綺麗で可愛いって正義だな
夢の合間に怒りも焦りも置いて来て、ただ気持ち良く眠ったなと自覚して目を覚ます。
フカフカのマットレスの上に眠っていた様で、こんな快適な睡眠一体どれくらいぶりだろうと泣けて来る。
何度か伸びをして着心地の良い服に着替えさせられているなあと冷静になって思い出してみた。
最後に鹿島の声が聞こえて今まででどれだけ時間が経って居るのか。
あの広い建物の中で男の子と空間を飛んだ?後、取り敢えず吐き出せる物全部吐いた後私は眠っていたと言う事までは思い出せた。
色味、名前、雰囲気的にも恐らく……アレ、だよなあ。
深く唸っていると、コンコンと控えめなノックが響いて「はい」と思わず返事をする。
扉の向こうから「目を覚まされましたか」と幼い女の子の声が聞こえて返事と共に扉を開ける。
すると、びっくりした様に赤い瞳を見開いた彼女が「え?」と言う可愛らしい声を漏らした。
「えーと……初めまして」
「ええ、初めまして……あの、お飲み物と軽食をお持ちしたのですが」
ちらりと廊下に居る数人もが混乱したように苦笑する。
あ、家じゃないんだから部屋の中で待っとけば良かったのかと思い当たって「すみません」と頭を下げると「お部屋の方でよろしいですか?」と聞いてくれたので頷く。
女の子が私と一緒にテーブルについて、私の前には軽食と飲み物を用意してくれた。
「無理なさらず、ゆっくり召し上がって下さい」
「ありがとうございます」
「私の方が年下なんですから、どうぞ気楽になさって下さい」
「…うん、ありがとう。
私はカナエ、君は?」
「リンカ・ハイネライゼと申します。
カナエ様は昨日の夜父が連れ帰ったお客様だと聞いています」
「お父さん?…ええと」
「父は王立近衛騎士団の団員であり、今回は魔塔の監視役としてイベントに立ち会っていたのですが、トラブルがありカナエ様を連れ帰ったとか。
軽食が済み、休憩を挟んだら父の元へ向かう予定なのですが…ご都合いかがでしょう?」
「願っても無いことだよ、自分の現状把握したいし」
「それは良かったです。
お食事は急ぎませんので、もし良ければその間お話しを伺っても?」
「もちろん良いよ」
銀の髪の珍しさたるや。
そして何より幼いながらも整ったその容姿に、迫力に、ただ脅かされる。
昨日話した生真面目そうな人の娘さんかな。
まだ幼そうだけど口調や落ち着きから相当な教育を受けて来たっぽいと推測出来る。
綺麗で可愛くて、理想の女の子って感じ。
「カナエさんの着ていたお洋服なのですけれど、どこのブランドの物でしたか?
申し訳ないのですがまだ洗濯中らしく、特定も出来ず新しい物をご用意出来て居ないのです」
「え?ああ……うーん難しいと思いますよ。
むしろこんな綺麗な服を貸して頂けてありがたいです」
「……そう、ですか…力及ばず申し訳ございません」
「全然!本当に気にしないで!!
寝て起きたらこんなに美味しいご飯食べれて、綺麗な服着せてもらってて……ありがたさしか無いから!」
困った様な顔をしたリンカちゃんは、私の言葉にホッと胸を撫で下ろす仕草をする。
ふむ、可愛い。
ご飯も食べ終わったので早速お父さんと話したいと言うと、頷いて「呼んで参りますね」と席を立つ。
ので、私は「ありがとう」と返したのだった。
リンカちゃんが部屋を出てスグにノックが鳴ったので扉を開けに廊下に出ると、昨日は気付かなかった身長差に焦った。
びっくりした顔は似てるんだよなあと心の中で呟きながら「……今度から扉を開ける場合は誰が来たか確認してからにして頂きたい」と小さくため息を吐かれたので頷いた。