
ギョッとしたザイエルは目の前で諦めの表情でため息を吐き出すカナエに対して「取り乱しもしないとは……」と思わず声に出していたことに気付いて咳払いした。
「驚きはしましたよ、今もわりと。
けどここに居るって事はそうなんでしょうし、あの昨日のお兄さんが原因っぽいのも、第一声のあれ?みたいな声で何となく」
「不安は無いのか、家族や友人と離れる事は……」
そう言われてもなあと苦笑しつつ、私は少し身の上話しを始める事にした。
まあ、家族と呼べる存在は私が学生の間に他界した。
両方とも病死、そこから就職して一人暮らしを初めて、ブラック企業で社畜と来れば仕事仲間も取っかえ引っ変え。
元々希薄な人間関係の中来てしまったもので特に心配事を残して来ては無いけれど。
「まあこの後の身の振り方ですよね。
今私の身元誰預かりになってるんでしょう」
「一応私になっている。
イベントの責任者として、それから元凶としてクレカドス…昨日のふざけた男が居ただろう?
アイツの名前も上がったんだが周囲に却下され私が後見人として立候補した」
「そうでしたか…それはありがとうございます、綺麗な寝床に朝ご飯、それから美しい娘さんともお話しさせていただいて」
「娘?ああ、リンカか」
「物凄く綺麗で可愛らしく、口調も丁寧で……私の服の事迄気遣っていただいて嬉しかったです」
「失礼が無かったのなら何よりだが、服?」
「私この世界の人間じゃ無いので着てた服もそうですけどこちらで用意出来る物じゃなくて。
同じブランドでの用意が出来なくて申し訳ないと。
わざわざ探して下さったみたいで」
「ああ、そうか」
「……あんなにも可愛らしいお嬢さんなのに、あまり嬉しそうではありませんね?」
私の言葉にハッとした彼は咳払いすると「所詮は模造品ですから」と言葉を濁した。
さすがに会ったばかりの人間に刺すのもちょっとなあと言葉の端々に聞こえるモラハラっぽい発言は心の中で記憶しておく事にする。
「それで私これから何をすれば?と言うか元凶の彼を殴る機会は与えられますかね」
「それも含めて君には王城へ行き身体的な検査を受けてもらおうと思う。
医療機関の診断と教会側の診断により判断は王家に仰ぐ事にする」
「まあ身分の証明も出来ませんし…ありがたい、ですね」
「……遅くなってしまったが、私はザイエル・ハイネライゼだ。
この場所に居る間、君はハイネライゼ家を我が家だと思えば良い。
部屋も家具も今日中には用意出来るだろうから、もうしばらく待って欲しい」
「……ありがとうございます、私はカナエと言います。
お世話になりますハイネライゼさん」
差し出された手を取って、今はお互いに深くは聞かない事にした。
気になるトゲは後から後から外して行けばそれでいいか。
ちらりと表情の動かない顔から顔を背けた。
取り敢えずリビングでゆっくりしていなさいと言われて、私は改めて自分の姿を鏡を見る。
黒髪に黒目、平凡な肉付きの身体までそのまま来たみたいだ。
せめて異世界転移するなら色味ヨーロッパ系に変えてくれれば良いものを。
あの娘さん…リンカちゃんだっけ、可愛かったなあ…めちゃくちゃ好みな美少女だったー。
どうせなら転生したら良かったってのに、世の中上手くいかないもんだ。
「……あとは魔法使いの方と話して、私の生き方決めて行かないとだねえ」
なんとなーくイケそうな気はしてるから、先ずは様子見から始めましょうかと週初めのデスクでのルーティンを思い出しながら窓枠に肘をついたのだった。